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カーブの効果的な使い方を探る~2022年広島投手陣を例に~

新たに高橋建コーチを招聘し、投手力改善を図った広島の2022年シーズン。
チーム防御率はリーグ4位、守備の影響を除き投手の責任範囲をより明確にした指標tRAにおいてもリーグ4位と、強力な投手陣を作り上げられたとは言えない結果に終わってしまいました。

そんな中、個人的に試合を見ていて気になったのが、カーブで思うようにカウントを取れなかったり、不用意な痛打を浴びてしまうシーンです。
その代表例が森下暢仁で、ストライク率は昨年の58.3%から49.6%へと10%近くの低下が見られ、被OPSも.477から.713へと大幅に悪化してしまっています。

例として森下を取り上げましたが、チーム全体でもカーブの投球割合は12球団トップにも関わらず、Pitch Valueは12球団ワーストと、効果的に使えていません。
ということで、以下では何故カーブが効果的に働いていないのかと、どのようにすればより効果的に使えるのかについて考察を加えていこうと思います。

1.カーブという球種の特徴

まず始めに、カーブという球種はどういう特徴を持つ球種なのでしょうか?

4年前の記事になりますが、こちらの記事を参考にすると、基本的にゾーン内に投じても本塁打を浴びづらい=被長打面で優れているボールという質を持っていると言えそうです。

また同じカーブという括りの中でも、スローカーブと呼ばれる100㎞を切るようなものから、140㎞をも超えるようなパワーカーブ、ナックルカーブと呼ばれるものから様々です。
こちらを整理するために、こちらの記事ではカーブをストレートとの球速比で区切って、その特徴を洗い出しています。

以下上記記事を簡単に要約したものになります。
・球速比の低い遅いカーブは、速いカーブに比べて空振りやファウルは減る一方、見逃しを取りやすい。
・球速比率が低くなる(カーブの球速が遅くなる)ほどフライを上げられやすい。
・球速比率が速くなる(カーブの球速が速くなる)ほどゴロを打たせやすい。

遅いカーブは所謂緩急を使えるボールとなりますが、フライを上げられやすいということは長打リスクを内包したボールになるため、打者をスイングさせないタイミングで投げる必要があると言えそうです。

2.カーブの基本成績比較

カーブという球種の特徴を簡単に整理したところで、次に実際各球団カーブをどの程度使い、機能しているかについて確認していこうと思います。

球団別のカーブ投球割合を見てみると、広島はNPBトップの9.6%と他球団比でも多くカーブを投じていることが分かります。
にもかかわらず、xPVは-8.34でNPBワーストと効果的に機能していないのが現状です。
xPV/100でスケールを揃えるとヤクルトよりは上ですが、それでもNPBワースト2位と厳しい状況には変わりありません。

このような現状を確認したところで、なぜここまで広島投手陣のカーブが機能していないのかを掘り下げていきます。

※xPVの算出については、Namikiさんのnoteを参考にしています。

3.カーブのより詳細な成績比較

カーブを投じた際の投球結果をブレイクダウンしてみると、広島でまず引っかかるのはゾーン率とストライク率の低さではないでしょうか?
ゾーン率44.3%、ストライク率55.2%はともにNPBワーストの数値となっており、xPVの低さには単純にゾーンにボールが行かず、ストライクを稼げなかったという点が大きそうです。

また、カーブでの被本塁打が9本と、一発長打を浴びるシーンが多いのも気になるところです。
遅いカーブはフライを上げられやすい性質を持っていますが、チームの平均球速が116.0㎞と決して速くないように、カーブにスピードのない分被本塁打リスクも上昇しているのかもしれません。

4.速いカーブと遅いカーブで成績比較

ただ平均で遅いとは言っても、極端に遅いカーブを投げる投手が平均値を押し下げている可能性もあるため、実際どのような分布になっているのかは明確にする必要があります。
そこで、ストレートの平均球速とカーブの平均球速の球速比を用い、NPB平均を基準に速いカーブと遅いカーブを区別し、球団別にどのような分布になっているのかを確認してみましょう。

※CS%は見逃しストライク率、BIP%はインプレー打球率を示す

広島の分布を確認すると、速いカーブも遅いカーブもほぼ同じ割合で、遅いカーブの割合の方が多いチームが4チームいることからも、決して遅いカーブの割合が極端に大きいわけではないことが分かります。
加えて被本塁打やISOにも両者の間に大きな差異は認められないことから、カーブのスピード故に被本塁打が増えたわけでもなさそうです。

ただxPVの視点で見てみると両者に差が見られ、平均以下の遅いカーブは-4.41と速いカーブ以上にマイナスを叩き出してしまっています。
決してスイングをもらえていないわけではありませんが、結局ゾーンにボールが来ないために見逃しストライクを稼げないといった事情が、このようなマイナスに繋がってしまっているということです。

5.カウント別成績で成績比較

カーブという球種の特徴の部分で概観したように、遅いカーブの使い方としては、打者がスイングを仕掛けてこないタイミングで投じて見逃しを奪うことが大きな部分になってきます。
そこで遅いカーブを効果的に使えてない広島が、実際どのような使い方をしているのかをカウント別成績で確認していきましょう。

0ボール、1ボール時
2ボール、3ボール時

基本的には0ボール、1ボールといったボールカウントに余裕のあるところで多めに使う傾向にあることが分かります。
空振りを狙えない質のボールで見逃しを取りたいとなると、手出しも必然的に少なくなるカウントに余裕のある場面で多く使うのは自然な流れでしょう。
しかし、どこのカウントを取ってもゾーン率が50%を切るような数値となっていることから、そこでボールがゾーンに来ていないことが分かります。
これによって見逃しストライクが稼げないために優位なカウントで進めない状況にあることが、効果的に機能していない要因と言えそうです。

加えてスイング率が高いのも気になるところです。
遅いカーブは長打リスクが大きいボールで、見逃しを奪うのが用途と考えると、スイング率が高いのは決して良いこととは言えません。
投球割合自体が多い分、打者に反応されやすい側面もあるでしょうから、そこを見直す必要があるかもしれません。

遅いカーブを機能させられている楽天を見ると、被打率や被OPSは高めになっている点に留意する必要はありますが、ゾーン率50%を超えるカウントが多く、見逃しストライクも多めに奪えていることから、その役割は果たせていると言えるでしょう。

6.まとめ

以上で多くカーブを投じる広島投手陣が、なぜそのカーブを機能させられていないかという点に考察を加えていきましたが、一言で表すと「カウントを稼ぐ目的の遅いカーブをゾーンに投じられなかった」ということになるでしょう。

非常に多く投じていたのはカウントを作っていく段階のもので、それ自体は決して悪くないことですが、単純に見逃しストライクを奪う能力に欠けていたと言わざるを得ません。
広島でいうと、森下の他に大瀬良大地、遠藤淳志、玉村昇悟、ケムナ誠らが遅いカーブの使い手に当たりますが、カウント取り用のカーブをゾーンに投じる練習も行う必要があるのではないでしょうか。

最後にカーブのスタッツを向上させるために何が必要なのかを考えると、基本的には速いカーブの方が有利なため、速いカーブを増やすのがより効果的に機能させるための近道のように思います。
上記のように各種スタッツは速いカーブの方が上なことからも、それは明らかでしょう。

ただ遅いカーブが全くダメということではなく、上手く使えればカウントを優位に進められるボールとなります。
今年の広島はかなり投球割合自体も高くなっていたので、使うにしてももう少し投球割合を減らして相手の頭から消すか、見逃しを取りたい若いカウントで変化量の大きいボールをゾーンにスッと入れられる制球力を身に付ける必要があるでしょう。
ただ、闇雲にゾーンに突っ込んでも長打リスクを孕むボールなだけに注意が必要なことも忘れてはなりません。

データ参照


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