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森下暢仁はプレシーズンから何が変わったのか?

広島期待のルーキー・森下暢仁は開幕から先発ローテ入りを果たし、コンディション不良によって戦線離脱することとなってしまいましたが、先発登板3試合で堂々たる投球を披露しました。

初登板となった6/21の横浜戦では、惜しくも初勝利とはなりませんでしたが、7回無失点の好投。続く6/28の中日戦では、惜しくも初完投初完封は逃しましたが、9回途中3失点と堂々たる投球で、見事初勝利を挙げました。

総合指標のWARでは大瀬良大地をも上回る成績を挙げる森下ですが、開幕前の練習試合では2試合連続で炎上するなど不安を覗かせた中でのスタートだったことは忘れてはならないでしょう。
そこからの立て直しという点からも、並のルーキーではないことがよく分かると思います。

そんな森下ですが、練習試合の投球から一体どのような変化が生じて、開幕後の好投に繋がっていったのかについて、以下にて解き明かしていきます。

1.プレシーズンの成績

まずはプレシーズンの投球を振り返り、どこに課題があったのかについて整理していきます。

1-1.基本成績

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OP戦も含めたプレシーズン5登板の基本成績を見ると、6月の練習試合での炎上が響いて防御率6.66と散々な成績に終わっています。
ただK%23.6/BB%7.9は昨年の先発投手のリーグ平均を上回る水準で、ルーキーながら支配力の高さは見せ付けていました

1-2.打球性質、Plate Discipline

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打球性質やPlate Disciplineデータに踏み込んでみると、どちらかというとゴロ系の投手で、空振り率12.2%は昨年のリーグ平均以上と空振りを奪えるボールを投げ込んでいることが分かります。
一方で、ボール球スイング率は平均を下回り、ボール球をいかに振らせるかという課題も残しました。

1-3.球種別投球成績

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続いて球種別成績を見ておくと、平均球速147.0㎞を誇るストレートは被OPS.938と滅多打ちに合いました。回転数が多く球質的にはそこまで悪くなさそうですが、ここまで打たれてると何かしらの改善は必要だと言えそうです。
落差は大きくないものの、打者からするとボールが来ないようなチェンジアップも、空振り率は高い一方で浮いた半速球気味のボールを痛打されることも多く、こちらも被OPS.916とよく打たれています

森下自身が最も得意と語るカットボールは、空振り率16.3%/被OPS.542と機能しており、森下の持ち球の中でも軸として機能しそうなボールです。
森下の代名詞として語れらがちな縦割れのカーブですが、最も投球割合は低く、ストライクを取れないシーンも散見されました。使い方としては、決め球というよりもカウント球として使用されるイメージです。

1-4.左右別投球成績

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打者の左右別成績については、被OPSを見るとどちらも.800を超えており、得手不得手はあまり見えてきません。
しかし対左打者のK%が対右打者時よりも低下しており、若干左打者の方を苦手にしていると言えそうです。

1-5.コース別投球成績

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コース別の投球成績を見ると、ストレート右打者には両サイドに投げ分け、左打者にはアウトコースへの投球が多いようです。ただ左打者の真ん中のゾーンにボールが吸い込まれ痛打を浴びるケースも多く、右打者ほど投げ分けができていない様子が窺えます。

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得意のカットボール右打者のアウトコース、左打者のインコースに極端に投じられています。きっちり真ん中から低めにコントロールされたボールは被打率は低く、ここにコマンドできるかどうかがカギになりそうです。

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カーブ高めに抜けるケースが多く、あまり制球はできていないようです。特に右打者に対してその傾向が顕著で、カウント球で使うためにもう少しストライクゾーンにボールを入れたいところです。

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チェンジアップアウトコースや低めに多くのボールをコマンドできていますが、高めに抜けたボールは痛打されるケースが多いため、コマンドには注意が必要でしょう。

1-6.カウント別投球割合

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最後にカウント別投球割合を見ておくと、右打者に対してはまずカットボールやカーブでカウントを稼ぎ、最後は得意のカットボールの割合は減少し、ストレートやチェンジアップを決め球として活用するケースが多そうです。

左打者に対しては、カウント球でも決め球でもチェンジアップを使うケースが多い点が特徴的で、その分カットボールやカーブの割合が減少しています。

全体的にはどのカウントでもストレートを投じることが多く、もう少し変化球を使えれば投球が楽になったのかもしれません。

最後にプレシーズンに出た課題をまとめておくと、以下のようになります。

・ボール球をいかに振らせるか
・痛打を浴びるケースの多かったストレートとチェンジアップの改善
・やや分の悪い左打者対策
・画一的なコース分布や高めに抜けがちなカーブのコマンド
・決め球まで被打率の高いストレートで押していく配球

2.シーズンイン後の変化

上記のように多くの課題が生まれたプレシーズンでしたが、シーズンイン後はどのような変化が生じているのでしょうか?
それぞれの課題に対して、その変化を以下にて確認していきます。

2-1.基本成績

課題に対する変化をさらっていく前に、まずは基本成績から振り返っておきます。

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20.2イニングを投げ、イニングを上回る21奪三振を記録し、防御率も2.18と文句のつけようのない成績を収めています。
プレシーズンの炎上から見事に立て直したことが分かる成績です。

2-2.ボール球をいかに振らせるか

ここからはプレシーズン生まれた課題について、どのような変化があったか確認していきます。
まずはボール球を振らせることができなかったという課題の変化についてです。

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打球性質やPlate Disciplineデータを見ると、ボール球スイング率は27.7%とプレシーズンから向上しているものの、リーグ平均の29.0%を下回る数値となっています。

ですので、プレシーズンからボール球を振らせることができるようになってはいますが、リーグ平均を下回っているあたり、まだまだ向上の余地を残している部分と言えそうです。

2-3.ストレートとチェンジアップの改善

続いてプレシーズンで打ち込まれるケースの目立ったストレートとチェンジアップについて、何か改善があったのかを確認していきます。

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球種別成績を見ると、ストレートの被OPSが.938→.694、チェンジアップは.916→.343と成績の改善に成功しています。

ストレートは3登板目にコンディション不良や降雨の影響で大きく球速を落としてしまいましたが、2登板までの平均は150.2㎞を記録しており、球速を大きく上げることが成績の改善に繋がったことが窺えます。
また若干投球割合も減らしており、ストレート偏重気味だった配球の変化も一因と考えられそうです。

チェンジアップは空振り率こそ落ちていますが、ストレートの球速向上により、ストレートとの軌道差を利用するチェンジアップがより生きるようになったことや、高めに浮くケースが減りしっかりコマンドできるようになったことが要因としては考えられます。

以上より、元々速かったストレートの平均球速を更に上げるアプローチをとることで、各球種の成績を向上させることに成功したと言えましょう。

2-4.左打者対策

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やや分の悪い左打者については、シーズンイン後の対左打者成績を見ると、対右打者よりも対左打者の方が被OPSでは良い成績を収めていることが分かります。

この要因として考えられるのは、左打者に対して球種割合を変えたという点が大きいのではないかと推察します。

上記球種別成績では、プレシーズンではストレートが46.1%と最も多い投球割合であったのが、シーズンイン後はカットボールの割合を大きく増やし、22.7%→40.0%までその割合が増加しています。
特にこのカットボールを、外から曲げてゾーンに入れる「バックドア」と呼ばれる使い方でカウントを稼ぐケースが、新たなパターンとして加わりました

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コース別のカットボールの分布を見ると、シーズンイン後は明らかに左打者の外に投じるケースが増えており、それまでインコースにしか使っていなかったカットボールの幅が広がったことがよく分かるかと思います。

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加えてシーズンイン後のカウント別投球割合を見ると、全体的にカットボールの割合は増えていますが、中でも0ストライク時のカウントを取るところで53.6%も投じられています
自信のあるカットボールをカウント球で投じることで、カウントが稼ぎやすくなり、より優位に打者との対戦を進められるようになったのかもしれません。

以上より、「バックドア」という使い方がひとつ増えたことで、カウント作りが楽になったり、その他にストレート/チェンジアップと選択肢のある外のボールへの対応が難しくなり、成績向上に繋がったであろうと推測できるのではないでしょうか。

2-5.画一的なコース分布やカーブのコマンド

カットボールで目立った画一的なコース分布ですが、カットボールは上記のように「バックドア」の活用で幅を広げました

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またカウント球で使うカーブについて、プレシーズンでは高めに浮いてカウントを稼げないケースが多かったですが、シーズンイン後は真ん中から低めのゾーンに制球できているようです。
カーブでカウントを稼ぐことができるようになったことも、投球の幅を広げることに繋がったのかもしれません。

2-6.決め球までストレートで押していく配球

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最後に決め球までストレートで押していく配球ですが、これもカットボールをカウント球で使用するようになったと上述したように、特に対左打者時のカウントの取り方がカットボール主体に変化しています。
そのため、2ストライク時にストレートの割合が高いのは変わっていませんが、よりストレートが生きる配球になっていることは言えそうです。

対右打者には、相変わらずストレート多めながら、1ストライク時のバッティングカウントにおいて変化球の割合を増やしており、打ちにきたところで打者のタイミングを外してカウントを稼ごうとする意図を感じられます
また森下のカットボールは縦にスッと落ちていくボールで対左打者に特化したボールではないため、決め球のところでもう少し割合を増やすと、もっと簡単に右打者を打ち取れるかもしれません。

3.まとめ

・ボールの質やフォームを弄るのではなく、単純にストレートの平均球速を大きく向上させることで、打者のストレートへの対応を悪化させ、変化球にも相乗効果が生まれた
・対左打者には「バックドア」のカットボールの活用で投球の幅が広がり、容易にカウント稼ぎができるようになったり、ストレート/チェンジアップとの相互作用で大きく対戦成績向上
・カーブのコマンドが落ち着き、ゾーン内に入るようになったことでカウント稼ぎが容易になった
・カウントを取る局面で変化球を活用することで、決めにいくストレートがより活きるようになった

プレシーズンに出た課題に対する改善をまとめたものが、上記の通りとなります。

このようにしてプロの打者に立ち向かっていった森下ですが、上述のように前回登板でコンディション不良を訴え、登録抹消となってしまいました。

ストレートの平均球速150㎞と非常に速く、いかに合理的なフォームであるとはいえ細身の身体にかかる負荷は相当なものであると考えられます。
今回のコンディション不良による離脱も、この平均球速の大幅な向上が遠因と言えるかもしれません。
となると、将来を考えても球数をある程度制限しながら起用していくのが良いのではないでしょうか?

今回のコンディション不良が大したものでないことを祈りつつ、このような離脱を引き起こさせないための防止策を徹底してもらいたいものです。

データ参照:1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx) 

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #森下暢仁


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