我が家の庭の風景 part.91「濃霧」
10月10日を過ぎると、朝霧が深くなった。
水道水がぬるく感じると、霜が降りはじめたと気づく。霧と霜の違いはよくわからない。
我が家は井戸水から水道水をひいてあるので、気温が下がると水道水の方が暖かく感じる。これが夏なら逆だ。
しかし、12月になれば水道水は凍る危険がある。ちょっとだけ水道の蛇口を開けて寝なければならない。東北だけでなく、九州の山間地も冬はずいぶん寒い。特に我が家は盆地だから、雪が降るか降らないかぐらいしか東北の気候と違いはないかもしれない。
真夏の猛暑には外の道水が熱されるので、しばらく水(お湯)をホースから出してから、作物に水を与える。そのまますぐに水道の温水を与えたら植物たちは大火傷だ。
冬になると早朝に水まきはできない。水道の水はいつも凍っている。
10月から3月まで、あるいはもっと年間200日近く朝霧に覆われる土地だ。30年前は、この時期は昼過ぎまで霧で世界は真っ白だった。子どもの頃、体育の授業はいつも霧の中。
持久走大会は街道が霧に覆われているので大人も一緒に走り、要所には必ず人が立って誘導していた。事前にコース確認の練習もあったかもしれない。
一度だけ雪で中止になった時、準備されていたお汁粉は食べたような気がする。走り終わると身体はあったまっている。それでも冷たい朝霧の中で食べるお汁粉は身に沁みた。
「持久走大会であずきとお汁粉が平気になった」というクラスメイトもいたくらいだ。
甘いあずきを平気にしてくれたのは、10キロ走った疲労ばかりでなく、冷たい朝霧ではなかったかと思う。
白い景色の中で白い息を吐きながら、白玉の浮いたお汁粉を食べるのがなんとなく風情があった。
大人たちはジャージで子どもたちは半袖半ズボンの体操服。
走る間も応援の声が聞こえてくるまで、視界は白く烟っていた。ぼんやり見える景色の変化が楽しかった。田畑と黒い影を落とす四方の山々と。
好きでも嫌いでもなかった持久走大会。
早朝に朝霧の中で庭に鍬を立てていると、ひんやりとした朝霧が心地よく漠然と子どもの頃の記憶が思い起こされる。