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「窓辺の猫」第三十六回 美しい気配

逆光。
そこに浮かぶ猫の色は、全て黒。
稀に逆光に浮かぶのが白い毛の猫だ。
白い腹毛がファサファサと音を立てたのか。
私は窓辺に倚る前に猫の気配に気づいた。
灰縞の腹毛の猫は雄なので二毛だ。三毛ではない。
ほとんど白い長毛のニ毛の母猫も黒い頭に雪がちらほら降り積もっている。
真っ白に塗りつぶされそうだ。
番の二毛の間に蔵の中に打ち捨てられている毛布に寝そべっていた子猫たちが、飛び込んできては、人間の気配に気づいて飛び去って行った。
情け容赦ない雪である。
賢いニ子と愛情深い二毛の命を奪うかもしれない。
逆光は月明かりではない。
隣家の窓から漏れる灯りだ。
なぜ暖かそうなその光に惹かれないのか。
我が家の冷たい窓辺に倚るのか。
帳が落ちれば、実は他に棲家があってそこに帰るのだろうか。 

嗚呼。
私の業はどれだけ深いのか。
私の手に余る命が軒下に雪宿りしている。
ゆきずりの仲ではない。
昨日もその前もそこにあった。
なすすべもなく、縋っているのはその親子たちなのか。
或いは、私なのか。

夕方の曇天。
隣家の灯り。
雪は霙に変わり、また雪になり音もなく帳が落ちても窓を叩いた。

これ以上ない南に住めば、美しい白の気配に怯えずにすむだろうか。

夜にも外は冷たく、雪が止んで寒い。
心細い私の膝で安心して三毛が寛ぐ。
母を知らない三毛は、冬空の下を歩いた事はほとんどない。
梅雨の冷たさに露と消えようとしていた命が、頼りないひと掬いに救われた。
家猫の三毛。
あれがなかったなら。
あれながなければ。

今をどう思うべきだろうか。
白い気配は過去のものか、外にあるか、あるいは頭上に未来を暗示しているのか。

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猫様とごはん
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