【読書】「100km!」片川優子
愛知県で毎年開催されている「三河湾チャリティー100km歩け歩け大会」を舞台にした小説を読みました。あとがきに、著者が実際にこの大会に参加して「ものすごい衝撃を受けたので、思わず書き下ろした」と書かれているように、140ページとすいすい読み進められる物語は、臨場感のあるものでした。
2019年で第24回を数えたこの大会は、七福醸造という愛知県で白醤油・白だしを製造する会社の社員教育の一環として始まったそうです。現在も七福醸造が主催しています。制限時間は30時間。小説「100km!」は、ちょっといい加減な叔父から勝手に大会参加の申し込みをされた高校1年生の女の子・みちるが、全くやる気もない中で出場を辞退することもできずに歩き始める、という設定で始まります。みちるは自分に自信がなく、中学校時代の校内マラソンでもビリになっているような女の子。「完歩は絶対無理」と思いながらスタートするみちるでしたが、途中でいろいろな人に会いながら、少しずつゴールを目指そうという気持ちになっていく…という話です。
途中で心温まるエピソードがいくつかありますが、いちばん印象的だったのはボロボロになってたどり着いた60キロのチェックポイントでボランティアのおじさんに足のマッサージをしてもらっている場面でした。この大会はボランティアも費用を払って参加する仕組みになっているそうなのですが、そこまでして参加したおじさんが、みちるをマッサージしながら「わしが今四十キロ歩けるようにしてやるから、あんた絶対完歩しなさいよ」と言葉をかけます。このチェックポイントでのリタイアを考えていたみちるは、その言葉とマッサージに後押しされ、まだ先に進むことを決めるのです。
この場面、著者自身もしくは著者が話を聞いた他の参加者が、同じような経験をしたことがあるのではないか、なんて感じながら読みました。私も平凡な市民ランナーながら、大会で見ず知らずの人から応援の声をかけてもらえることのありがたさと、それを聞いて実際に力が湧いてくることを何度も経験しています。速さを競うのではなく、精一杯歩き続ける人がいて、それを心から応援する人がいる ー この本を読んで、「三河湾チャリティー100km歩け歩け大会」はとてもいい雰囲気の中で行われている大会なのだろうと強く感じました。
私は、100kmのウルトラマラソンに参加したことはありますが、この距離のロングウォークをしたことはありません。どちらもそれぞれに自らの限界に向き合う機会が何度も出てくるのでしょうが、30時間近く歩き続ける(時速4kmで休まず進んでも25時間)というのは、朝スタートしてその日の夜にはゴールする100kmマラソン(制限時間は14時間ということが多い)とはまた違ったつらさがあるのだと思います。そんな100kmウォークにも挑戦してみたいなと思わせられる1冊でした。
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