潮風に包まれて歩く旅|みちのく潮風トレイル・石巻市(前編)
いま、「みちのく潮風トレイル」がおもしろい
1週間かけて旅をするのはひさしぶりだった。
今回は、山歩きと街歩きのmix。なので、いつも通りザックに山道具を詰めていく。
春の東北は、肌寒そう。荷物の取捨選択に自信がないまま、とりあえずのパッキングが完了した。
旅の行き先は、宮城県石巻市。
5年前に開通した「みちのく潮風トレイル(MCT)」の一区間を、歩いて旅しようと思う。
MCTは青森県八戸市蕪島から福島県相馬市松川浦まで、全長1000kmに及ぶロングトレイル。その道が「おもしろい」とハイカーの間で話題なのだ。
どんな魅力があるのだろう。MCT歩きに"ハマってしまう"ハイカーが続出していると聞くが、それは何故なのだろう。
好奇心を抑えきれなかったわたしは、ハイカーを虜にしてしまうと噂のトレイルを体感すべく、旅の計画を立てることにした。
この記事は、「わたしも、長い距離を歩いてみたい」と憧れる全ての人に向けた書いた、みずみずしい豊かさの記憶である。
みちのくでの「出逢い」
「こっこ屋」のばぁば
「なんでこんなに助けてくれるんですか?」
唐揚げ弁当を頬張りながら、思わず聞いてしまった。
旅を始めて6日目の日。石巻市北上町にある唐揚げ「こっこ屋」で、大盛りの唐揚げ弁当を食べていたときのこと。
「こっこ屋」店主のばぁばが、あまりにも優しくもてなしてくださるので、わたしは涙が出そうになっていた。
「そこに、わたしの想いが書いてあるのよ」
ばぁばが教えてくれた。壁には、過去に取材を受けたときの新聞記事が貼ってある。そこには、ばぁばの「歩き旅をする人を大切にする理由」が綴られていた。きっかけは、ばぁばのお母様からの教えなのだそう。
壁のボードには、ハイカーたちからのメッセージの寄せ書きがあった。愛のある言葉がたくさん。それだけで、ここを通過したたくさんのハイカーたちが、心地よい時間を過ごしたのだと伝わってくる。
「お帰りなさい」と迎えてくれるばぁばの愛に、ハイカーたちは癒され、エネルギーが満タンになる。もちろん、例外なく、わたしもその1人だった。
その先の舗装路歩きが心地よく感じられたのは、風景が素晴らしかったことはもちろん、「こっこ屋」で過ごした時間に心と体が満たされたからなのは、言うまでもない。
雄勝半島のこころ強いサポーター
ここまで歩くにあたり、手厚いサポートをしてくださった方がもう1人いる。ハイカー向け民宿「m.s.s.books」のオーナー・地現さんだ。
1日中悪天候が予測された日、地現さんに連絡を取り、友人と共に宿に駆け込んだ。
宿は、石巻市女川町から北上し、石投山を越えた麓にある。地現さん自身もハイカーだ。MCTもスルーハイク(※)されている。
地現さんがMCTを歩いたとき、泊まる場所がなくて苦労したのが、ここ雄勝半島だったそうだ。そのため、宿をすると決めたとのこと。今は、ハイカーの宿泊受け入れだけでなく、駅やトレイルまでの送迎もしてくれる。
「ここならテント張れると思う」と、テント泊ができそうなポイントを、いくつかアドバイスしてくださった。また、この辺で食料が調達できるなど、地元の人ならではの情報がとてもありがたい。
トレイルを歩くために、地図とデータブックは持ち歩いている。けれど、MCT開通から5年の間に街はアップデートし続けている。まだ地図上に更新されていない情報が多くあることを、実際に歩いてみてわかった。
だからこそ、地元の人から情報を得られることがとても尊い。
地現さんから、数々のロングトレイルを越えてきた「いま」のお話を聞けたことが、とても嬉しかった。
世界には数多くのロングトレイルがある。踏破するのに数か月かかるところが少なくないが、それでも挑戦する人が後を絶たない。
今回みちのくの旅を共にしている友達の1人も、この旅を終えたら海外のロングトレイルを歩きに行くと言う。
海外の楽しそうな写真はSNSでたくさん見るけれど、経験者の話を聞いていると良いことばかりではなさそうだ。
例えば、ロングトレイル歩きを終えた後、"社会復帰"ができない人々が少なくないのだとか。仕事はしていたとしても、どこか鬱々とした時間を過ごしている印象だと伺った。
確かに、わたしにも心当たりがある。数年前、初めて4泊5日かけて縦走登山をした。それを終えた後、日常生活での様々な"違和感"に気づいてしまい、悶々とした時間を過ごした。
鬱々とした感覚に、「重さ」と「軽さ」はあると思う。いずれにしても、ロングハイキングと社会生活の狭間で揺らぐ経験は、長く歩く旅が好きな人にはあり得るのかもしれない。
その「揺らぎ」から、"わたしなりの着地点"に辿り着くことが、いま目指す在り方だなぁと感じた。長い旅を終えた後の体験でこそ、”一皮向けた自分”になれそうだ。
今までのハイカーたちへの感謝
この他にも、バラエティー豊かな出逢いに恵まれ、心温まる時間を過ごした。それについては、また別途「出逢い編」にて綴ろうと思う。
今回MCTを歩く旅が叶えられたのは、数えきれない方々のサポートあってのこと。でもこれだけサポートしてくれる方々がいたのは、ここを初めて歩いたハイカーが良い人たちだったからではないかと思った。
海外で日本人が信頼されているように、この道を歩きやすくしてくれているのは、過去5年の間にここを訪れたハイカーたちのおかげなのではないか。そう思ったときに、とても身の引き締まる想いがした。
地元の方々が親切にしてくれること、サポートしてくれることが当たり前ではないし、そこに甘えるのは違うと思う。
気持ち良い交流があるからこそ、支え続けてくれるのではないか。
だから、これからMCTを歩く人たちにはマナーと責任とを持って歩いてほしいと感じた。その気持ちが、これからも温かいMCTであり続けてくれることに繋がると思う。
(後編に続く)
いつも楽しく読んでくださり、ありがとうございます! 書籍の購入や山道具の新調に使わせていただきます。