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固くならないくらいが、ちょうどいい

食パンに塗る蜂蜜がなくなったので、みりんを煮詰めることにした。みりんを煮詰めて水分を飛ばすと、シロップになるらしい。

先日、ラオスのスーパーで梨のような果物がカット売りされていたので購入した。けれど硬くてパサパサしていて、美味しいと言えたものではなかった。

この国で売られているスイカ、ドラゴンフルーツ、マンゴーなどは、どれも甘くて美味い。ここで暮らして数ヶ月経つが、果物でハズレたのは初めて。

しょんぼりと肩を落としていたのも束の間。みりんシロップなるものを試してみたらいいじゃないかと閃いた。

みりんを煮詰めて水分を飛ばすと、とろみが生まれる。それが「みりんシロップ」だ。みりんは、もともと甘い高級なお酒として親しまれていたが、調味料として使われ始めたのは明治時代からなのだそう。


梨のような果物(正式名称がわからない)を小鍋に入れて、みりんを「とぽぽ‥」と注いでいく。で、ぐつぐつと煮立てて甘露煮にしたところ、うまくいった。

梨(で、いいか)は表面が艶やかで、フォークで2つに切り分けることができるくらいのジューシーさになった。またべっこう飴のような、ほのかに香ばしい甘さがいい。なので、今回もみりんに頼ろうと思う。

100mlのみりんを、フライパンに入れて火をつけた。しばらくすると、小さな泡がぶくぶくしてくる。さらに煮詰めると、泡が大きくなった。激しく泡立つみりんの量が、当初の量の半分くらいになったところで、火を止める。

まるで、べっこう飴だ。黄金色で、つやつやしている。でも、固くならない程度がいい。その粘度は、液体以上、油未満。パンに塗りやすい質感に仕上がった。

そうこうしている間にお湯が沸き、ペーパードリップでコーヒーを入れる。コーヒーの産地は、もちろんラオス産。日本であまり見かけることはないけれど、ラオスはコーヒーの産地。このコーヒーが、毎朝の楽しみのひとつである。

スーパーで売っているコーヒー豆は、なんでも美味しいです

どれくらい楽しみなのかというと、夜布団に入ったとき、翌朝コーヒーを飲む瞬間のことを妄想して寝たことがあったくらい。ハンドドリップでお気に入りのラオス産コーヒー豆で1杯入れる時間はほっと緩む時間で、好き。

だから、あまり朝起きるのが遅くならないように。そんな意識も芽生えるのだった。

あっ。

テーブルの上に置いていたテッシュの箱から向かって右側に、小さなヤモリを発見。

これは、トッケイヤモリというらしい。「トッケイ」と、はっきり鳴く。その特徴的な発声は驚くほどボリュームがあり、発音がめちゃくちゃキレイ。「ウゥー‥、トッケイ…、トッケイ…」と、夜によく鳴くのだ。

そうそう。トッケイヤモリのせいで、朝、心臓が止まりそうになったことがある。寝ぼけ眼に冷蔵庫を開けた瞬間のこと。

ボトッ‥!!


音の鳴るほうを見ると、トッケイヤモリが冷蔵庫のドアポケットにいる。冷蔵庫は小型で2ドア。上段と下段のドアの隙間が温かくて、多分その隙間で寝ていたのだろう。わたしがドアを開けたので、トッケイはドアポケットに落下した。

バタバタバタバタ!!!


暴れている。

ビジュアルが悪いわけではないけれど、さすがに直接触れたくないし、突然のことで、わたしも動揺してる。あまり覚えていないけれど、このときは新聞紙を使って助けてあげた気がする。

隙間や物陰に隠れがちなトッケイヤモリ。それが、いま目の前にいる。たぶんトッケイ的にはピンチな状況だ。

さて、どうする。
相手は、微動だにしない。

トッケイヤモリの心情を察しつつも、今はわたしにとっては至福時間である。「すまんな」と思いながらコーヒーをすすり、出来立てのみりんシロップをパンに塗るなどして、モサモサと食事を始めた。

そのうちに、どうしてもテッシュが1枚欲しくなったので、トッケイの隣にあったテッシュケースを、そっと移動させた。
すると、「パタッ…」。

トッケイの腕が、動いた。

互いに緊張感が走る。

この瞬間、幼き頃に遊んでいた「氷鬼」のことを思い出す。トッケイ目線でいくと、わたしが鬼で、数を数えている役。

どうでもいいことを考えている隙に、トッケイは柔らかに体を動かしながら、素早く10時の方向へ去っていった。

ふりふりと揺れるシッポを眺めながら、固くなっていては、前には進めないと思った。

思考も体も柔らかく。
そうすれば、新しいアイデアが浮かぶだろうし、"逃げどき"を見つけることもできる。
だから、固くならないくらいが、ちょうどいい。

ちょうどいい固さのみりんシロップを食パンに、たらりと垂らした。ささっと塗り広げたら、パクッとかぶりつく。カリッ鳴る音を聞きながら、むしゃむしゃと頬張った。



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侑子 ︴わたしの山と旅時間✎𓂃
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