個展をやるのは夢じゃなかったが、父の初盆から夢になった
アート展『きりあと』(10月15〜20日開催 渋谷)は切り絵画家の八田員成氏とのコラボだが、私の写真を切り絵にする企画で、その原画になる写真と切り絵の両方を展示するから、私が「個展やります」と言っても八田氏が激怒する事はないでしょう。コラボ個展と口にしてますよ。
先日、芸プロの宣材撮影を頼まれた時に、
「前のカメラマンはどうしたんですか」と訊ねたら、
「芸能界が嫌になって辞めました」
とのこと。
私が写真の個展をやらなかったのも、これです。
写真仲間と絶縁し、大物写真家と同じモデルは回ってこなくなり、しかし、私は当時ベストセラー連発の作家。
「なんで芸能界の連中にペコペコしなきゃならねえんだ。奴らなんであんなに偉いんだ」
強い憤りばかり感じて、カメラを置いた。
約10年後。
コロナ禍の前にタイに行ったら、タイの少年少女の笑顔が眩しくて、
「ちゃんとしたカメラを持ってきたら良かった」
と後悔。
帰国後、すぐに『本を読む女』の女子と出会い、カメラを再開した。
彼女はインスタでブレークしたが、公の場に出られない事情があったから、個展なんか考えもしてなかった。
彼女が専属モデルを辞めた後は、一人のモデルさんを集中して撮ることはなく、ポートレートの個展なら、モデルさんの在廊があった方がいいから、やはり、「個展をやりたい」と思うことがなく、月日は流れた。
父が重い病気になり、高齢とは言え看護が大変で心底疲れた私は、すでに企画が上がっていた『きりあと』は、ワクワク出来たらいいな、と光を探すように期待するようになってきた。
専属モデルのきくちはなさんを撮り終え、後は切り絵が出来れば、ギャラリーに作品を搬入するだけの段階にまできた。
有名な人から、「予定が合えば行きます」とメールが何件か来ていて、
「個展開催って楽しいのかも知れない」
と改めて思った。
父が亡くなり、アートにも写真にも興味がなかった父が天国から見ても何も感じてくれないだろう。ただ亡くなる前に認知症になり、暴れまくった父との怒鳴り合いが、ほぼ最期の会話だった事もあり、
「寂しい別れだった。バカ息子の作品展、喜んでくれるかも」
と一ヶ月前の初盆の時に、なんとなく考えていた。
父の孫になる私の息子が、私が撮影したこの写真が大好きで、「きりあと、観に行くよ」と言ってくれて、また嬉しくなってきた。
私の写真には興味がない私の本の読者も付き合いで来てくれるだろうし、四年ぶりのファンとの交流も楽しみです。
名刺を持ってきて、昔みたいにファン同士で名刺交換をすればいい。新しい出会いから、人生は変わるもんだ。
私のファンの人、八田氏のファンの人、きくちはなのファンの人、アートや写真が好きな人、拡散をお願いします。
里中李生