誰にも相談できない怖さ #『許されようとは思いません』感想
「許されようとは思いません」
大人は、常に許されたいと願っているはずだ。ミスしても怒られたくないし、上手くいかなくても褒められたい。私もその一人だ。だから『許されようとは思いません』という小説のタイトルに、私はすごく惹きつけられた。
この小説には、5つの短編が入っている。常に成績ビリの新人営業マンが成績を伸ばしたと思ったら、誤って本来の注文の11倍発注していた話、売れっ子の子役と面倒を見る祖母の話、夫と子が目の前で死んだ画家の話、そして「村十分」にされた祖母の納骨のために村を訪ねた青年の話……。
正直どれも救いようがなく、ハッピーエンドは1つもない(と感じた)。普段は取り繕っている人間の闇が描かれており、その闇から不気味なミステリーが生まれている。どれもあり得ないようであり得る話で、怖いと思いながら夢中で読んでいた。
その中で一番印象に残っている短編が「姉のように」だ。
「姉のように」が一番リアルで怖い
あるとき、姉が逮捕された知らせを受ける。大好きだった姉の逮捕に、主人公は動揺した。夫の態度は冷たくなり、関係はギクシャクし始める。仲のよかったママ友から遊びに誘われても、「財布がない」とあるママ友が言った途端に全員の視線が自分に注がれる。母は憔悴しきって新興宗教に心を寄せていた。
そんなタイミングで、小さな娘が反抗期に入った。父親には懐くのに、自分の言うことは聞こうとしない。一生懸命作った料理は手で払われ、ひたすら泣き続ける。一時保育に預けようとしても、夫から反対されて逃げ場がない。もう誰にも頼れない……そうなったとき、つい娘に手をあげてしまう。
身内の逮捕後も、変わらず接してくれる人はいるのか?
どんな人間関係も相対的だと思う。状況が変われば、相手の感情や態度も変わってしまう。
身内の逮捕はめったにある出来事ではない。でももし起きてしまったら、「あなたと身内は関係ない」と心から思って、変わらず接してくれる人はどれくらいいるんだろう、、、。
1人でいるのが好きだけど、この小説を読んで「誰にも頼れない」状態の恐ろしさを感じた。周りに頼らないと、自分だけが辛くて苦しんでいる気がする。自分だけが上手くできていないと劣等感にうもれる。そんな苦しさを自分でため込んで、追い詰められて虐待や犯行に手を出してしまう。
人に相談するのが苦手なわたしは、この小説が一番ずしっと心に重くのしかかってきた。
本当に大事な人のそばに
人生、本当に何があるか分からない。完ぺきだった夫が明日から別の女性と駆け落ちしてしまうかもしれない。小説のように、家族が逮捕されてしまうかもしれない。務めている会社が恐ろしい犯罪に手を染めているかもしれない。
もし何かピンチになった時のために、自分の周りには本当に大事な人がいるようにしたい。きっとこの人なら「あなたはあなただ」と言ってくれて、味方になってくれると思える人。
何となく情で付き合い続ける人は、きっとピンチの時には自分を苦しめる人間へと変わってしまう。本当に、本当に大事な人を選んで、その人たちと一緒の時間を過ごすのって本当に大切だなーと感じた。