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【書評】『アメリカン・タブロイド』ジェイムズ・エルロイの狂気の60年代
個人的に、”ノワールの帝王”ジェイムズ・エルロイの最高傑作はこの『AMERICAN TABLOID』になる
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物語は冒頭から3人の主人公の片側3車線で始まり、自身の栄光と理想を追い求めながらも、嘘と裏切りを積み重ね、そして殺人を犯しながらも60年代のアメリカの、巨大な政治と犯罪の迷宮を彷徨い始める
中盤から3車線が一気に合流―ぐるぐるまわるような、熱に浮かされるような奔流に押し流されー
”おれたちの夢は裏切られた―”
立場と状況が異なる3人の男たちは、その巨大な暗い迷宮の果てで絶望に空を仰いだときに
”アメリカ史上最大の殺し”に向かって疾走を始める―
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エルロイ特有の、コンマやスラッシュを多用した楽譜のような特異な文体が異様な熱とリズムを生み出し
登場人物たちはさながら”暗黒の交響楽”を奏で、そして歴史の裏で陶酔し、破滅していく・・・
実在の人物も大胆に登場し、ジミー・ホッファ、J・エドガー・フーバー、ハワード・ヒューズ、カルロス・マルチェロ、サム・ジアンカーナらが3人の主人公たちの傍らに高級スーツに身を包んでポケットに手を突っ込んで立ち、声を潜めて彼らに囁く
―”歴史はもう少し速度をあげていい”
―”歴史を動かしてこい”
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未だ迷宮入りのJF暗殺
もしかしたら本書のような歴史の裏で暗躍した男たちがいるに違いないと思わせる、迫力と陶酔の一冊
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