【書評】『鏡地獄』、江戸川乱歩の錯乱の世界
1926年に江戸川乱歩が上梓した短編小説ー『鏡地獄』
語り部『K』の友人、『彼』には異様な嗜好があった
レンズで眺めるミクロの世界に次第に、そして異常に傾倒していき、ありとあらゆるものをレンズで眺め・・・学業は疎かになる一方
『彼』はそんなことは全く気にせず、ただ、瞳だけが異様にギラついている
次第に『鏡』に魅了されていき・・・広大な邸宅には、無数の鏡が迷路のように並びだす
女中を凌辱しては、その姿を鏡越しに何かに取り憑かれたように眺め、ときに呆け、『K』に語り掛ける
ー”彼女のまるで海獣のような肌の弾力もいいが・・・彼女の本当の魅力は・・・鏡に映し出された深い陰影にこそ・・・”
無数の鏡の前に全裸で立ち、鏡像の中の自分自身に
果てしない自問自答を繰り返す
”鏡の中のおれは、本当のおれなのか。それともー”
ついには邸宅の庭に『工場』を作らせ、特注で作らせた『全面鏡張りの球体の中』に入りー
『K』が様子を見に庭に入ったときに、その『球体』の中から、『彼』の発狂した笑い声が聞こえてくる
その声は壊れ・・・
その後、狂い死にした『彼』に思いを馳せながら、『K』は独白する
ー”あるいは人間が触れてはいけない、魔界の美なるものに『彼』はー”
江戸川乱歩が残した異様極まる怪異譚の名作ー『鏡地獄』