ニャムニャム食堂 大阪市でたった一軒のカンボジア料理店
濃ゆいお店手帳VOL.1 ニャムニャム食堂
~大阪市でたった一軒のカンボジア料理店~
インタビュー日:2019年12月
常連客「テルミンの人柄と作り出す料理がツボなんだよね。
それは、現地でちゃんと勉強してきたキャリアに裏づけされた実力を持ちながら、テルミンの熱いパワーが心地良いんだよね。
その辺りがまた行きたくなる理由なんやと思うなぁ。」
ここは、日本一背が高いビル「あべのハルカス」のたもと、大阪天王寺駅周辺。
ここ阿倍野区は、戦後に焼け残った建物がいまだ現役で、大通りにはチンチン電車が走り、新たに建てられた数々の商業施設で賑わいを見せる大阪市で3番目の都会である。
そんな新旧入り混じった街に今回訪れるお店、『ニャムニャム食堂』は存在する。
にぎやかな大通りを少し入った静かな住宅街に、ひときわ輝く建物が突如として現れる。
ここが大阪市でたった一軒のカンボジア料理店、ニャムニャム食堂である。
現地のインテリアで装飾された外装が、電飾によって青や紫にスパークしている。
私「こんばんは~。」
時刻は、開店開始の18:00。
オープンと同時に入店した理由は、人気店にもかかわらず10人入ると満席になる小さなお店だからだ。
既に客らしき人物が1人、カウンターに座っていた。
客らしき人「テルミン、お客さ―ん。」
テルミン「はーい。」
店主のニックネームは、テルミン。
テルミン「こうちゃん何食べたい?」
こうちゃん「何食べさせたい?」
テルミン「バランスのいいもの食べさせたい。」
テルミンと仲睦まじく会話をする常連客「こうちゃん」の隣に座った。
こうちゃんが見ているメニューを覗く。
メニューは今や絶滅危惧の全編手書きスタイル。
店主作のイラストとコメントが入ったエッセイ風味のメニューブック。何とも味わい深い。
こうちゃん「屋台ミーチャーとライス。炭水化物×炭水化物!」
私「(バランス良くないよ、こうちゃん…)」
屋台ミーチャー
メニューの説明によると「どローカルな即席めんの焼きそば」
どローカル…一体どんな味なんだろう。
私も何点か注文をし、お料理が出てくるまでこうちゃんと雑談。
話題はニャムニャム食堂のお料理だっのたが、気がつくとアジア旅行の話に代わり、それから現地の食べ物の話へと途切れることなく会話が進んだ、初対面なのにもかかわらず。
そうこうしているうちに屋台ミーチャーは完成した。
これが、どローカルな即席めんの焼きそば、『屋台ミーチャー』だ。
ん!?なんだか見覚えのある見た目だぞ!?
あ!秋田県横手市のB級グルメ『横手焼きそば』だ!
こうちゃん「ちょっと食べる?」
初対面ではまずありえない、最初の一口を頂いた。
「甘酸っぱい!!」
見た目焼きそばを裏切る甘さと後味のすっぱさ。そしてあとから辛みが襲ってくるなんとも中毒性のある味。
こうちゃん「大体のカンボジア料理って、日本人の口に合うと思うねん。」
見たことも聞いたこともない料理の数々
店内の壁を埋めつくす手書きメニューの数々
イラスト入りで分かりいやすいメニュー
見たことも聞いたこともないお料理ばかりだけど、イラスト入りのメニューのお陰で注文が捗る。
貼り出されたメニューは、仕入れが難しい数量限定の一品だよと常連客こうちゃんから教わったので、ここから何品かチョイス。
カリーサラマン
カンボジアの少数民族・イスラム教徒チャム族のビーフカレー
カリーサラマン
カンボジア国内の宗教の多くはヒンズー教だから牛肉を食べてはいけない。
しかしこちらは、少数民族チャム族の牛肉料理。チャム族はイスラム教徒だから牛肉OKとかなりマニアックな料理である。
『クルーン』というハープペーストがカレーのアクセント。
お米はハーブ系の香りが漂う。香りの元はパンダンリーフという香草。白米を炊くときに一緒に入れるのだそう。
現地系フランスパン『バインミー』
バインミー
全体的に柔らかいバター風味のフランスパン。アジアのフランスパンによくあるタイプだそう。
大阪で唯一製造の可能なお店に頼んで作ってもらっているとの事。
中は気泡がなくぎっしり。子供の頃に食べた給食のパンを思い出す。
カンボジア生ペッパーの塩漬けとクリームチーズ
カンボジア産の貴重な生ペッパーを店主自ら塩漬け加工
カンボジア生ペッパーを現地で買い付け
店主自らカンボジアへ赴き、現地の農園で買い付けた生ペッパーを日本で塩漬けにしたという超レアな一品。
ココナッツウォーター
カンボジアと言えばココナッツウォーター。ドリンクにも拘りの手を緩めない。
お料理全てが貴重すぎる…
レアすぎて頭がくらくらする中、他に気になりだしたことが…
それは、手書きのメニューが非常に面白いという事だ。
手書きメニューが面白すぎる
手書きのメニューのほとんどがイラスト入りで、全体的にコメディタッチ。
これらは全部お店に行かないと見る事が出来ないが、店主の許可を得て一部お借りしたので、是非ともじっくり眺めていただきたい。
ノムクーオン
非常にサクサクなのはわかった。
チャークルーンサイッコー
カンボジア、ケップ州に存在する食堂の味を再現したという料理。
どこや!の前にそもそも読めない。
堺から世界へ
懐かしさあふれる手書き新聞。
飼い猫との日々をつづった漫画たち
Tシャツにて売ってくれないかなぁ?
そんな多彩な才能を持つ店主「テルミン」に話を聞くことに成功した。
ニャムニャム食堂店主 テルミン(高原 輝美)さん
高原輝美ことテルミン
いつも身に付けているエプロンは、カンボジアでおなじみあの調味料の販促品。
カンボジアと出会ったきっかけ
若い時から飲食店で働きづめの日々を送っていたテルミン。30歳になった頃ふと立ち止まり、自分の人生を見つめなおした。
そんな中、行った事のない海外へ旅してみたいなと会社を退職、アンコールワットを選んだ。
選んだ理由は、中学生の時に読んだある本を思い出したからだ。
ポルポト派内戦の本である。
テルミン「中学生の私って変わった子やってん。恐ろしい本を読んだり、戦争の本を読んだり。ある時、ポルポト派の内戦の本にたどり着いてん。その内容がとてもショックやった。」
何かの縁を感じたテルミンは、カンボジアのシェムリアップに飛んだ。今から15年前の事だ。
当時の街はは観光地ではあるものの、戦争の痕跡がまだ残っていた。
テルミンは観光地より下町へ足を運んだ。言葉は全く通じない地元民が集う飲食店で、クイティユ(汁そば)を頼む。
見ず知らずの年配の女性が、クイティユの美味しい食べ方を身振り手振りで教えてくる。食べると、日本人の口に合う味でとても美味しく感じた。
そんな気持ちを、身振り手振りで表現した。思いが伝わっとき、年配の女性は笑顔になった。気が付くと自分も笑顔になっていた。
産まれた環境や歴史が全く違っても気持ちは伝わる。
伝わった時のあの笑顔が忘れられない。
「日本にはカンボジア料理店が少ない。それならやってみよう。」
カンボジアに長期滞在の日々
カンボジアへは毎年2月には必ず訪れる。
2月はカンボジアが乾季のまっただ中で涼しく過ごしやすい。
それにしめし合わせたかのように、ニャムニャム食堂に人足が遠のく時期でもあった。
滞在は約1か月。
まだまだ治安の悪いカンボジア。観光地シェムリアップは随分と良くなったが、プノンペンなどは注意が必要。
現地の人が使っている食品や調味料を求め、少し危険だが下町へ向かう。
その為、ホテルはいつも下町のバックパッカー御用達のリーズナブルな宿だ。
買い物にはコツがいる。
値段はその場で交渉。
商品の表示に信用できないものが数多くある。なので、流通事情やカンボジアの歴史を深く知る必要がある。
カンボジアペッパーは100%カンボジア産の生を仕入れる。毎回、農場へ直接買いに行く。生ペッパーはすぐに酸化するので帰国の直前に買い、帰宅後すぐ処理をする。
買い物は、食材だけでは終わらない。
店内のすべてのものはカンボジアで買い付けた品だ。
食器
販促品。カンボジアと言えばアンコールビール。
クメール語のトイレ看板。
調理道具
「骨ごと切れるねんこれ!」
と見せてくれた包丁。価格は4ドル(約400円)と物凄く安い。
アイテムの量の多さは、一冊の本になりそうな勢いだ。
~皆さんは、どんな時に外食をしますか?~
実はディープな街、天王寺駅・阿倍野駅周辺
A「うまい店はいくらでもある。でもおれ、うまい店だけ狙って行っているわけやない。おれは楽しい店に行っている。」
と仕事帰りのAさんは言った。彼の職業は調理師。職業柄美味しいお店を良く知っているが、選ぶポイントは以外にも“うまい”はなかった。
A「うまい料理はお金があったらなんぼでも食べられる。」
ニャムニャム食堂へ行くと、必ず誰かとしゃべる。
それにはテルミンの気遣いが関係している。
お客さんの人一人と会話をして料理を作るテルミン。時にはお客さんの体調に合わせて料理を調節することもある。
来てくれる人を大切にしているのが、お客さんに伝わっている。お客さんもまた、テルミンを大切にする。そしてお客さんどうしが大切にしあう。
カンボジアで体感した笑顔がここにもあるのだ。
あるお客さんが話した、忘れられない言葉がある。
「良い事があってお祝いしたいからちょっと行きたい。
落ち込んだ事があったかちょっと飲みたい。
そんな時は、こういう店にしか行かない。
美味しいものを食べる以外のプラスアルファがここにはある。
この店が流行っているのはそういう理由。」
【近況報告】
ニャムニャム食堂は旧店舗そばに移転。店内が広くなりました。
場所:大阪市 阿倍野区阿倍野筋4-18-5 (Googleマップ)
旧店舗は、ペール―人従業員によるペルーカレー中心のペール―料理店となりました。
場所:大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋4丁目12−8 コーポ中道 (Googleマップ)
【お問い合わせ】
ニャムニャム食堂
TEL:06-6690-0772
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