麻酔並みのしびれ具合
20年ほど前、チベットから日本に帰国する際、成都に立ち寄った。というよりフライトの都合上、立ち寄らざるをえず、仕方なくだった。
成都は何があるのかなと地球の歩き方をパラパラめくっていて見つけたのが
「麻婆豆腐発祥のお店」
中華料理の中で1,2を争うほど麻婆豆腐が好きなモノにとって”発祥”のパワードにくいつかないはずはない。絶対にいかねばと「陳麻婆豆腐」に向かった。
さすが発祥の店だけありそれなりに並んでいる。中をのぞくとみんながみんな麻婆豆腐を食べている。独特の香りが漂い、もうよだれがたれまくり。さんざん匂いをかがせられ、もう我慢できなくなってきたぞと思った頃ようやっと席に案内された。
当然麻婆豆腐でしょとばかりに注文してすぐに運ばれてきた。ぐつぐつしていかにもおいしそう。はやる気持ちを抑えつつも、おなかもすきまくっていたので、スプーンにたっぷり麻婆豆腐をのせ、口の中に流し込んだ。
う、うまいというはずが、か、辛い・・・口の中から火を噴きだしちゃうんじゃないかというほど辛い。コップに入っていた水を一気飲みし、白飯をかきこんでも辛さがとれない。そのうちびりびりとしびれてきた。口の周りに変な虫がいっぱいいて動き回っているようなよくわからないびりびり感覚。
今でこそシビカラグルメなんて言葉があるくらい山椒のしびれはオーソドックスになってきたが、当時はさほど山椒の存在を知らず、このびりびりはなにか腐ったものを食べたか?と思うくらいびりびりしまくっていた。それでもせっかく注文したのだからと2口、3口と食べ続けていく。しびれすぎて味がしない。歯医者で麻酔かけたあとにご飯を食べたらこんな感覚なんだろうなというほどもはや感覚まで奪われている。
もはや苦行のような状態で食べ続けていると、いよいよ麻痺を通り過ぎていたくなってきた。涙が出るほど痛い。もはやもったいないとかそういうレベルではなく、口が受け付けなかった。
あれほど楽しみにして、おなかをすかせてスタンバイさせていた麻婆豆腐だったのに半分も食べられなかった。それ以来、本場中国で麻婆豆腐を食べることはなかった。
世界各国チャイナタウンがあるほど中国人があふれているが、日本にも三大チャイナタウンがあるくらい多くの中華料理屋が軒を連ねている。とはいえ、さすがにあの本場で食べたほどのしびれはなく、ほどよいしびれ具合で食欲スイッチをバシバシ押してくれる。
本日は、麻婆豆腐で有名なお店でランチ。コロナ前に一度行ったときは、ちょっと山椒が多いかなと思うくらいのシビレと辛味があったが、完食できるくらいのシビカラ具合だった。
あれから5年。コロナで久しぶりに訪問した。
麻婆豆腐に絶対の自信があるからか食べ方レクチャーもある。
麻婆豆腐を食べるとき、普通はぐるぐるかきまわすのだろうか?わたしはかきまぜたことはないが、とにかく、かきまぜると豆腐や片栗粉から水分がしみだしちゃうようで水っぽくならないように上からすくって食べろとある。
サラダ、冷ややっこ、餃子、卵スープ、一品料理で900円。お安い。
しかもこの麻婆豆腐の皿、底が深いので食べても食べても食べ終わらない。
早速、すくって一口。う~ん、うまい。このシビカラ具合がいいのよ。とパクパクと食べ進めると、シビレが増し、辛味も増し、味がしなくなってきた。
まだ最高気温30度に達するこの日、汗も噴き出てきた。もったいない・・・とばかりに食べ続けたのだがやはりシビカラ度合がアップしてくると、味がしなくなってくる。もはや拷問。
結局、途中でギブアップした。
昔はこのぐらいのシビカラ具合は平気だったのだが、年とともにアルコールも弱くなってくるのと一緒で、シビカラも弱くなってくるらしい。