発達障害を考えるときのキホン5〜不安になりやすいかどうか〜
この記事では、発達障害かもしれないと考えて受診される方やそのご家族、さらに発達障害を持つ方を支援する方、あるいはご本人が、発達障害を理解するための基本になる考え方をわかりやすく説明します。先に以下のリンクの記事をお読みください。
・発達障害を考えるときのキホン1 〜知的障害(知的発達症)〜
・発達障害を考えるときのキホン2 〜ADHD(注意欠如・多動症)〜
・発達障害を考えるときのキホン3〜自閉スペクトラム症(ASD)〜
・発達障害を考えるときのキホン4〜限局性学習症(SLD)〜
キホン1では知的発達症について、キホン2ではADHDについて、キホン3では自閉スペクトラム症について、キホン4では学習症について書きました。キホン5では、いわゆる発達障害に含まれるものではありませんが、家庭や学校での生活を考える上で重要な特性である「不安になりやすいかどうか」ということについて解説したいと思います。
大人もそうですが、例えば地震が起こったりした時に、「家が崩れちゃうんじゃないか」と考えてすごく不安になる人と「またいつもの地震か」と考えて全然へっちゃらな人がいます。これはこどもも同じで、とても不安になりやすいこどももいれば、ちょっとは不安を感じて欲しい場面でも全然動じないこどももいます。
そして同じように自閉スペクトラム症の診断がつくこどもでも、不安の高いタイプとそうでないタイプの子がいます。一般的には自閉スペクトラム症でも積極・奇異型と呼ばれるようなタイプはあまり不安を感じていないことが多く(ただそもそも不安になるべき状況であると認識できてないこともありますが)、受動型と呼ばれるようなタイプはどちらかというと不安が高いことが多いように思います。
一方でADHDのこどもは衝動的なので、基本的にあまり不安を感じていないように見え、不安が高くて「いろいろ心配なことがあるから学校に行けない」ということは少なく、不登校になる場合はその衝動性のせいで同級生とトラブルになってしまい、先生に怒られすぎたり、友達とうまくいかなくなって学校に行けなくなることの方が多いです。
こういった不安にまつわる問題で日常生活に支障をきたしてしまうような疾患のことを「不安障害」と呼び、もう少し詳しく分類すると「パニック障害(突発的にものすごい不安発作が起こる)」「社交不安障害(人と交流するのが不安)」「強迫性障害(大切なことではないのにとても気になってしまう)」などがあります。特にこの中の「強迫性障害」は、別に大事ではないことに「こだわってしまう(強迫症状)」というところが、自閉スペクトラム症のこだわりに近いものがあり、区別するのが難しいこともあります。「手にばい菌がついたんじゃないかと思って(強迫観念)、何度も手を洗う(強迫行為)」といった症状が典型的なものです。「家の戸締りがちゃんとできてないんじゃないかと心配になって(強迫観念)、何度もお母さんに鍵が閉まっているかどうか確認する(強迫行為)」といったこともよくあります。
また、自閉スペクトラム症によくある聴覚過敏やこだわりがありつつも、他の人の気持ちには逆にむしろとても敏感で、かつそのことがすごく不安になってしまうタイプのこどももいます。こういったタイプは、今で言う「繊細さん(HSP)」といってよいような人なのですが、ただ実は少し相手の気持ちをうまく理解できていない自閉スペクトラムの特性もあったりするものの、全然気にしないほどにわからないわけではなく、かつ不安になりやすい特性もあるから、結果とても不安で生活に支障がでるなど、その問題の現れ方はとても複雑になります。
学習症のこどもにも、不安障害が合併していることがあります。これは学習症のせいで学校でうまく学習することができず、二次的に不安になっていることもあると思うのですが、診療している実感としては学習症のこどもはもともとの不安が高いこどもも多いように感じます。(これは筆者の感覚で、エビデンスがあるものではありません)
このように発達障害による生活や学校での影響を考えていく時には、キホン1から4にあげたいわゆる発達障害の特性だけでなく、下図のように、もう一つの軸として「不安になりやすいかどうか」も含めてその子をアセスメントしてあげることが大切だと考えています。