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親しみの接近詩人、シンボルスカ
誰にも、どこにも与せず、個の尊厳を歌い上げた清廉高潔なポーランドの女性詩人、シンボルスカ (1923-2012) 。ノーベル文学賞受賞の3年前、1993年に出版された詩集「終わりと始まり」。
身構えずにいるとスーッと頭を撫で、優しく通り過ぎていく詩の数々。確かに平明で身近な言葉で書かれているが、その優しさの読み解きは決して容易ではない。それはむしろ、心をざわつかせ、人を椅子から立たせるものだ。
またやって来たからといって
春を恨んだりしない
例年のように自分の義務を
果たしているからといって
春を責めたりしない
「眺めと別れ」より
突然の感情によって結ばれたと
二人とも信じ込んでいる
そう確信できることは美しい
でも確信できないことはもっと美しい
「一目惚れ」より
繰り返し読んでいると、しかしそれはいつしか親しみに変わっていった。「人間の眼は近くものに疎いという致命傷を負っている」とはある哲学者の弁だが、シンボルスカの言葉は、近くなればなるほど、親しみを覚えれば覚えるほど、はっきりと見えてくるようだった。虚を突かれたような心のざわめきは、もっとも近くてもっとも遠い自分の背中を捲らせるように、思わずハッとせずにはいられない。
ノーベル文学賞受賞の際の珠玉のスピーチも掲載。
素晴らしい詩集でした。