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女の一生/遠藤周作#31

遠藤周作の作品に出会えたのは、わたしの人生の中で幸運なことだったように思う。

「女の一生」は「一部・キクの場合」と「二部・サチ子の場合」の二冊本で、それぞれ600ページ前後ある長編小説だが、18歳のときにあっという間に読み終えてしまった。
物語は長崎を舞台にしており、町名や場所の名前が随所に登場するので長崎人は必見の作品だといえる。

「一部・キクの場合」は、長崎の商家へ奉公に出てきた浦上の農家の娘キクが主人公。
想いを寄せた相手・清吉は、信仰を禁じられていた基督教の信者であり、幕末から明治の長崎が舞台になっている。
「浦上四番崩れ」をめぐる、史実に基づいた小説だ。

切支丹弾圧の史実にそいながら、生々しい苦難や人間の弱さが描かれているので、正直話の内容としては非常に暗い。しかし、迫害されても信仰を捨てなかった清吉と、基督教信者ではないキクのひたむきな想いと短くも清らかな一生が、儚くも美しく描かれている。

ちなみに観光名所で有名な大浦天主堂も作中では度々登場する。
大浦天主堂は1865年にフューレ・プチジャン神父らによって建設された日本最古の現存する木造教会堂であり、言葉にできない荘厳な雰囲気に驚いた記憶がある。

「二部・サチ子の場合」は、第二次世界大戦下の長崎で、互いに好意を抱きあうサチ子と修平の物語。
戦争は二人を引き裂き、修平は聖書の教えと武器をとって人を殺さなくてはならないことへの矛盾に苦しみながらも、特攻隊員として出撃する。
一方のサチ子は、長崎で原爆にみまわれるというストーリーだ。

作中には長崎に滞在後、アウシュビッツで殉教したポーランド人のコルベ神父も登場し、重要な登場人物になっている。「沈黙」も一緒に読むことをおすすめしたい。

わたしはクリスチャンではないのだが、プロテスタントの大学であったため毎週礼拝の時間が設けられていた。
正直面倒だなと思ったり、聖書を読んでもなんとも思わなかったのだが、しばらくするうちに説教を聞き、祈ることで自分の心への問いかけをする、不思議な時間に変わった。
自分の中にある弱さに気づくこともあれば、強さに変わることもあり、それはわたしを困惑させるというよりむしろ落ち着かせる効果があったように思う。瞑想に似た感じだ。

人間の弱さというのは、いかなる場所であっても皆が持ち合わせているものであり、苦しみ、逃れようとする。
遠藤周作の作品は、たとえクリスチャンでなかったとしても、そういった人間の本質を問いかけるものが多く、その普遍の問いかけが心に響くのかもしれない。

神は本当に存在するのか、神とは一体何なのか」ということをも非常に考えさせられ、人間の弱さや強さがこれでもかというくらい描かれている。


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