ふたご育児は大変なのか?
私は双子の母親だ。今は成長してほとんど手がかからないが、幼児期の双子の子育ては本当に大変だった。大変というか地獄だった。私の経験の中では、12歳で母親と死に別れるより、うつで10年闘病するよりも、双子育児は辛かった。
けれど、なかなか世の中には多胎(双子・三つ子など)育児の大変さ、というのは分かってもらえていない。
乳児期なら哺乳・おむつ交換などの作業の、多いこと多いこと。家事に手が回らないどころか、自分の食事すらままならない。
2人だから2倍大変というような単純な話ではないのだ。
世間の無理解に傷つくことも多い。
「双子っていっぺんに育児が終わるから楽チンでいいなー。」
「双子だから大変なんじゃなくて、最初の子だからだよ。誰でも初めての子育ては大変なんだよ。」
「双子だけど定形発達なんだからいいよ。障害のある子を育てるのはもっと大変だよ。」
どれも身近な親しい友人・親戚から言われた言葉だ。
悪意はない。嘘もない。
だから何も言い返せなくなり、地獄のように辛いと感じる自分の方が「親としてなってない」のだと責めていた。
作業量の多さ、世間の無理解、自責の念。双子育児は全方位的に苦しい。
そこで、分かり合える者同士集まって情報交換をしたり助け合いましょうという趣旨で有志が立ち上げたふたごサークルというものがあり、私も数回出向いたことがある。
ところが、参加するふたご家庭の中にも差はある。
当時の我が家は経済的に苦しかったので、子どもたちの服はほとんど貰い物でバラバラだったし、車も持っていなかった。
だから参加する子どもたちがお揃いの服を着ていたり、夜泣きの対応は車で走るのが1番効くとか、お出かけでどこに行ったという情報を聞くと惨めな気分になり、ますます自責の念にかられた。
こういった育児サークルのメリットはそれなりに承知しているつもりだが、正直なところ私はあまり良いイメージがない。
ところで、最近私は保健師に復帰し、乳幼児健診に従事している。
健診の時には当然双子も来る。保健師は(双子の親の私でなくても)、双子育児には様々な困難があると知っている。だから、養育状況、養育者の育児負担感、周囲のサポート体勢など丁寧に聞き取り、苦しさに寄り添い、必要であれば健診後も継続して支援をする。
それと同時に、当然だが双子ではない子どももたくさん健診に来る。虐待やDVが疑わしい家庭、養育能力の低い親、発達の遅れが見られる子ども、その他気になるケースはゴマンとある。
双子育児の大変さを知っているはずの私でさえ、私の体験の方がマシだと感じるほどのケースは、実はいくらでもある。
要するに、困難を感じている人の、その困難が、その人の直面している困難なのだ。
それはごく当たり前のことのようだが、人は自分の直面している困難が一番大変と思いがちなのではないか。
私は、確かに双子育児は辛いと感じていたが、それはマンパワー的・経済的な面が大きかった。しかしながら、夫は子煩悩で家事・育児に非常に協力的だし、当時の夫の上司も理解のある人で、定時に帰れるよう配慮してくれた。
もし、実家が近くてサポートが得られ、経済的に困っていなくても、夫が子どもたちに興味がなければやはりとても辛かっただろう。
困難に直面している人にとって、その「困り感」が全てだ。それは千差万別で複雑にからみ合い、当事者にさえ何が困難の元なのかよく分からなくなっている時だってある。
『双子育児』だから大変なのではないのだ。
最近の出来事だが、「世間はふたごの大変さを分かってない」「こんなに大変なのに何もしてもらえない」というようなことを鼻息荒く語る双子の親と話していて、なんだかとってもモヤモヤしてしまった。確かに双子育児は大変だけど、じゃああなたは他の家庭の何を知っているの?と。
私は双子の親で保健師だ。だけど、それだけだ。子育てについて、親の気持ちについて、ほとんど何もわかっていないし、これからも全てを分かるようになることなど決してない。
当事者は苦しければ苦しいと言っていい。自分しか見えなくて当たり前だ。
けれどいったん支援の側に立ったなら、先入観を排除し、いつもニュートラルな気持ちで、相手の困り感を丁寧に聞いて寄り添えるように心がけていたい。
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