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創作全般の覚え書き

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自分の、あるいは社会の創作の話題で反応してしまったことの覚え書き
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#フォリア工房

スケッチには完成した絵とは違う魅力がありますね

仕上げた絵よりも、その画家のスケッチ帳や、下描きなどに、その画家の飾らない、素直な描線が出ていて、しみじみ良いなあと思う事があります。 例えば、下は、東京国立博物館に出ていた狩野探幽の「草花写生図鑑 秋」です。 狩野派といえば、絢爛豪華でいかにも城の装飾に相応しい感じの画風ですが、探幽はその代表的な画家のひとりです。 そんな探幽のスケッチの描線は、繊細で洒脱で、草花を観察しつつキレイだな、カワイイな、と感じて描いている感じが素直に出ていて、とても良いのです。 (画像ク

民藝については、父・宗悦、息子・宗理の両方の書籍と実績を確認すると理解が深まる

民藝を把握するには、柳宗悦氏だけでなく、息子さんの工業デザイナー柳宗理氏の両者の業績の確認と、彼らが残した文章をしっかり読むと良いと思います 宗理氏の文章はとても上手く、かつ的を射ており(例えば「柳宗理 エッセイ」という本は必読です)父の宗悦が活躍していた時代からしばらくして問題化した事、民藝について宗悦自身は語りきれていない事、幼少期から知っている民藝運動界隈の主要作家の事などを息子が父とは違う視座から補完している感じです それと民藝論は、宗悦の初期の提言を経典としては

私は創作物を暴力装置にしてはならないと考えます

私は 「分野を問わず人々にトラウマを与える事で鑑賞者が作品に揺さぶられたと勘違いさせる意図を持つ作品」 を嫌います。 それは創作者がやってはいけない事だと考えます。 「作品の素晴らしさに精神が揺さぶられる」 のと、 「その作品に実際には必要の無い人の精神を傷つけるタイプの、直接的なエロ、グロ、暴力、死、個人の精神の歪み…などを作品を介して突きつけられた際に精神が揺さぶられる」 のは、 内容は全く違うにも関わらず、精神の反応だけ観れば似ています。 ようするに創

文化を生み育て維持し続ける気概

川村記念美術館が、東京に移転し規模を縮小して運営するか、美術館の運営を中止するか、そして保有する美術作品の見直しも検討する…という状況にあるというニュースが話題になりました。(2024年8月後半あたりに話題になりました) 川村記念美術館に限らず、どこの美術館や博物館も維持が大変なようで、クラウドファンディングに頼らざるを得なくなるところも増えました… 現代日本は、文化的に素晴らしいものを沢山持っているのに、それらを維持発展させる事に、あまり意欲が無いように感じられます。あ

文脈やお作法にうるさ過ぎると、お笑いで「どこが面白いかって言うとぉー」と説明しちゃってるのと変わらなくなりますね

現状「“伝統的”現代美術しぐさ」と言って良い、過剰にお作法に煩い系の現代美術作品は、同じくお作法に煩い伝統文化系のものに良く似ています。それらは文脈とか作品の背景とか美学の系譜とか色々あって成り立つ作品が多いわけですが、それが細か過ぎたり、そこに力点が行き過ぎると… お笑いでネタをかましてから「なんで面白いかっていうとぉ・・」とワザワザ説明しているような、あるいは予めネタの成り立ちを客席に説明しておいてからそのネタをやるみたいな感じになってしまって、その界隈の人たち以外は興

美しい道具は、用途を知っていても知らなくても美しい

シビアな職人仕事の何かの用途に使われる道具は、非常に魅力的な形をしています。色気すら感じます。使い込まれたものなら、それはまるで生き物のようです 例えば、手術のための道具や、特殊な加工のための道具、危険と背中合わせの作業をするための道具、その他その他・・・ その具体的な用途が分からなくても、その造形の美しさに心はざわめき惹かれます その道具を美しいと感じるも、用途が分からなければ、それは道具ではなく造形物として美しいと感じている事になります それは道具とか芸術作品だと

本阿弥光悦の大宇宙展へ行った

もう終わってしまった展示ですが東京国立博物館の「特別展 本阿弥光悦の大宇宙」へ行って来ました。 いやあ、本当に素晴らしく、感心・感動いしました。 光悦にまつわる色々な事を網羅した展示会でした。正に「光悦の大宇宙」でした。 細かい解説は上記展示会のリンクでご確認いただくとして・・・ 書、漆器、刀剣、茶陶はもちろん、光悦本人の事だけでなく、本阿弥家の歴史や教育方針などにも触れられていて、最高度の文化的素養を伝承する事の大変さが感じられました。ただ子孫である理由で世襲しただ

国立新美術館のマティス展に行きました。とても良かったです。

2023年の東京都美術館でのマティス展は本当に素晴らしい展示会でしたが、今回行きました2024年国立新美術館で開催の「マティス・自由なフォルム」展も同じぐらい良かったです。(以下、その情報リンクです) 2024年2月14日(水) ~ 2024年5月27日(月)まで開催しておりますので、この記事が公開された時点では(4/29)まだ間に合います。マティスがお好きな方はもちろん、それ程興味の無い方であっても、個人的に強くオススメしたい展示会であります。 以下のリンクは去年の東京

伝統工芸において明治以降の偉いとされている人ばかりを参考にしても伝統から学んだ事にならないですよね

私は、染の着物や帯の文様染色の製造卸販売をメインの生業にしております。ですので東京在住の私は東京国立博物館の常設展に良く行きます。工房構成員には年パスを配布します。工房を東博の隣にしたいぐらいに、それは身近であり、その収蔵物はある意味師匠であり、それを制作した人々に同志という感覚を持ちます。 しかし、私よりも年長の模様師たち(和装の文様を加工する職人)・・・いや同世代や年下の人たちもそうですが、模様師だけでなく和装制作系の全般、いや呉服業界全般か・・・大手美術団体系の展示会

化学染料と天然染料のどちらも、ただの染料ですよ

このnoteで繰り返し書いている事ですが・・・ 当工房は生業としては和装染色品の製造卸販売をメインにしておりますので色々な種類の染料や顔料を使って仕事をします。 染色加工には化学染料も天然染料も使いますが、いわゆる草木染に変なロマンを感じて使っているわけではありません。作りたい作品によって天然染料の方が相応しいとか、お客さまからのご要望だから使うとか、必要に応じて使い分けるだけであり、それ以上の意味はありません。色々な選択肢のある現代において「単に染料の一種」として使って

映画「PERFECT DAYS」を観たです

先日、妻と最近評判の映画「PERFECT DAYS」を観に行きました。 結論から言うと、私は好きな映画でした。 以下、雑感の寄せ集めです。 * * * * * * * *  私は映画はまるで詳しくなく、家族や知り合いがPCやDVDで観ているのを横から観たり、たまーに興味が湧いたものを映画館で観る程度で、滅多に観ません。 作り手視点で観察するにも、私の資質だと掴みきれない程に映画制作は規模が大きいので手に余ります。 ですので、たまに映画館に行くと、色々な面で進化して

今、現代美術とされている分野はゲームに似ていると思う

普通一般の人々が思い浮かべる「現代美術」というものは、その時代の「前衛」のような、まだ形式や評価が定まっていないものから、先進的かつ既に社会に受け入れられ機能しているものまでを含めた「新しいものを作り出そうとする意欲の強い、実験的要素も含む、今出来の表現物の事を特に分類して現代美術と呼ぶ」・・・そんな感じではないでしょうか。 私も含めた一般社会人にとってはそれで充分ですし、それで日常生活に困る事はありません。 * * * * * * * *  何かしらの創作様式や作品が

いつも全力でやらないとスグに堕ちて行きます

職人仕事・・・職人に限らず仕事人は、いつも100%からそれ以上の意識を持って仕事をしていないとスグに腕が落ちてしまいますよね。 修行中、あるいは独立してからでも、いつも自分よりも上のレベルの人がいる環境にいた人であっても自分ひとりになると途端に「現状の本来の自分」に戻ってしまう人が多い。上の人がいる時は、強制的に引き上げられているわけです。もちろん、逆に制約が無くなった事により修行中よりも厳しく仕事場をつくり、仕事自体も、より高度に成長させる人もおりますが・・・ ビジネス

2023年棟方志功展に行った

先日、工房構成員の甲斐凡子と、東京国立近代美術館にて開催しております「棟方志功展・メイキング・オブ・ムナカタ」に行ってまいりました。 棟方志功については、私が小学生の頃にブームがあったのか、NHKなどで良く観た気がします。小学校の美術の教科書にも載っていたりで私にとっては親しみのあるものでした。 それと、デパートその他で良く展示会がされていましたので、私は色々な場所で作品を目にしておりました。大人気の巨匠でしたから、まとまった画集なども既に刊行されており、それらも目につく