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素直に甘える

恋人と会わない時間が最近、続いていた。
いつも忙しい相手ではあるのだけどその忙しさがさらに輪をかけて忙しくなり、会わない時間が長くなればなるほど私は次第に会いたいという気持ちが苛立ちに変わって、もう徹底的に自己開示をやめてしまおうという気分になって、最早会いたくなくなってしまっていた。
その苛立ちは自分でも思った以上のものになっていて、連絡が来るだけで追い詰められた気持ちになるくらいまでに膨れ上がっていた。
それでも、会おうと言われたら断れなかった。

会いたくないと思いながら会う約束を進めて、憂鬱な心持ちを増幅させながら待ち合わせ場所に向かった。
ほとんど1ヵ月ぶりに会った彼の顔にあまり目を向けず、目を合わせないようにしながら会話を進めた。
意地になって自分の話を極力せず、相手の話に相槌を打っては辛くなって、余計苦しくなったり追い詰められたりをひたすら繰り返していた。
帰りたいような一緒にいたいような、そんなアンビバレントな自分の感情を傍観しながら、日はすぐに暮れていってしまった。

徹底的に自己開示を避けた結果、あまりに素っ気ない態度を繰り返してしまったように思え、流石に怒ったかなと不安になって勝手に落ち込んでいた時、不意に彼が空間に流れた曲の歌詞を口ずさんだ。
「ロマンスがありあまる」
この歌詞は贅沢だねと笑って、次にくる歌詞をまた口ずさんだ。
「死に物狂いで生き急いでんだ」

「生き急がなきゃ」と呟く。
「ゆっくりでいいよ」と窘められる。
そこから後はこの日一日に伝えないと決意してきた事柄をひたすら呟き続けて、それからまた少し涙を流した。

あんなにも自分から話すものかと思っていたのに、口にしてしまうとそれはほろほろと崩れ落ちてしまった。
そしてそれは一旦口にしてしまえば、簡単に受け入れてもらえるものだった。
あんなに苦しい心持ちを抱き続けた時間はなんだったのだろうと訝しむくらいに、わだかまりは勝手にほどけていった。

結局は、話さなければならない。
意地を張ってみても余計苦しくなるだけで、だったら初めから素直に甘えてしまえばいいのに。
一度ここまで振り切れてしまえば、次からはもう少しだけ、可愛く甘えられる自分になれるだろうか。

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