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憧れと現実。そしてその狭間で

僕は女から男に戸籍を変えて生きているLGBTQでいうTであるFTMトランスジェンダー。鈴木優希。1980年生まれ。

仕事は地元である名古屋で同じLGBTQ当事者を集めてオナベバーVenusとレズビアンバーWを経営している。

結婚は一度。お客様として出会った女の子と結婚したが僕の浮気で離婚。
バツイチ。

「男としての教育をしていない」

カミングアウトした後の僕に母が言った言葉だ。
当時の僕にあるのは若さだけで世間を知らずに、知った気になって生きていた私の将来を悲観したのだろう。とても悲しそうに話した母の顔を思い出す。

その時はそもそもその言葉の本質がわからず「?」だった。
その後、生きていく中で様々な困難に遭遇した時に母が言っていたことはこういうことだったのか...
男の責任。男とは? そこが全くわからない。
女らしさも男らしさも、自分らしささえわからなかった。
手術を繰り返し戸籍を変更しても尚、いつまで経っても「男」としての覚悟が持てない僕にこの言葉が重くのしかかったが、

そうだ!男としての教育を受けていないからだ!
逆に僕はそう逃げてしまっていた。

今ならわかる

環境や教育のせいにすることも出来るけれど、きっと違う。
絶対的に「自分自身」なのだ。

女で生まれたから、
女の子として育てられたから。
そうやって逃げていたし、このままそうやって逃げて同情されて生きることも出来るだろう。でもそうやって、この有限な僕のこの人生を終わりたくない。

大切な人を亡くした今、43歳になって強くそう感じている。

LGBTQという言葉が出来るくらいに僕たちの存在が理解されてきた今。
男とか女とかの縛りでなく、人としてカッコイイ人間になればいい。

言葉では簡単に言えるけれど、憧れと現実は果てしなくかけ離れている。

自分に甘く、日々を過ごしてしまうこと。
人に対する怒りの感情を制御できないことも多い。
感情のコントロールは考え方を変えることでしか出来ない。

僕は女として生まれたが、心は男の気持ち。
僕には憧れる有名人が二人いる。

18代目中村勘三郎と作家の伊集院静

中村勘三郎さんは、好きな事に真っすぐでいつも少年のようでキラキラしているところが大好きだった。クラスの人気者タイプで女の子にもモテたであろう。この人の傍にはいつもたくさんの人がいて、そしてみんなが一緒に笑い、共に泣いていた。

好きな事に夢中になる事。豪快で、それでいて人に優しく。人との繋がりを大切にする。偉ぶることなく世話になった人には誰にでも頭を下げありがとうと言葉をかける。素直にカッコ良くて、観ているだけでパワーを貰った。

伊集院静さんは存在は知っていたが亡くなってから、本屋さんで著書と出会い手に取ったのが始まり。その言葉のひとつひとつが43歳の今の僕の心に刺さりすっかりはまってしまった。
「大人の男とは?」
勘三郎さんとはまた違った武骨さがあるけれど、その考え方はとてもカッコイイ。要は男たるもの黙って耐えろ。そして追いかけるな。そんな感じ。
中々出来ることじゃないけれど、きっと伊集院氏はそれを実践した生涯だったんだろうと感じさせる。

お二人とも今はこの世にいないけれどその生き方はとても魅力的で今でも眩しい。

こうありたい。カッコイイと思うところまではきたけれど、それを実践するのはなかなかに難しいものがある。

元々女だからなんて、
男としての教育を受けてないからなんて...

言い訳ばかりしてきた僕。
今から間に合うだろうか。

今出来ること。


憧れと現実は果てしなく遠いけれど、まずは憧れることからスタート。
誰かのこうありたいと思えた姿、行動、言動を意識してみる。それがいつか自分自身になるように。

現実でも今僕は悩んだ時、迷った時、
父ならどうする?おばあちゃんならどうアドバイスをくれるだろう?

そう考えてみる。そうすると聞かなくてもどうすべきかわかる。
身近でも好きな芸能人でもいい。尊敬や憧れの人の言葉に耳を傾けてみよう。

憧れと現実は遠いけれど、憧れる存在がいることで必ず学べる。まずはモノマネから。

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