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短歌を味わったクリスマス。岡本真帆さんの短歌の朗読会@本屋イトマイ
しばらく間が空きましたが、前回に続き、歌人の岡本真帆さんの第一歌集、「水上バス浅草行き」の朗読会のお話です。
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「生活」という連作の最後に
「愛だった もしもわたしが神ならばいますぐここを春に変えたい」
という歌があるのですが、わたしは自分で読んだ時はそれがどんな場面なのか、具体的にイメージできませんでした。
岡本さんによると、この歌集が出版される前にある日本屋さんで本を見ていた時、携帯に電話がかかってきたのだとか。
それは(歌集を出すのとは違う)出版社から連作を依頼する電話で、嬉しさのあまり
「わたしがここを春にします!」
という気持ちで読んだのが上記の歌だったそうです。
なるほど、そういうことだったのですね。
また、前回も書いたのですが、岡本さんが犬好きなので、この歌集はとても犬の歌が多いのです。
「南極に宇宙に渋谷駅前に」という連作は8首全てが犬を詠んだもの。
2首目に
「人間はいつも勝手だ愛犬をドクはふざけた車に乗せて」
という歌があるのですが、この作品、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を見た方ならわかるかもしれません。
(実はわたしもあの映画を見ていたのですが、30年以上前?に見たきりなので、この歌の意味がわかりませんでした。。。)
映画の中で科学者ドクが愛犬のアインシュタインをタイムマシン化したデロリアンにのせる場面があるそうですが、それは「動物実験」でもあるわけです。
岡本さんは
「大好きな映画だけど、あれは一種の暴力じゃないかと思う」
と思ったそうで、その思いを歌にしたのが上記の作品だったのです。
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また、
「南極に宇宙に渋谷駅前にわたしはきみをひとりにしない」
という作品、わたし、大好きなんです。
南極に置き去りにされたタロとジロ。
人類が宇宙に行く前の1957年、当時のソ連の衛星スプートニク2号に乗せられて宇宙に送られたライカ犬。
大好きなご主人様に先立たれた後も渋谷駅前に毎日ご主人を迎えに行ったハチ公。
状況は違うものの、それぞれに「取り残された」犬たちです。
そうした犬たちに触れた後の「わたしはきみをひとりにしない」という言葉から、自分の大切な犬に対する強い愛情を感じる、とても好きな歌です。
この本には20首くらい犬の歌があるのですが、中でも好きなのが前回も紹介した「ここにいるあたたかい犬 もういない犬 いないけどいつづける犬」
です。
岡本さんは
「読む人によっていろいろな犬と思う人もいれば1匹だけの犬と思う人もいる。
読む人によって違うと思う。」
わたしの妹は今3代目の犬と暮らしていますが、わたしはこの歌を読んで今元気でいてくれる犬のことも亡くなった犬たちのことも思い出しました。
本当に、ペットを飼ったことのある人なら「わかる〜」と思うのでは。
以前コーギーを飼っていた岡本さんは
「その犬はもういないけど思い出になっていて、自分でもこの歌を読むたびに大切な家族だと感じる」
と話していました。
また、この朗読会は昨年のクリスマスに開催されたので、岡本さんはこの日のために3首、書き下ろしのクリスマスの短歌を紹介してくれました。
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「SNSに載せてもいい」とのことでしたので、その3首を転記してご紹介します。
「永遠に残りはしない今だけの雪でも跳ねてしまう駐車場」
「救われているのは臆病な私 映画のなかでひとは抱き合う」
「神さまを信じていてもいなくても街のすべてが特別な夜」
岡本さんは歌を作るためにクリスマス気分になろうと「ホームアローン」などクリスマス関連の映画をたくさん見たのだとか。
「ホームアローン2」には、おじいさんが家族と和解して最後に抱き合う場面があるそうです。
大人になると、勇気を出して行動することが難しく、臆病になってしまったりします。
岡本さんは「臆病になった大人が勇気を出した行動」でそのようなエンディングを迎えたことに気持ちを動かされたようで、それを詠んだのが2首目の
「救われているのは臆病な私 映画のなかでひとは抱き合う」
だったのです。
素敵な雰囲気の本屋イトマイで短歌を楽しんだ昨年のクリスマス。
わたしは忘れないと思います。
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今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
*まだ寒い日もありますが、東京ではすでに梅まつりが開催されています。
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写真は梅まつり開催中の「府中市郷土の森博物館」の梅。
歴史的建造物が移築されていたり、プラネタリウムもあり、家族連れもたくさんきていました。
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