良い入門書とは?「短歌西荻派の夕べ」@西荻窪・今野書店
前回に続き、「短歌西荻派の夕べ」のお話です。
枡野浩一さん、木下龍也さん、山階基さんのお三方が、それぞれの短歌作品について話した場面で、枡野さんと木下さんの作品に続き山階さんの作品についての他のお二人のコメントです。
<山階さんの作品>
枡野さんが選んだのは
「その町にいくつも橋があることを忘れたらまた話してほしい」
「本当にどの言葉も自然で、全然特別な言葉じゃないのにエモーショナル。
『忘れたらまた話してほしい』って生きてること全てが入っている気がする。
(相手は以前)その橋があることを話してくれたんだと思う。
もしかしたらもうそういう機会はないかもしれないけど。」
木下さんも
「未来への約束の仕方としては特殊なんだけど、だからこそ短歌になりうる気がします」
とコメント。
木下さんが選んだ作品は
「とれかけたボタンをいじる恋人にぞろ目の歳はあといくつある」
「恋人はこっちを見ていないんだけど、彼女がボタンを見ていじっている行動を見て可愛いと思う。
『恋人がこれからどのくらい生きるんだろう?』
とゾロ目の年のそれぞれのタイミングを考える、
その流れ方がすごくスムーズ。
自然に捉えている歌だなと思った。」
歌人の方のお互いの作品についてのコメント、面白いなあと思いつつ伺っておりました。
また、枡野さんと木下さんはそれぞれ短歌入門書を書いています。
山階さんは枡野さんの入門書「かんたん短歌の作り方」を読んだ時に
「なんて恐ろしいというか、厳しいことをする人だ」
と思ったそうです。
「僕は枡野さんが『かんたん短歌』を提唱するのはずるいっていうか、『じゃあ短歌を作ろう』って思った時に目の前に枡野浩一がいるのってめちゃめちゃハードルが高いと思った。」
その本の中でも
「枡野はもういるから、枡野っぽくないものを絶対に作った方がいい」
というアドバイスがあったりするので、山階さんは
「入門書の中で一番厳しいんじゃないか」
と思ったそうです。
山階さんは
「よい入門書の条件は3つあると思う」
と3つのことをあげてくれました。
1)押し付けがましいこと
「本気でやりたい人だったらそのくらい聞くと思うから。」
2)本当のことが書いてあること
「それがないと伝わらないことがあると思う」
3)書いてある方法では絶対作れない短歌があること
例えば枡野さんの入門書「かんたん短歌の作り方」を読んで書いてある方法を実践しても作れない短歌がある、ということ。
逆に、その抜け道のようなものがなければ、人まねでない、新しい短歌は生まれない、ということなのですよね。
木下さんの書いた入門書「天才による凡人のための短歌教室」
(2020年)は2021年に「アメトーク」の「本屋で読書芸人」で
ラランドのニシダさんが取り上げて話題になったのだとか。
枡野さんは木下さんの入門書について、
「この本は羨ましい」
を繰り返しました。
「自分の書いた入門書は文体とかも気持ち悪い。
当時は一生懸命短歌を伝えたかったから、とにかくキャッチーにしようとがんばってみたら『おじさんはこう』という態度が出ちゃっている文体。
僕の本はいいことも書いてるんだけど、私生活が出過ぎてて。
木下くんの入門書は無駄な部分がない。
とにかくいいことがいっぱい書いてあって、表紙もキラキラしていて、羨ましくてしょうがない。
僕もこれみたいな本を作りたいと思った。」
木下さんの入門書は、ある書店で何かやってほしいと言われ、
「何かやるなら短歌のことを話そう」
と開催した「天才による凡人のための短歌教室」の内容をまとめたものなのだとか。
実際にお客さんに話したことの中で「失敗してる」と思ったものを外してまとめたので、本にする前に内容を試す場があったわけです。
さらに、木下さんの入門書は出版社・ナナロク社の村井さんの(木下さんを取り上げた「情熱大陸」にも出演されていました)
「ここはいる・いらない」
の判断が入っているのだとか。
ちなみに、木下さんの第3歌集も同じ出版社から出版されていますが、短歌の本も木下さんがまとめて作った作品の中で二人で「これがいる・いらない」と決めたのだそうです。
木下さんは自分の短歌があまり好きでないので、作った短歌が選ばれなくてもいいとのこと。
「一首作り始めると自分が納得するまで推敲で突き詰めて行くんだけど、完成するとその短歌には興味なくなる。」
枡野さんは
「僕はそうじゃないなあ」、
山階さんは
「出来がいい作品は好き。」
歌人によって、随分違うものですね。
このイベントでは質問に答える時間もあったのですが、続きはまた次回に。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
*ふと立ち寄った自宅近くのギャラリーの展覧会がとても素敵で、
1日の疲れが吹っ飛びました。
(撮影OKでした)