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「短歌ブームは出版社と書店のがんばりが大きい」短歌西荻派の夕べ

前回に続き、10月22日に西荻窪・今野書店で開催された3人の歌人による「短歌西荻派の夕べ」のお話です。

枡野浩一さんは
「(過去何度か短歌ブームだと言われてきたが)今が一番短歌ブームなのでは」
とおっしゃっていましたが、ある書店を訪問した際、目の前である若手歌人の歌集を買っていくお客さんを見て
「目の前で歌集を買っている人を見るって相当ブームだな」
と実感されたとか。

枡野さんによると、今の短歌ブームは出版社と書店員の方のがんばりが大きいのだそうです。

いくつかの出版社が若い人たちの本を積極的に出版し、流通させたこと。

そして、とても大切なのは売る側が熱心になること。

枡野さん曰く、「書店員さんががんばらないと本は売れない。」 

キーパーソンとなる短歌が好きな書店員さんたちが全国の本屋さんに点在してアクションを起こしたことが今の短歌ブームに繋がっているのだそうです。

ちなみに、西荻派結成の立役者となった今野書店の書店員の花本さんは、

以前吉祥寺の書店に勤務していた頃、枡野さんの本の中で一番売れた「ショートソング」という本を猛プッシュし、実際に非常によく売れたのだとか。

木下龍也さんも実際に書店を訪問していて
「歌集を売ることに対して熱量のある方が増えた」
と実感されているとのこと。 

枡野さんの若かった時代には一つの書店にそのような書店員さんが2人も3人もいる、ということはなかったので、今の状態にびっくりしているそうです。

枡野さんは
「改装中の三省堂の仮店舗でレジ前に短歌コーナーがあることに驚いた」
と話していましたが、木下さんも
「三省堂の方も熱心で、僕の知らないような歌集もおいてある」
と話していて、やはり書店さんが積極的に短歌を押しているのですね。

自分で書店の短歌コーナーをのぞいても、
「あれ、短歌コーナーってこんなに広かったっけ?」
と思うくらいのスペースに、古典から装丁も楽しい最近の歌集まで並んでいるお店も。

書店員さん手書きのPOPもあり、あれこれ手にとって見たくなるのです。 

そして、西荻派のお三方の歌集のお話に。
(いずれも最新刊)

枡野さんと木下さんの歌集は贅沢に1ページ1首。

山階さんの歌集は1ページに3首。 

これは、山階さんの作品が連作で、枡野さんと木下さんの作品はそれぞれが独立した作品で、あえて一首一首読んでもらうため、なのだそうです。

枡野さんご自身は連作が嫌いなのでご自分の歌集は1ページ一首にされているそうですが、
「山階さんの歌集はあんまりたくさん読んでいる気がしない作風だし、ストーリー性もあって読んでいてすごく楽しい。」

「僕は連作を作るのが苦手」という木下さんの新刊(「オールアラウンドユー」)には過去作と今年新たに作った作品から選んだもので、一首ずつ独立した歌集。 

この歌集をある方が
「一輪挿しみたいな短歌」
とおっしゃったそうですが、確かに一輪挿しの花のように一首一首、ゆっくり味わう歌集だな、と思いました。

ちなみに、わたしの投稿を読んだ方から、
「短歌も紹介してください」
とのリクエストをいただきました。
(そうですよね!) 

西荻派のお三方の短歌を一首ずつ紹介させていただきますね。

「なぜ人を殺しちゃだめか 仲直りする可能性つぶさないため」
(枡野浩一)

わたしには子供がいませんが、もし子供に「なぜ?」と聞かれたら、こんな風に答えたらよかったのかな、と思いつつ読みました。

「花を嗅ぐひとときだけは許されたような気持ちでマスクを外す」
(木下龍也) 

このイベントの後、お三方のサイン会があり、わたしも皆さんのご著書にサインをいただきました。
(「今野書店で買った本以外でも持参OK」としてくださった今野書店様、太っ腹!)

わたしは本を読むとき好きな言葉や歌のページに付箋を貼っておくのですが、木下さんの歌集「オールアラウンドユー」の中でわたしが付箋を貼っていた歌の一つがこの作品。

まさにコロナ禍の生活のひとこま、の作品ですね。

木下さんはサインだけでなく、わたしが付箋を貼っていたこの歌も書いてくださいました。

「でも祖母はあの夏を生き延びたのだ広島行きの切符をゆずり」
(山階基)

山階さんご自身のお祖母様のお話なのかどうかはわからないのですが、きっとそうして生き延びた方もいたでしょう。

その幸運を喜びたい気持ちもあるけれど、その譲られた切符で広島に向かい、被爆された方もいる方もいると思うと、なんとも言えない気持ちになる。 

静かな口調のこの短い言葉の中で、様々なことが頭をよぎる。
すごい、と思いました。

長くなりましたので、続きはまた次回に。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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