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「摘んだ花には、この美しさのどれほども残らないのだ」

「空色勾玉」萩原規子 

2022年2月4日 再読


6歳のころ、鬼に追われた夢を繰り返し見る
村娘の狭也。
15歳の祭りの夜、夢に見た「鬼」が追いついた。
「闇(くら)の氏族の巫女姫よ。
われらともに戦ってくれ。」
運命を受け入れられない狭也は、
あこがれ続けた輝(かぐ)に救いを求める。
輝の神殿で采女として仕える中で、
神殿の中に幽閉されて夢を見る「輝」の末子、
稚羽矢と出会う。

神々が歩く「豊葦原」を舞台に生をつかさどる「輝」と死をつかさどる「闇」の氏族が争う世で
「水の乙女」と「風の若子」が出会い
運命の恋に落ちる。

古事記の世界観をベースに
古代日本を舞台にしたファンタジー。
児童文学でありながら、
日本史研究に少しでも触れた人ならば、
その世界観の緻密さに心惹かれることと思う。

いつかなくなるからこそ美しい

生まれ変わりによって力を継承する闇(くら)の氏族と、
不死で絶対的な美しさを持つ輝(かぐ)の氏族の争いを
舞台にしていて、
生と死が裏テーマになっているように感じる。

主人公の狭也は闇の氏族の巫女、「水の乙女」。
輝の氏族の出来損ないの末子であり、
「風の若子」の稚羽矢と出会う。
二人は大蛇の剣という神をも倒す強大な力をもつ
剣を鎮め、振るう力を持つ。

不死が故に人の痛み、はかなさを知らない稚羽矢との
やり取りの中で狭也はこの世の美しさを再確認していく

この本の中には失われゆく日本の原風景であったり、
古き良き八百万の神々への信仰心が
自然にちりばめられていて、
日本って美しいんだ、ということを思い出させてくれるような気がするところがイチオシポイント。

現代に生きる日本人はそのことを
ついつい忘れてしまうけれど
美しい自然は手が加わってしまった瞬間に
そのものではなくなってしまう。
松虫草が広がる花畑でのシーンを読んで、
改めてそのことを覚えておきたいなあと思った。

児童書にはあるまじき、
割と重めな世界観ではあるけれど、
だからこそ
現実世界に疲れた大人にも刺さるのかもしれない。

ついつい忙しない日常の中で見過ごしてしまいがちな
美しさやまわりの人の大切さを感じる作品。
読み終わった後には、
日本にいた神々は今どこにいるのだろう、
ときっと思うはず。

読んでほしい人

  • ファンタジーが好きな人

  • 日本史、特に古代史が好きな人

  • 田舎の原風景が好きな人

  • 最近疲れてるなあ、って思う人

  • どこかに神様らしきものはいるかもと思う人

  • 神話が好きな人

中学生のころ、
学級文庫にあって夢中になった本でした。
図書館でもティーンズコーナーにあって
ちょっと手に取るのをためらったり。(笑)
でも、対象年齢なんて本にはないんだと思いました。

21歳になって、
大学で日本史をちょっぴりかじった今読み返してみると緻密な背景設定や作者の方の知識の深さに
感銘を受けました。
日常を離れてみたい、そんなときに、ぜひ。

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