新刊『チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方』発売決定!先行して「はじめに」を全文公開します。
チームづくりに関する最新刊『チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方』(池田 めぐみ・安斎 勇樹 共著)を今月末に発売します。Amazonで予約が開始されていますので、ぜひ発売前にご予約ください!
本記事では、一足先に書籍の「はじめに:チームの行く手を阻むもの」を公開いたします。※校正前の原稿ですので、発売時のものとは若干異なります
チームに降りかかる「困難」を乗り越えるには
早く行きたければ一人で行け。遠くへ行きたければみんなで行け。
(If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.)
これはアル・ゴア元米副大統領がノーベル平和賞授賞式典の演説で引用し、有名になったアフリカの諺です。
一寸先も見えない現代において、これまでのような「個人プレイ」ではなく「チームで成果を出す」ことが、あらゆる職種で求められるようになってきています。
しかし現実には多くの「困難」が降りかかり、チームの目標や基盤を脅かします。
ロングセラー商品の突然の不振。業界破壊的なスタートアップの出現。
人手不足に業績不安。取引先の無茶な要求。理不尽なクレーム。SNS炎上。
ギスギスした人間関係。コミュニケーション不全。エースの離脱。
ひとつの「困難」を解決できぬうちに、また次の「困難」が立ち現れる。まさにストレスフルな状態です。
このような「困難」をやりすごす術を、私たちは持っていないわけではありません。
“我慢は美徳”の教えに従って、苦難が去るまで耐え忍ぶ。
誰かを悪者にして、自分には関係ないと言い聞かせる。
二度と同じ過ちを起こさぬように、辞典のようなマニュアルを作成する。
けれども、私たちはすでに理解しているはずです。このような場当たり的なやり方では、いつまでも長くは続かず、目の前の「困難」の根本的な解決にはならないことを。
何かある度に責任を取らされるリーダーには、やがて誰も立候補しなくなるでしょう。
不祥事の度に増えるマニュアルの禁止事項は、すでに覚えきれる量ではありません。
ミスをする度に小言を言われていた新人は、いずれ体調を崩してしまうかも。
チームの「困難」を本質的に乗り越えるためには、私たちには何が必要なのでしょうか。
不確実性が常に私たちをモヤモヤさせる
この「困難」の厄介さに拍車をかけているのが、時代の「不確実性」です。
不確実性とは、未来の結果が予測できず、リスクをコントロールできない状態を指します。この先どうなるのかわからない。いま何が起きているかもわからない。まさに「わからなさ」が靄(もや)のように立ち込めている状態です。
「困難」と「不確実性」の相互関係は第1章で詳しく考察しますが、ここでは時代の「不確実性」が生み出す人間のストレスのメカニズムについて、整理しておきましょう。
人間のストレスは、外部からの不快な刺激(ストレッサー)に対する脳の反応であることは、広く知られている事実です。
ところが興味深いことに、人間は「予測できる刺激」よりも「予測できない刺激」のほうが強くストレスを感じることが、ある実験によってわかっています。
たとえば5秒後に電気ショックがくることがあらかじめわかっていれば、それが仮に耐え難い痛みであったとしても、それなりに耐えることができます。
しかしさほど強い痛みではなかったとしても、それが「いつ与えられるかわからない状況」のほうが、人は大きなストレスを感じるというのです。
予測がつかないだけでなく、刺激の「原因」がわからない場合も同様です。まったく心当たりがない頭痛や腹痛が不定期に繰り返される状況を思い浮かべてみてください。放っておけば治るのか。すぐに病院にいくべきか。何科を受診すればいいのか。原因と輪郭が捉えどころのない刺激もまた、私たちにとってストレスフルなのです。
すなわち人間は、自分にとっての「困難」の痛みそのものだけでなく「不確実性」が高まった状況において、強いストレスを感じるということです。外部環境が不確実であることは、私たちに恒常的なストレスを与え、常に「モヤモヤ」させるのです。
ストレスから逃げるほど、ストレスを増長する悪循環
不確実性が、なぜ「困難」に拍車をかけるのか。
それは、人間は自分自身にストレスが発生すると、ストレスの「根本原因」を取り除くことよりも、ストレス感情を「一時凌ぎ」することを優先してしまう性質を持っているからです。
すなわち肝心の「困難」を解消しようとするよりも、不確実性によって発生したストレスを「とりあえず減らす」ことを優先するあまりに、一人ひとりが「逃避的行動」に走ってしまうのです。
逃避的な行動とは、困難な状況の「犯人」を探して、責任を誰かに押し付けること。それが見つからなければ、組織や社会のせいにして、愚痴を発散すること。困難そのものから目を背けて、逃げたり、諦めたりすること、です。
ましてや現代は外部環境の変化のスピードが増し、慢性的にリソース(時間、予算、人手など)の不足に悩まされています。じっくり腰を据えて不確実性や困難に向き合う余裕がないなかで、私たちは取り急ぎ、ストレス源から退散しようとしてしまうのです。
もちろん「逃げる」ことは、必ずしも悪いことではありません。心身が脅威にさらされた時には、その場から撤退することが必要な場面もあるでしょう。
しかしチームの全員が自分自身の心を守るために逃避的な行動を取り続けている限り、困難は解消されません。
この先どうなっていくのか。いったい今何が起きているのか。どうすればうまくいくのか。
チームにとっての不確実性と困難は、一人ひとりが「逃げ」続けている間に、どんどん膨れ上がっていくのです。
各自がストレスを減らすための行動が、悪循環的にストレス源であるチームの困難と不確実性を助長してしまう。これが、困難が永久に解決されず、不確実性が低減されない根本的な問題構造なのです。
チームレジリエンスで困難を乗り越える
本書『チームレジリエンス』の目的は、不確実性の中で次々に降り注ぐ「困難」を乗り越える強いチームをつくるための処方箋を、最新の学術研究の成果に基づいて提案することです。
レジリエンス(resilience)とは、「回復力」「復元力」「弾性」などを意味する言葉です。危機的な「困難」に直面した際に、精神的に折れずに立ち直り、回復するための能力やプロセスを指す言葉として、近年注目されています。
元々は戦争や飢餓、幼少期のトラウマなど、逆境体験に関する心理学的研究から発展してきた概念です。その後、震災からの回復プロセスとして社会学や災害学などの領域で発展し、現在はビジネスに不可欠な要素として、キャリア論や組織論において注目されています。
しかし前述した通り、個人が自分の身を守るだけの「独りよがりのレジリエンス」では、目先のストレスが軽減できるだけで困難と不確実性は低減できません。レジリエンスをチームの力によって高めていくことで、一人ではお手上げだった困難と不確実性にも負けないチームをつくることが、本書の提案です。
また、もしかすると「うちの会社はコンプライアンス体制もしっかりしているし、危機管理は万全だよ」と考えている人もいるかもしれません。
しかし、たしかにそれは企業経営のリスクヘッジの観点からは素晴らしいことではありますが、強いチームを作るレジリエンスの観点からは、注意が必要です。
困難を創造的に乗り越えてチームが成長することと、問題を誰かの責任にしてマニュアルを分厚くすることは、まったく別のことだからです。
チームでレジリエンスを発揮することは、もちろん簡単なことではありません。そのアプローチを紐解くと、心をケアすること、自分の感情に向き合うこと、正しく問いを立てること、対話をすること、良い教訓を残すこと。これらを限られたリソースを使いながら組み合わせて実行する複合的な能力だといえます。
困難が発生してから対処するのではなく、日頃からチームで連携してリスクに備えておくことも必要です。
しかし、それぞれにはきちんと理論があり、実証された根拠があります。本書ではレジリエンスに関する50本を超える海外の研究論文を下敷きにしながらも、
誰にでも実践可能なかたちでチームレジリエンスを高める方法をまとめています。読みやすくするため、なるべく本文には研究を引用していません。背景にある理論や根拠を知りたい場合は、注釈を辿ってみてください。
本書が困難に溢れる不確実な現代社会において、創造的に働くための一助となれば幸いです。(「はじめに」以上)
最新刊『チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方』の発売は5月31日です。ぜひこのタイミングでAmazonで「予約」をいただけるととても嬉しいです!また周囲に関心ある方がいらっしゃいましたら、ご紹介&SNSで拡散いただけましたら幸いです!
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