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レポート:会社はだれのもの?!短期利益ではなくパーパスに資する「スチュワード・オーナーシップ」の実践をヨーロッパからきく【Governance for Impactインタビューシリーズ/Zebras Cafe特別編】
今回は、Tokyo Zebras Unite/Zebras and Companyと一般社団法人World in Youの共催で開催された『スチュワード・オーナーシップ(Steward-ownership)』に関するトークイベントの記録です。
スチュワード・オーナーシップ(Steward-ownership)とは、既存の株主価値を優先する企業の所有構造に代わる新たな企業所有構造(a corporate ownership structure)です。
2022年、パタゴニア(Patagonia)の創業者であるイヴォン・シュイナードおよびシュイナードファミリーが非営利団体を設立し、そこにファミリーが保有するパタゴニアの株式の98%を移行しました。
その際に「Earth is now our only shareholder(地球がいまや、唯一の株主だ)」とメッセージを発したのは記憶に新しいところです。
このように、スチュワード・オーナーシップ(Steward-ownership)という、株主の利益最大化ではなく、従業員等企業に直接関わる人々が株式を所有し、長期的に企業のパーパスに資する経営を行うためのガバナンスの仕組みを取り入れているのはパタゴニアだけではありません。
Bosch、OpenAI、IKEA、Ecosia、BuurtzorgTなど世界各国の多くの組織がスチュワード・オーナーシップ(Steward-ownership)に則った仕組みを取り入れています。
イベント当日は、PURPOSEグループのアニカ・シュナイダー氏 (Annika Schneider)と、当グループの運営する財団に支援を受けたStapelsteinのステファン・シェンク氏 (Stephan Schenk)をゲストに迎え、ヨーロッパにおけるスチュワード・オーナーシップ(Steward-ownership)の実践について伺いました。
なお、当日の様子は全編英語での進行となっていますが、以下からご覧いただけます。
以下、主催団体である一般社団法人World in YouとTokyo Zebras Unite/Zebras and Companyについて紹介した後、当日の内容について印象的だった部分についてまとめていきたいと思います。
一般社団法人World in You
一般社団法人World in Youは、『世界の誰でも どこからでも より良い社会づくりに力を発揮しあえる世界』をビジョンとして掲げ、社会的な利益を実現するために活動するリーダー、組織、コミュニティを育てるため、様々な地域の様々なセクターの橋渡しを行う非営利団体です。
2011年、東日本大震災を機にWorld in Asiaとして設立された当団体は、2013年7月に前代表理事・加藤徹生さんから山本未生さんへ代表が引き継がれました。
その後、2014年にWorld in Tohoku(WIT)へ、2022年に現在の名称World in Youへと改称しながら活動を続け、現在に至ります。
これまでの活動の中でWorld in Youは、被災地で復興や新しい社会づくりに取り組む社会起業家が、中長期で持続可能なインパクトのある活動をしていくことに貢献できるよう、経営支援や、日米のビジネスリーダーおよび多様なバックグラウンドの人々と共創していけるネットワークの構築、人材育成や組織基盤の構築に取り組んできました。
そして現在、World in Youは非営利団体の意思決定が行われるガバナンス、組織構造に着目し、理事会やボードメンバーを対象としたトレーニング、コンサルティングも実施しています。
Tokyo Zebras Unite/Z&C
本企画の登壇者のお一人である田淵良敬さんは、Tokyo Zebras Uniteの共同創設者/代表理事であり、株式会社Zebras and Companyの共同創業者/代表取締役です。
まず、ゼブラ企業とはそもそもどういったものか?について簡単に紹介した後、Tokyo Zebras Unite、株式会社Zebras and Companyについて、また、国内におけるゼブラ企業の広がりについてまとめたいと思います。
ゼブラ企業とは?
ゼブラ企業(Zebras)とは2017年、 ジェニファー・ブランデル氏(Jennifer Brandel)とマーラ・ゼペダ氏(Mara Zepeda)、アストリッド・ショルツ氏(Astrid Scholz)、アニヤ・ウィリアムズ氏(Aniyia Williams)の4名の女性起業家が発表した"Zebras Fix What Unicorns Break"によって提唱された概念です。
ゼブラ企業(Zebras)が提唱された背景には、ユニコーン企業(Unicorns)と呼ばれるスタートアップの存在がありました。
▼ユニコーン 未上場ながら投資家から高い評価を受け、企業価値が10億ドル(約1400億円)以上に達した新興企業を指す。めったに現れないという意味を込め、伝説の生き物である「一角獣(ユニコーン)」になぞらえた。ベンチャー投資家のアイリーン・リー氏が2013年に名付けたとされる。
このユニコーン企業は、ある側面からは短期・独占・株主至上主義といった現在の資本主義のあり方を象徴していると言えます。
ユニコーン企業に対し、ゼブラ企業の特徴については、提唱者らは以下のように述べています。
いくつかのシンプルな原則を挙げながら、私たちは「ゼブラ企業」というオルタナティブな(世界観の)物語を概説しました。
「ゼブラ企業」は…
・(ユニコーンのような)神話上の存在とは異なり、実在する。
・黒と白の両方を持ち、利益と目的の両方を追求する。
・創業者や解決しようとしている問題の多様性を象徴するように、さまざまなストライプ(側面)がある。
・世界にとってより良いビジネスを構築するために、協力的かつ精力的である。
・従業員、地域社会、環境に配慮しながら、上記のような姿勢で事業に取り組んでいる。
In a few simple principles, we outlined an alternative narrative for “zebra companies” that, unlike their mythical cousins, are real; are both black and white, striving for both profit AND purpose; come in many different stripes, representing the diversity of their founders and the problems they are solving; are collaborative and feisty as they build businesses that are better for the world; and do so while taking care of their workforce, their communities, and their environment.
ゼブラ企業に関するムーブメントについては、以下の記事もご覧ください。
日本におけるゼブラ企業の広がり
2016年、ジェニファー・ブランデル氏(Jennifer Brandel)とマーラ・ゼペダ氏(Mara Zepeda)が公表した"Sex & Startups"をきっかけにアストリッド・ショルツ氏(Astrid Scholz)、アニヤ・ウィリアムズ氏(Aniyia Williams)は出会い、後のZebras Uniteに繋がる活動が開始されました。
2016年に任意団体としてアメリカ西海岸で発足し、2020年に組合組織として再編されたZebras Uniteは、「ゼブラ企業」の概念に共感し、ムーブメントを生み出すコミュニティです。
日本におけるローカルチャプターであるTokyo Zebras Uniteは2019年11月に発足し、2021年には「ゼブラ企業」の増加と成長支援を実行する株式会社Zebras and Companyが設立されました。
さらに2023年6月、日本政府は「経済財政運営と改革の基本方針2023(通称「骨太の方針」)」および「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を閣議決定により発表し、その中で「ゼブラ企業の創出とインパクト投融資の拡大」を促進していくという方針を明らかにしました。
中小企業庁は、「ゼブラ企業」は社会課題を成長のエンジンに転換していく、地域経済の新しい担い手となり得る事業者と位置付け、2023年10月の第一回地域の社会課題解決促進に向けたエコシステム研究会の事務局資料で言及している他、今年3月1日には地域の社会課題解決の担い手となるゼブラ企業(「ローカル・ゼブラ企業」)の創出・育成に向けて「地域課題解決事業推進に向けた基本指針」を策定し、公表しています。
スチュワード・オーナーシップとは?
PURPOSE Group
当日、登壇されたゲストのお一人であるアニカ・シュナイダー氏 (Annika Schneider)が所属するPURPOSE Groupは、企業におけるスチュワード・オーナーシップを構築するためのコンサルティング、ツールキットの提供、財団としての資金援助といった多種多様な活動に取り組んでいます。
PURPOSE Groupの始まりは2015年に遡り、アルミン・シュテウナゲル(Armin Steuernagel)、アヒム・ヘンセン(Achim Hensen)、アドリアン・ヘンセン(Adrian Hensen)、アレクサンダー・クール(Alexander Kühl)らによって設立されました。
Co-Founderであるアルミンは、当時16歳の未成年の時に、自身が設立したばかりの会社の所有権、財産をめぐって裁判所の前に立ったという原体験の持ち主です。
企業は純粋な投機の対象とみなされ、従業員や環境の利益よりも利益を優先する経営者たちによって意思決定されることがあまりにも多い。
Unternehmen werden zu oft als reine Spekulationsobjekte gesehen und Entscheidungen von distanzierten Managern getroffen, die eher Gewinne als das Beste für Mitarbeiter und Umwelt im Sinn haben.
こうした背景もスチュワード・オーナーシップの構築に影響していることが伺えます。
2015年に創設されたPURPOSE Groupは現在に至るまで、スチュワード・オーナーシップへの道を歩む数多くの企業を支援し、スチュワード・オーナーシップの実践はEU、北米、中南米といったグローバルな取り組みへと広がっています。
スチュワード・オーナーシップ
通常、企業におけるオーナーシップを考えるときに、大きく2種類の権利があるとアニカは話してくれました。
それは、議決権(Voting rights/Power)と経済的権利(Economic rights/Money)です。
現在の企業の経営において、これらは現場で働く人々の手元にではなく、業務に携わらず、現場にいないオーナーの手元にある場合も多く見られます。
スチュワード・オーナーシップの構築・実践は、この構造をリデザインするプロセスでもあります。
PURPOSE Groupが語るスチュワード・オーナーシップの定義とは、株主価値優先主義に代わる企業所有構造(a corporate ownership structure)です。
そして、スチュワード・オーナーシップは、2つの原則を法的に定めることにより、企業が短期的な利益よりも長期的な目的を優先することを保証するものと言います。
自己決定
会社に対する権力は投機的なものではなく、会社の運営と使命に直接関係する人々、つまり不在のオーナーではなくスチュワードが握る。
SELF-DETERMINATION
Power over the company cannot be speculated with but is held by people directly connected to the company’s operation and mission: stewards, not absentee owners.
パーパス志向
利益はパーパスを達成するための手段であり、それ自体が目的ではない。会社で生み出された価値は、株主によって引き出されることはない。利益は再投資されたり、資本コストに充てられたり、寄付されたりする。
PURPOSE-ORIENTATION
Profits are means to a purpose, not a goal in itself. Value created in the company cannot be extracted by the shareholders. Profits are reinvested, used to cover capital costs or donated.
上記2つの原則をもとに、各国、各地域ごとの法的規制に基づき、カスタマイズしながら企業のガバナンスをデザインする、というのが大枠であるとお話いただきました。
Stapelsteinの実践事例
PURPOSE Groupのアニカ・シュナイダー氏 (Annika Schneider)に紹介される形で次に登壇されたのが、Stapelsteinのステファン・シェンク氏 (Stephan Schenk)です。
Stapelsteinはドイツ・シュトゥットガルトに拠点を置く玩具メーカーであり、ステファンはその創業者兼デザイナー、また、現在はStapelsteinのスチュワード・オーナーです。
ステファンは子どもたちにとって基本的なニーズである遊びと運動、身体を動かすことの重要性を考え、年齢、能力、性別に関係なく、子どもたちの遊びの時間に動きを加える製品を生み出すため、Stapelsteinを立ち上げました。
2016年、デザイン学科の学生だったステファンはエンジェル投資家に出会うことができ、2人の仲間と共に会社を設立しました。
その後、2019年に最初の利益を出すことができたものの、エンジェル投資家たちとのミーティングの中で会社の運営構造に疑問が出てきたと言います。
ステファンとしては、出てきた利益をより大きなインパクトを生み出すため、新たなアイデアの開発のために再投資しようと考えていたのですが、投資家たちは「いやいやいや、再投資はできないよ。我々は最初の利益が欲しいんだ」と話したと言います。
この時、ステファンは自身の組織の意思決定に関わる議決権(voting right)を33%しか持っておらず、さらにCo-Founderのハンナ・ケーニック氏(Hannah König)は議決権を持っていなかったと言います。
これに加え、投資家たちはステファンを会社から追い出すことも可能な状態であり、ステファンは常に、実際に会社で働いていない他の人たちのイエスが必要な状況に置かれていました。
このような状況について、ステファンが以下のように語っていたのが印象的でした。
『私たちの会社のDNAの中に、何か間違ったものがあることに気づいたんだ。』
この状況から抜け出すべく、ステファンはPURPOSE Foundation(PURPOSE Group)の協力を得ることになったと言います。
現在、ステファンおよびハンナはスチュワード・オーナーとして組織の意思決定に関わることができるようになり、投資家との向き合い方・付き合い方についてもクリアになったとシェアしてくれました。
また、昨年の売上高は約1600万ユーロに達し、従業員は30人ほどに成長。
パーパス(目的)志向の組織で働けていることに満足しているとも話してくれました。
英治出版の事業承継事例
上記、スチュワード・オーナーシップおよびStapelsteinの事例に関連して、田淵良敬さん(Tokyo Zebras Unite/株式会社Zebras and Company)からは英治出版株式会社の事業承継を事例として紹介いただきました。
フレデリック・ラルー著『ティール組織』、ピーター・M・センゲ著『学習する組織』、安宅和人著『イシューからはじめよ』などベストセラーを送り出す出版社として著名な英治出版は、一般社団法人WIT(現World in You)が翻訳した『非営利組織のガバナンス』を手がけた出版社でもあります。
![](https://assets.st-note.com/img/1711166488465-kRXBLOrCBz.jpg?width=1200)
この英治出版がパーパスを守る目的の黄金株(golden share)を1株を残して、面白法人カヤックの子会社化することが先月2月末に発表されました。
スキームとしては、以下のようなものです。
英治出版の普通株式5800株(発行済み株式の約99.9%)をカヤックに譲渡。残り1株(同約0.1%)を社名・パーパス変更に拒否権を持つ種類株式に転換し、英治出版従業員で構成・運営する新設の「一般社団法人英治出版をつなぐ会」が保有する。
この事業承継の検討開始から田淵良敬さんが代表を務めるZebras and Companyは伴走、サポートされていたとのことです。
田淵さん自身もまた、国内における黄金株(golden share)を扱った取引として素晴らしいものだったのではないか、と称されていたのが印象的でした。
さらなる探求のための参考リンク
3/27(水)ゼブラ企業とスチュワード・オーナーシップ:ステークホルダーを巻き込んだゼブラ的意思決定の仕組みとは
4/25 (木)Governance for Impact 勉強会 〜 会社はだれのもの?!短期利益ではなくパーパスに資する「スチュワード・オーナーシップ」の実践 - ヨーロッパと日本の事例
【ゼブラ的解説】地球を唯一の株主に?パタゴニア株式譲渡の仕組みとその意図とは?
英治出版、買収受け入れに際してパーパスを守る「黄金株」を活用
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