力と愛の両極を行き来する:アーノルド・ミンデルとアダム・カヘンの共通点を探り、その先を探求したABD読書会での学び
今回の記録は、今年1月から継続的に参加し始めたアーノルド・ミンデル著『対立の炎にとどまる(原題:Sitting in the fire)』のオンライン読書会の最終回での気づきのレポートです。
『対立の炎にとどまる』ABD、前回までの振り返り
第一回の記録では、私がアーノルド・ミンデル氏の思想に初めて触れたきっかけや、ファシリテーターが直面する「炎(fire)」とは何か?そして、2023年現在で再びこのテーマに向き合い、対話したときにどのようなテーマが上がってきたか?などをまとめました。
前回の記録では、第二回目となった今回のアーノルド・ミンデル『対立の炎にとどまる(原題:Sitting in the fire)』のABD読書会では、以下のような3つの問いについて、
このような問いを深めることができました。
また、ABDは、扱う本の詳細を理解するための活用は難しい一面はありつつも、テーマ性を持った本を継続的に読み、対話することで探究するコミュニティの形成に大きな役割を果たしうるのではないか、といったことも振り返りました。
以上のような流れを汲みつつ、今回は、第3回目。最終回のABDでの気づき・学びをまとめていこうと思います。
ABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎)とは?
有志の研究会がこれまでの読書会の限界や難しさを検討し、能動的な学びが生まれる読書法として探求・体系化したアクティブ・ブック・ダイアローグ®️(ABD)。
開発者の竹ノ内壮太郎さんは、以下のような紹介をしてくれています。
2017年、その実施方法についてのマニュアルの無料配布が始まって以来、企業内での研修・勉強会、大学でのゼミ活動、中学・高校での総合学習、そして有志の読書会など全国各地で、様々な形で実践されるようになりました。
ABDの進め方や詳細については、以下のまとめもご覧ください。
今回のABDのプログラム構成
以下、第三回目・最終回の読書会での気づきのまとめです。
当日のプログラムの進め方
当日の進め方は、これまでと同様に事前のサマライズ(分担された担当分のまとめ)を、専用のJamboardに書き込む形式で済ませておき、即座にプレゼンに入っていける準備を整えて始まりました。
互いの現時点の心境、気持ちを一言程度で話してウォーミングアップするチェックインを行い、その後は自身の担当分のまとめをプレゼンしていきます。
この時、一度に一気にプレゼンを終えてしまうのではなく、時々ブレイクを取り、まとめを眺める時間を取りながら印もつけるなどします。
その後、すべてのプレゼンを終えた後は、ギャラリーウォークの時間です。
小グループを作り、自身の担当した箇所での気づきや補足、小グループのメンバーとの対話を楽しみます。
最後は対話の時間です。
小グループに分かれての対話を楽しみます。
この対話の時間ですが、主催チームの竹ノ内さんのアイデアで、最近ではピースメイキングサークル×ワールドカフェという手法の掛け合わせと応用が行われています。
ピースメイキングサークル(Peacemaking Circle)
ピースメイキングサークルとは、1970年代、カナダ人判事のバリー・スチュアート氏(Barry Stuart)とファースト・ネイション(先住民族)の男性ハロルド・ゲイテンスビー氏(Harold Gatensby)の出会いによって生まれた対話の進め方の一つです。
円になって座り、コミュニティの癒しやより広い関係性とのつながりへと変容を促すこのプログラムは、一人ひとりが自分の体験/経験を物語り、深く耳を傾けあうことにより、自己理解、他者理解が進み、 チームやグループでは、親密感が高まり、強い共同意識が生まれます。
今回のABDでは、擬似的な焚き火もオンライン上で準備されていました。
ピースメイキングサークルにおいて、このような場の進行役はファシリテーターではなくサークル・キーパーと呼びます。
話し手の目印であるトーキングピースを持った人が物語る間、他の参加者は耳を澄ませ、同時に自身の中に湧き上がるものも感じます。
トーキングピースの持ち主が語り終えた時、トーキングピースは隣の人に手渡され、順番に耳を傾けては語りながら、プロセスが継続していきます。
ピースメイキングサークルについて、詳しくは以下のまとめもご覧ください。
ワールド・カフェ(World Cafe)
ワールド・カフェは1995年、アニータ・ブラウン氏(Juanita Brown)とデイビッド・アイザックス(David Isaacs)氏によって、1995年に開発・提唱された対話のプロセスです。
堅苦しい会議よりも、コーヒー片手に雑談がてら話した方が対話は盛り上がる!盛り上がったついでに、テーブルクロスに対話で話されたアイデアをメモしてしまおう!
そんな2人の経験から生み出され、体系化された対話プロセスです。
オーソドックスな方法は、グループごとの対話を、時間を区切って3ラウンド行う方法です。
参加者は、ファシリテーターによって問いかけられる「問い」をテーマに、各グループで自由に話し合いを進めていきます。
1ラウンド目が終わった時、同じグループのメンバーはある1名を残し、別のグループへと旅立ち、また違った人と次のラウンドをご一緒します。
リアルの会場であれば、開発者2人が使ったテーブルクロスに見立てた模造紙をテーブルの中心に置き、対話の中で生まれる気づきをマーカー等で書き留める等します。
そして、最後の3ラウンド目に1ラウンド目と同じグループに戻ってくると、別のグループで話されていた内容が、1つのグループに持ち寄られることになります。
テーブルには対話の中で書き込まれた模造紙も残っており、より豊かな対話の時間を作ることができる、というものです。
詳しくは、以下のまとめもご覧ください。
対話の中で扱われたテーマ
リーダーシップとエルダーシップ
本書の後半部において、特にリーダーシップとエルダーシップというものについて触れられることが多くなりました。
また、参加者の何名かは前日のアダム・カヘン氏の講演に参加しており、垂直型ファシリテーションと水平型ファシリテーションの両極を行き来するという感覚を持ちながら参加されていました。
まず、『対立の炎にとどまる』におけるリーダーシップとエルダーシップには、以下のような対比があります。
アダム・カヘン氏の垂直型ファシリテーション、水平型ファシリテーションには、以下のような対比があります。
双方に共通しているのは、LoveとPower…キング牧師も訴えていた愛と力の二つの側面について言及していること、そして、両者をうまく扱うためには両極の行き来が必要であるという点です。
対話の中では、
や、
といった問いについても探求を深めていきました。
放課後時間。互いの源泉(Source)に耳を澄ませる
今回のABDの実施後には、放課後時間が設けられていました。まだまだ残って話したいよ、という方は自由にお話ししましょうという時間です。
語りきれず自分も居残りしていたのですが、この時間はそれぞれの源泉(Source)に触れ、互いに深く耳を傾けていく時間になったように思います。
この時間にはたまたま、それぞれ突き詰めて探究していきたいテーマや分野がある人が残っていました。
ABD、ファシリテーション、コーチング、書くこと等です。
私は竹ノ内さんに改めて、「ABDを続けているエネルギーはどこから来るのですか?竹ノ内さんがABDに感じている可能性はどのようなものでしょう?」といったことをお尋ねし、
竹ノ内さんからも、「大森ちゃんの書くことの熱量…が本当にすごいけど、それはどういったところから来るのかな?」と、
互いに質問し合うことから対話を深めていくことができました。
竹ノ内さんの語られたABDについてのストーリーテリングは、以下のようなものだったと記憶しています。
そして、私の語った「書くこと」についてのストーリーテリングは以下のようなものでした。
放課後時間の魔法か、期せずして深い対話の時間に足を踏む込むことになりました。
この時のことを竹ノ内さんが「インクワイアリー」と称していたのが印象的でした。
ある集団で起こっているポジティブな側面や、自身の中にあるエネルギーの高まった瞬間、経験にフォーカスしながら問いによって探求を進めていくAI(Appreciative Inquiry:アプリシエイティブ・インクワイアリー)という組織開発の手法もあるのですが、
意図せず自然にそのようなプロセスが生まれたのが印象的でした。
ある人が自然にやってしまうことでも、別の人から見ればそれは特殊能力や特殊技能のようなもの、ということはよく起こります。
そのような互いのポジティブな側面が相乗効果を生む形でつながり合うことができたら、まったくそれ以前とは違った未来も見えてくるのかもしれません。
そんな希望を、今回の対話の時間を通じて感じることができました🌱
次はどのようなコラボレーションが生まれるか、楽しみです。