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レポート:ティール組織に学ぶメンタルヘルスセミナー〜ウェルビーイングが向上する次世代の組織を考える〜
本記事は、株式会社BowL(一般社団法人BowL)が主催した『ティール組織に学ぶメンタルヘルスセミナー〜ウェルビーイングが向上する次世代の組織を考える〜』をレポートしたものです。
2024年10月1日。株式会社BowLは解散し、所属するメンバーをそのままに一般社団法人BowLへと生まれ変わったため、今回のセミナーは一般社団法人BowLとして初めて開催する記念すべきイベント、という位置付けでもありました。
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当日は株式会社BowL共同創業者の荷川取佳樹さん(ニカさん)、徳里政亮さん(マッキー)からはBowLによる事例紹介と、特定非営利活動法人場とつながりラボhome's vi代表理事である嘉村賢州さんからはティール組織に関する話題提供が行われました。
また、一般社団法人プロモーションうるま理事の田中啓介さん(じょりぃ)がファシリテーターとして場に加わり、さまざまな情報が入り混じる当日の論点を整理しつつ、対話を深めてくださりました。
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会場となったSAKURA innobase Okinawaには60名を超える参加者が訪れ、質疑応答や対話にと積極的に参加されていました。
以下、当日の内容について関連する情報にも簡単に触れつつ、まとめていきたいと思います。
本セミナーの開催背景
登壇者4名の出会い
当日の登壇者である荷川取佳樹さん(ニカさん)、徳里政亮さん(マッキー)、田中啓介さん(じょりぃ)、嘉村賢州さんの4名の出会いは、2018年1月に『ティール組織』(英治出版)が出版された頃に遡ると言います。
BowLは『ティール組織』出版以前から、自社において管理を手放す経営を志向していました。
社員の主体性を尊重する組織文化を作るための対話に力を入れたり、組織の悪循環を抜け出すために「決めない。判断しない。行動しない。」を掲げて現場での判断と実行を後押ししようとしたり、制度面では人事評価の撤廃、年休取得を上長(ニカさん)による承認から現場での相談と相互調整によって行う等です。
そうした中、『ティール組織』に出会ったニカさんは「BowLの経営で表現したかったものがまさに言語化されている」と感じ、『ティール組織』的な取り組みをどうすれば自社において実践していけるかの探求に踏み出すことになりました。
またその頃、じょりぃさんもまた『ティール組織』に出会い、「日本にこの概念を紹介した嘉村賢州さんを沖縄に呼びたいよね!」とBowLの2人に声をかけ、賢州さんを囲んで『ティール組織』を読み解く読書会(ABD:アクティブ・ブック・ダイアローグ®️)で4名は初めて対面することとなりました。
株式会社BowL(一般社団法人BowL)とは?
2013年1月に創業された株式会社BowLは、沖縄県浦添市に拠点を置く、県内初のうつ病特化型のリワーク(復職・再就職)専門機関です。これまでに500名にのぼる方々の復職・再就職を実現されてきました。
うつに陥った方のサポートだけではなく、そもそもうつにならない社会づくりをめざすBowLは、新しい働き方・組織の作り方・制度設計を自社自ら積極的に挑戦し、BowL独自の「チームシップ経営」及びチーム、組織、経営支援アプローチを開発してきました。
2020年には、うつを発症させず、健康的に働ける組織づくりをポリネーション(他花受粉)していくことをめざし、一般社団法人ポリネを設立。ポリネでは、経営者・マネジメント層を起点に、人と組織がより健やかな状態へ変容していくための独自プログラムを提供されています。
ティール組織をはじめとする新たな組織運営、経営のあり方に関するBowLの発信は、2019年に開催された『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏の来日企画の分科会への参加が一つの契機になっています。
その分科会でBowLでも実践を進めているホラクラシー(Holacracy)という組織運営法について紹介されて以降、必要あれば全国各地へニカさん、マッキーが中心となって飛んでいき、新しい働き方、組織のあり方について紹介(ポリネーション)されるようになりました。
2020年4月には沖縄県のコワーキングスペースhowliveとの共催企画にて吉原史郎さんをゲストに迎え、ティール組織(Reinventing Organizations)及びホラクラシー(Holacracy)について紹介されました。
また、今年2024年5月には同じくティール組織、ホラクラシーの探求・実践を進める一般社団法人無限代表理事・石田慶子さんとの対談企画を奈良県で実施されてきました。
さらに、株式会社という法人形態と諸制度が、BowLが志向する経営のあり方と乖離しているという点から一般社団法人BowLへの移行を決断。
100%株主であるニカさんが株式を手放し、会社のオーナーの立場をおりることで、名実ともに経営権がメンバーに分配され、BowLの志向するチームシップ経営の土台とされました。
そして、2024年10月1日を以て一般社団法人BowLとして第二創業することとなり、今回のセミナーは一般社団法人BowLとして初めての企画に当たります。
セミナー中に語られたテーマの前提共有
当日のセミナーでは3時間という限られた時間の中でしたが、『ティール組織(Reinventing Organizations)』『パーパス』などの用語が何度か取り上げられました。
いずれもさまざまな文脈や、読み解きがいのある意図が含まれているため、以下、それぞれの概要について簡単に紹介します。
ティール組織(Reinventing Organizations)
『ティール組織』は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。
書籍内においては、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。
フレデリック・ラルー氏は世界中のユニークな企業の取り組みに関する調査を行うことよって、それらの組織に共通する先進的な企業のあり方・特徴を発見しました。それが、以下の3つです。
全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management)
存在目的(Evolutionary Purpose)
この3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介しました。
国内におけるティール組織に関する調査・探求は、2016年に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』に遡ります。
ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスに日本人としていち早く参加していた嘉村賢州さん、吉原史郎さんの両名は、東京、京都で報告会を開催し、組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。
その後、2018年に出版されたフレデリック・ラルー『ティール組織』は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞しました。
2019年には著者来日イベントも開催された他、『ティール組織』の国内への浸透はその後、ビジネス・経営における『パーパス』『パーパス経営』などのムーブメントの隆盛にも繋がりました。
フレデリック・ラルー氏は、書籍以外ではYouTubeの動画シリーズを公開しており、書籍で伝わりづらかった記述や現場での実践について紹介しています。
また、昨年12月には『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏も賛同し、国内の実践者の有志によって制作された、国内外の実践事例・翻訳記事などを紹介する情報ポータルサイトもオープンしています。
こちらのサイトでは、海外の実践事例や情報の翻訳や、従来の延長線上ではない、新しいパラダイムの組織づくりについての発信が行われています。
パーパス(Purpose)
フレデリック・ラルー著『ティール組織』において『存在目的』と訳された『Evolutionary Purpose』は、先述のようにティール的段階にある組織における特徴の1つとして挙げられています。
『ティール組織』(英治出版)の解説を担当した嘉村賢州さんは、たびたび先述のギリシャの会合で出会った組織コンサルタント、コーチのジョージ・ポア氏(George Pór)の発言を引用しながら存在目的(Evolutionary Purpose)の質感について紹介しています。
「この場の存在目的(evolutionary purpose)は何だろう?この5日間の会合が世界にとっての贈り物(gift)だとしたら、それはどういうものなんだろう?」
「賢州さん、子どもが生まれたとき、その子の人生をあなたが決めることはできませんよね。組織も一緒です。一度この世に生まれてしまった組織はもうあなたがコントロールできるものではありません。組織に寄り添い、組織が何のために生まれたのか?どこに向かおうとしているか?これらを一緒に探求するということしか、あなたにはできないのです。」
また、賢州さんは別の実践者から組織全体の存在目的、日々の業務を定義する役割の存在目的、そしてそこで働く一人ひとりの存在目的を探求するのに役立つ洗練された3つの問いを教わったと言います。
①この組織(役割・個人)は、この世界で何を実現したいのか?
②世界は、この組織(役割・個人)に何を望んでいるのか?
③この組織(役割・個人)がなかったら世界は何を失うのか?
このように、パーパスとは組織のものとは別に個人のパーパスもまた存在し、組織と個人のパーパスの共鳴が重要であることが示唆されています。
そして、この『Evolutionary Purpose』についての源流を遡ると、フレデリック・ラルー氏はHolacracyOne社のブライアン・ロバートソン氏に着想を得たと言います。
ブライアン・ロバートソン氏はパーパスに関して、以下のようにその質感を言い表しています。
どの組織にも、この世界で他の誰よりも発揮し続けることができるような、ポテンシャルやクリエイティブな能力がある。それは、歴史、社員、リソース、創業者、ブランド、資本、つながりなど、組織が活用できるあらゆるものによって実現できることだ。
それが、私が「パーパス」という言葉に込めたもの、いわゆる存在理由だ。
探しているものはすでに存在していて、見つかるのを待っている。子供の人生の目的と同じで、組織のパーパスとは決定される類いのものではないのだ。ただこう自問すればいい。
「この会社が現在置かれている状況や、手元にあるリソースと人材とキャパシティ、提供する製品やサービス、会社の歴史、市場空間などの要素に基づいて、世界のために何かを創り出したり表明したりできるような、この会社が持つ最も深いポテンシャルは何だろう?なぜ世界はそれを必要としているのだろう?」
権限分配型のモデルに移行するにつれて、パーパスはあらゆるレベル、あらゆる活動分野において意思決定の拠り所となる。
このように捉えてみると、組織のパーパスがなぜEvolutionaryなのか、その変化していくものである、という質感もより具体的に捉えやすくなるように感じます。
BowLの仮説:ティール組織×メンタルヘルス
以下、当日のセミナー内容についてより深掘りしつつまとめていければと思います。
BowLの仮説と実践事例
まず、マッキーから日本国内の企業におけるメンタルヘルス施策の説明と、なぜそれらが奏功していないのか?についての仮説が紹介されました。
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そもそも、メンタルヘルスとは何でしょうか?
健康とはどういった状態を指すのでしょうか?
WHO憲章には以下のような定義がなされています。
「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱 の存在しないことではない。」
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
国内におけるメンタルヘルス関連制度という観点では、2015年にストレスチェック制度が義務化され、2018年には働き方改革関連法の成立、2019年にはハラスメント防止法が成立するなど、着実に整備されつつあります。
実態がどうなっているかといえば、義務対象事業者の85%がストレスチェックを実施、作業環境や職場環境の見直し、心の健康を含む相談窓口の拡充が進むなど、こちらもまた着実にメンタルヘルス向上のための措置が取られつつあります。
にもかかわらず、2022年(令和4年)には強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者の割合は82.7%に増加しました(2021年以前は50%台)。
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では、何が足りていないのでしょうか?
BowLの仮説は以下のようなものです。
社会環境の複雑性の増大に対して組織が硬直化しており、外部環境への適応力を失っている。
組織に所属する人々は、変化する環境と硬直化した組織の組み合わせが生み出す人と人の関係性の希薄化、個人の処理能力を超える負荷に晒され、高ストレス状態に陥っている。
こういった状況に対し、BowLは組織の一人ひとりが真摯に仕事に向き合い、現場での出来事に柔軟に対応できるように権限移譲を行う文化づくりと制度設計に取り組んできました。
この過程で『ティール組織』に出会い、共鳴した結果「『ティール組織』的な取り組みが世の中に広がれば、そもそもメンタルヘルス不調に陥る人もいなくなるのでは?」と発想するに至ったとのことです。
なぜ、フレデリック・ラルー氏は『ティール組織』を書くことになったのか?
賢州さんからは、フレデリック・ラルー氏が『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』を書くことになったきっかけについてお話をいただきました。
『ティール組織』著者で現在はThe Weekという環境プロジェクトに取り組んでいるフレデリック・ラルー氏。
『ティール組織』執筆以前、マッキンゼーというコンサルティングファームに所属していたラルー氏は、「すでにお金を稼いでる人に、さらにお金を稼げるよう支援するこの仕事は人生にとって豊かなのか?」という問いに突き当たり、相談の結果、その仕事を辞めることになりました。
その後、ラルー氏はコーチ、ファシリテーターへ転身し、やりがいを失っている人、弱っている人を輝かせるこの仕事を一時は天職だと考えたのですが、それも長くは続きませんでした。
コーチングや対話の場で人やチームを支援して、その後人々を組織に送り返すことで、「構造的に病んでしまう組織を応援してるだけじゃないか?」という問いに突き当たったというのです。
「組織の構造を変えないと根本解決にならない」「 もっと俯瞰的に捉えてみよう」という思いから世界中を調査して旅する中で生み出されたのが、後の『Reinventing Organizations(邦題:ティール組織)』です。
世界の働く人々はやりがいを失ったり、時に病んでしまったりしている一方で、経営者の側も不安やプレッシャーに晒され、十分な稼ぎがあったとしても幸せな状態には見えません。
そのようなメカニズムが人類を動かしている。
一方、世界中のユニークな組織を調査する中で、圧倒的にお客さんから支持を得て、経済性も回っており、何より人々が幸せに働いている組織が、同時発生的にさまざまな地域、産業分野、組織規模でポコポコ生まれてきつつあるのを、ラルー氏は目にしました。
それらはいずれも従来型とは違うやり方で組織運営を行なっており、それらをまとめた結果生まれたのが『ティール組織』という経営コンセプトであり、共通していた3つの突破口が全体性(Wholeness)、自主経営(Self-management)、存在目的(Evolutionary Purpose)です。
ティール組織ではあらゆる階層やルールを撤廃して、人を信じて放置するというような誤解もありますが、実際は人が幸せに働き、経済性も実現できる組織のルールやプロセス、構造が発明されているとも、賢州さんは付け加えられていました。
なお、上記のようなラルー氏自身のストーリーは、以下の動画からもご覧いただけます。
PowerとLoveの軸からティール組織を整理する
賢州さん曰く、600ページ近くの『ティール組織』に書かれていることは2つだけだと言います。
1つは、人類がこれまで作り上げてきた組織の形態の歴史。もう1つが、世界で現れつつある最も新しいパラダイムの組織「ティール組織」の特徴とその事例です。
そして、レッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールという5つの組織形態は、大きくPowerとLoveの軸で整理することができるとのことです。
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Power:実現化重視プロセスを採用していると考えられるのが、レッド、アンバー、オレンジ組織です。
これらの組織は何より物事の達成力、実現能力が高く、トップの意見を重視するため組織文化、行動としても筋が通り一貫したものである場合が多い一方、組織としての可能性はリーダーの想定内の枠組みに収まったり、多様性が尊重されず仲間が疲弊することが考えられます。
他方、Love:集合的プロセスを採用していると考えられるのが、グリーン組織です。
人々の関係性が紡がれ、アイデアの創発が起きやすく、コミットメントも高まる一方、話し合いに時間がかかり、その結論もつぎはぎになったり、結果に責任を負う人が少なかったりということが起こり得ます。
また、稼ぐことに嫌悪や抵抗を感じるお金アレルギーの人や、過度な階層主義否定であるヒエラルキーアレルギーの人がグリーンを志向することもあり、これらのアレルギーを適切に癒さない限り、組織としてもうまく生きづらいと付け加えられていました。
なお、ティール組織はPower、Loveのいずれかの否定やカウンターではなく、それらを統合的に扱う段階として紹介されています。
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「愛なき力は暴力であり、力なき愛は無力である。」とはキング牧師の言葉ですが、力と愛を両極と置いた場合、どちらかの極に傾倒するのではなく双方を扱えるようになることの重要性を改めて感じられたように思います。
パーパスが組織に浸透するには?
前半、マッキーからはティール組織とメンタルヘルスの接続点、具体的なBowLの制度について簡単に紹介いただきましたが、そもそもBowLはどのような目的に向かって現在も活動しているのか、BowLのパーパスについても中盤から後半にかけてお話いただきました。
パーパスを探求する2種類のアプローチ
BowLの存在目的(パーパス)は、「こころが健康で在りつづける世界を」。ポリネの存在目的(パーパス)は、「人間らしい健康なチームをすべての人に」。
いずれも「〇〇する」という動詞が表現されていませんが、これらはメンバーそれぞれが咀嚼し、現場で自分なりに実践していくことを意図しているとのことです。
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なお、パーパスに関しては一度、集合的にセンテンスを編み出そうとしたもののつぎはぎ感があり、さらにメッセージ性も薄まったことで馴染まなかったと言います。
そのため、現在は「組織に命を吹き込んだニカさんの言葉が良いのではないか」ということで、ニカさんの直観に降りてきたものをメンバーとわかちあう方法を採用しているとのことです。
また、メンバーそれぞれがパーパスに共鳴できる機会として、BowLファミリアという対話の時間を設け、少なくとも月に2時間を対話の時間に充てているという実践についてもお話しいただきました。
サグラダ・ファミリアのように、完成することなくつくり続けているというイメージからBowLファミリアと名付けられました。「BowLらしさ」を作り上げる時に、みんなの声が入ってくるし、パーパス実現に近づけるためのあり方、方向性などゴールのないものについて共有して、対話しています。
賢州さんからは、パーパスは組織が自己組織化しやすくなる文脈をもたらすものだとお話しいただきました。
例えば、このセミナー会場へ何の説明もなく集められて「好きに振る舞ってください」と言われても混乱しますが、「ここはセミナー会場です」「ここはホームパーティの会場です」という文脈が共有されることで、人々はその文脈に沿って主体的に動きやすくなります。
また、パーパス探求のアプローチにもリスクを取って一歩踏み出し、組織を作り上げた人による個人からのアプローチと、仲間と対話し探求する集合的なアプローチという2種類があり、双方を行き来しながらジグザグに歩む中で、パーパスが更新されていくということも説明いただきました。
パーパスとニカさんの人間観
また、BowLの場合パーパスを編み出したニカさんの人間観もパーパスに反映されます。
BowLにおいてパーパスに共鳴できない人が出てきた場合、どのような対応が取られるのでしょうか。
じょりぃさんから投げかけられた問いに対して、ニカさんはBowL起業前から試みていたアプローチについて、働きアリの法則などに触れつつお話しくださいました。
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おおよその組織においては、高いパフォーマンスを発揮する2割、普通くらいのパフォーマンスを発揮する6割、パフォーマンスの低い2割が存在するという働きアリの法則ですが、ニカさん自身も下位2割の経験があったと言います。
その頃は良い仕事をしたいはずなのにうまく成果を出せず、ちゃんと教育を受けてきて社会人となった自分が未熟な子どものように扱われ、時には人間扱いされないような経験もされたと言います。
「なぜ、ここまで酷い扱いを受ける必要があるのか」
いざ、ある上司に真摯に問いかけてみると「お前の言うこともわかるが、この組織ではそうなんだ」と返事が返ってきました。
ある種、組織の都合を優先して払い除けられているとも取れるようなエピソードですが、ニカさんにとっては自身も苦い顔をしつつ真摯に向き合ってくれたその上司の存在がとても強く印象に残ったといいます。
同時に、人を不健康にしてしまう組織構造があるということと、その組織構造においては上司も部下も共に苦しむことになる、という発見もありました。
このような体験から、ニカさん自身がマネージャーの立場になった際は、サボっていたり、パフォーマンスの低い2割の人々にこそよくお喋りしにいくようになり、その背景を探るとともに話し切る・聴き切るの関係性構築を意識されるようになったといいます。
じょりぃさんは続けて「BowLにおいて、それでも合わないなとなった場合」について尋ねられると、ニカさんは「よりBowLとしての価値観を強く出す。諦めない」という2つの指針についてお話しされ、「それでも合わない場合は、自分の価値観や能力に合った別の組織を選んだほうがいい」と続けられました。
多様性の受容から多様性を生かす組織へ
ここまで、BowLはメンバー一人ひとりと向き合い、聴き切る・話し切るという関係性を作ることや、一人ひとりがBowLのパーパスに向けて自律的に動くための文脈共有の場として対話の場を設けること等、コミュニケーションや対話について強調されてきました。
ここからは後半部に扱われた「対話」の知恵と、人々の多様性を受け入れ、それを生かすアイデアとして紹介された「ウェルスダイナミクス」についても簡単にまとめられればと思います。
「対話」に関する奥深い知恵
そもそも対話とはどういったものか?という問いかけについて、賢州さんはまず、ダイアログ(対話)とディスカッション(議論)を分けること……意味や体験をわかちあい、共通認識が現れてくるような対話と、結論を出そうとしたり、異なる意見を戦わせ、成否を判断したりする議論とを分けて考えることについて紹介してくれました。
また、対話にも段階があり、世界的なファシリテーターであるアダム・カヘン氏や『U理論』を体系化した経営学者であるオットー・シャーマー氏が協働してモデル化した以下のような対話の発展の図式についてシェアしてくれました。
ダウンローディング(Downloading)
人々が、普段自分が言っていること・考えてることを、録音されたものをそのまま再生するようにコミュニケーションを取っている、また、礼儀正しく予測的に話す状態。儀礼的会話(Talking Nice)とも称される段階。
討論(Debating)
自分や相手の意見、考え方をオープンに話す・聞く、また、率直に自分の本音を話すが、合理的・客観的に判断するように聞いたり、相手の意見は聞き入れない状態。論争(Talking Tough)とも称される段階。
対話(Dialoguing)
自己の体験や本心を話し、相手の立場や考えを受け入れながら共感的に聞く、また、内省的に話し、聴いている状態。内省的な対話(Reflective Dialogue)とも称される段階。
プレゼンシング(Precensing)
その場で話されていること全体や、今、その瞬間に現れようとしているものやプロセスに真摯に耳を澄ませ、感じ取り、表現している状態。生成的な対話(Generative Dialogue)とも称される段階。
C.オットー・シャーマー『U理論[第二版]』(英治出版)
Leadership in the New Economy: Sensing and Actualizing Emerging Futures
Facilitating Breakthrough: How to Remove Obstacles, Bridge Differences, and Move Forward Together
上記の参考文献をもとに作成
この図を見つつマッキーは、「儀礼的会話をしている人ほどメンタル不調に陥りやすい。本心と仮面を分けている人ほどストレスを抱え込みやすいように見える」という、現場での実感も共有してくれました。
また、人数規模が増えると対話が成立しなくなるのではないか?という質問に対して、賢州さんはオープン・スペース・テクノロジー(OST)をはじめとするホールシステムアプローチ……1000人規模でも生成的な対話を実現できる哲学及び手法群について触れ、シチュエーションに応じた適切な方法を用いることで人数が増えても対話が可能であるとお話いただきました。
「ウェルスダイナミクス」という1つのレンズ
「多様性の受容から多様性を生かす組織へ」と題して賢州さんが紹介されたツールの1つが、ロジャー・ハミルトン氏(Roger Hamilton)が開発し、国内では宇敷珠美さんが中心となって紹介したウェルスダイナミクス(Wealth Dynamics)です。
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ペンギンは陸上ではよちよち歩きですが、一度水に入ればすごいスピードで泳ぐことが可能です。
また、牛に生まれついた場合、牛はどれだけ鳥になることを思い描いても、鳥のように羽ばたくことは叶いません。
それは良い悪いではなく、その本領を発揮できるかどうかは環境によって大きく影響されるという事実です。
賢州さんは自身が初めて入社した会社では営業に配属されたものの、営業スクリプトを丸暗記し、いざ営業から戻ったら出先での営業トークを一言一句漏らさずまめに記録に残すという働き方がどうしても馴染めなかったといいます。
一方、現在は自身で起業する選択をし、その後天職に巡り合ったことで現在に至る、とお話されていました。
メンタル不調者が組織において現れることは、組織が不健全な状況に陥っているというシグナルかもしれません。
では、人の内側から湧き上がる熱にどう火をつけ、多様性を生かす組織づくりを行なっていけるのでしょうか?
これまでさまざまなタイプ論や性格診断等についても研究しつつ、人の仕事ぶりや特性について直感的に把握しやすいと感じたものが、ウェルスダイナミクス(Wealth Dynamics)だと賢州さんは話します。
詳細について伺う時間は当日なかったものの、ご関心のある方は以下の書籍も参考にご覧ください。
終わりに
以上、当日の様子について補足情報等を加えながらまとめてきました。
このセミナーの最後には登壇者4名のチェックアウト……この場を終えての感想、メッセージを共有する時間が取られたのですが、特にニカさん、賢州さんの言葉が印象に残っています。
このセミナーにおいて、自身の経験からBowLの価値観、パーパスについてお話しされてきたニカさんですが、現在の社会に必要なのは組織支援、経営支援にとどまらず、教育の改革であるとチェックアウトでお話されていました。
現代の組織課題、経営課題に見られる病理は、子ども時代に始まる教育の仕組み、制度、あり方から始まっているのではないか?という仮説です。
この国に生まれた一人ひとりが、子ども時代から得意なこと・やりたいことを発揮する環境づくりのためにこれからの自分の時間を注ぎ込んでいきたいと語るニカさんからは、次なるチャレンジへのエネルギーを感じました。
また、賢州さんのティール組織に関する表現の中で印象的だったものとしては、「現代は、歴史上初めてさまざまな組織の作り方、働き方を選べる時代になった」というものがあります。
これまでは生まれた国、地域で定められた身分によって人生が左右されていた時代、組織の作り方も軍隊式のモデルしか存在しなかった時代から、移動や情報の自由化によって生まれた土地以外で働くことが可能になり、近年では男女差も縮んできています。
そして、たとえ企業の中にあっても、ボトムアップ的に自分のチームで、できるところから組織を変革していく道筋を経営学者ゲイリー・ハメル氏が見つけるなど、新しいパラダイムに基づく働き方、組織の作り方にも選択肢が広がりつつあります。
この日、この場に集まった皆さんの気づき、学びからどのような未来が生まれていくのか、今から楽しみです。
さらなる探求のための関連リンク
ティール組織ラボ|組織進化の情報ポータル
ホラクラシーとは?基礎から実例まで―経営の新潮流
Reinventing Organizations 10-year anniversary party live stream―Leadermorphosis podcast
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