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【記事翻訳】フィリピン、栄養価の高い遺伝子組み換え米「ゴールデン・ライス」の作付けを世界で初めて承認

今回は、IRRI(国際稲研究所)による『ゴールデン・ライス』という新品種に関する英語記事の翻訳文です。(原文はこちら↓)

IRRIによると、フィリピンは世界で初めて遺伝子組み換え(genetically engineered)された米🌾である『ゴールデン・ライス』の栽培を承認されました。

米農家の端くれとしては、フィリピンで開発されつつあるという米の情報が気になり、英語記事ではありましたが、一通り目を通してみることにしました。以降、私個人の備忘録も兼ねた翻訳文です。

フィリピン、栄養価の高い「ゴールデン・ライス」の作付けを世界で初めて承認

2021年7月23日、フィリピン・ロスバニョス発-フィリピンの農家は、規制当局の許可を得て、小児の栄養失調解消に役立つ栄養素を豊富に含んだ品種の米を世界で初めて栽培することになる。

ゴールデンライスは、フィリピン農務省米研究所(DA-PhilRice)が国際稲研究所(IRRI)と共同で開発したもので、体内でビタミンAに変換されるβ-カロテンの含有量を増やしている。

ビタミンA欠乏症は、フィリピンでは、最貧層の子どもたちの5人に1人、世界で1億9,000万人の子どもたちが罹患していると言われている。ビタミンA欠乏症(VAD)は、小児失明症の最も一般的な原因であり、免疫力低下の一因だ。


CGIARの研究機関であるIRRIの事務局長ジャン・バリエ博士は、

「この画期的な出来事により、フィリピンは、栄養不良や健康への影響の問題に安全で持続可能な方法で対処するための農業研究を活用する上で、世界の最先端を行くことになりました。ゴールデン・ライスの規制上の成功は、DA-PhilRiceの研究リーダーシップとフィリピンのバイオセーフティ規制システムの堅牢性を証明するものです」

と述べている。

ゴールデン・ライスは、フィリピンで最もVADの影響を受けやすい年齢層である幼児のビタミンA推定平均必要量(EAR)の最大50%を供給するように遺伝子工学的に設計されている。この新品種は、すでにオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカの規制当局から食品衛生上の承認を受けているが、商業栽培を承認されたのはフィリピンが初めてだ。また、ゴールデンライスは、現在、バングラデシュで最終規制審査を受けているところだ。

「私たちは、農家に最高品質の種子を提供し、すべてのフィリピン人に安全で栄養価の高い食料を供給することを約束します。」

DA-PhilRiceのエグゼクティブ・ディレクターであるジョン・デ・レオン博士はこう述べる。

「ゴールデン・ライスの包括的な品質保証およびスチュワードシッププログラムは、種子生産からポストハーベスト加工、販売までのバリューチェーン全体をカバーするように設定されます」

DA-PhilRiceは、VADやその他の微量栄養素欠乏症が多く見られる特定のコミュニティにゴールデンライスを最初に提供するために、市場やプログラムベースのアプローチを特定するため、現地パートナーとの協力を開始した。

また、種子の供給量を増やすなど、ゴールデンライスを農家に届けるために必要な活動を行っている。

これまでのVAD対策では、家族が食事に加えるサプリメントを提供したり、油や小麦粉などのバイオフォーチュン製品を提供したりしてきましたが、これらはコストがかかったり、栄養不足の家庭の行動を変える必要があったりします。ゴールデンライスは、すでに一人当たり年間120kg近く消費されている主食に、重要な栄養素を追加することになる。

IRRIの研究部門長であるエージェイ・コーリ博士は、

「ゴールデンライスのラストマイル配送は、コミュニティへの働きかけや普及サービス、農家の市場アクセスの改善なども含めた、栄養に対するフードシステムアプローチの一要素に過ぎません。」

「農家、消費者、環境のニーズに対応した米の品種を改良することで、遺伝子工学や遺伝子編集などの精密育種イノベーションは、フードシステムへのより包括的な参加への道を開くことができます」と述べている。

ゴールデン・ライスは、1980年代後半にインゴ・ポトリクス教授とピーター・ベイヤー教授によって考案され、IRRIは、2001年に2人の研究成果を初めてライセンス供与した

現在、IRRIの健康米プログラムでは、高鉄・亜鉛米(HIZR)の開発を進めており、世界の20億人以上の人々に影響を与えている複数の微量栄養素の欠乏に対応できる、β-カロテン、鉄、亜鉛を含む積層型品種の発売を最終目標としている。

翻訳を通して感じたこと:GMOに関する危惧

この、「ゴールデン・ライス」は、体内でビタミンAに変換されるβ-カロテンの含有量を増やしたこの米品種は、飢餓や栄養失調を減らすことができるとされていますが…。

遺伝子組み換え米という存在が、やはり気になります。

原文が、genetically modifiedではなく、より人工的・人為的な遺伝子操作であるgenetically engineeredであるところが、特に。

これまで、遺伝子組み換え食物はGMO(=Genetically Modified Organism)と呼ばれ、主食に応用することは議論が起こっていたと認識しています。

また、GMOによる在来種の駆逐、生態系への影響や撹乱といった問題は、これまでにも指摘されてきていました。(この点について、モンサント社(※現バイエル社)に関する取材をもとにした書籍をまとめたこともあります)

食に関する技術発展は、世界の飢餓や栄養失調を解決するために遂げてきた一面もありますが、それだけでもありません。

大災害や社会の変化に乗じて、混乱や苦境に陥っている人々の尻目に利益を上げんとする企業があることも、指摘されつつあります。

世界初の遺伝子組み換え米の作付けが行われるというフィリピンですが、日本ではどのように対応していくことになるのか…。

以降の情報も、慎重に見守っていきたいと思います。


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大森 雄貴 / Yuki Omori
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