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【短編小説】春の雨は桜を咲かす
「こりゃ催花雨やね」
「さいか、う…?」
「桜に早く咲けっていう雨や。ちょっと来るの早かったね」
大学試験合否結果発表の日。
奈良県吉野山で鮎を焼いているおばあちゃんがそう言った。
悪い意味で完全燃焼してしまい、家で合否通知を待つなんて到底できなかった私は電車に揺られて小旅行をすることにした。
しかし、終点で電車を降りると吉野山は雨に濡れていたし、目当ての桜もあまり咲いていなかった。
でも、帰る勇気もなかった私は立ち並ぶお店に入った。
そこで、冒頭のおばあちゃんに出会ったのだ。
「大丈夫や。きっとあんたの桜も咲くわ」
なにもかも見透かしたようにおばあちゃんはにっと笑い、私に鮎を差し出した。
鮎は美味しかった。
吉野山を出る頃にはもう雨がやんでいた。
家に帰るとポストに合否通知が入っていた。
一瞬怯んだが、あのおばあちゃんを思い出し、恐る恐るそれをめくった。
”合格”
桜が咲いた。
あの雨は私にとっても催花雨になった。