もち奉行のもちの焼き方指南とひとり言。
食べ物に関して、とんとこだわりがない。おにぎりは海苔でまっくろだし、鍋をやればこうなる。女子力っていったいなんだい。教えておくれよ。
最近流行りの、なんだっけ…。あの、大根おろしで作る鍋。クマがお風呂浸かってるみたいになるやつ。あーいう、映える食べ物が作れる人はすごいなーと思う。
見た目だけでなくて、基本食べることができるものは美味しいと思っている。みんなで外食に行って、「あんまり美味しくなかったね〜」に共感できたことがあまりない。「すごく美味しかったよね!!」はあるのだけど。評価が絶対的かつ5段階評価で4より下がない。
そんな私がほぼ唯一こだわる食べ物がある。
もちだ。漢字で書くとなんか違う。断固、平仮名で、もち。rice cake. お正月にも雛祭りにも欠かせない日本の伝統食。
ちなみに関東だからこうやって、ついたもちを伸ばして端を切り落としてから切り分け、角もちにする。こっちに来てから、丸もちを見て驚いた。「もちを丸める」という言葉もピンと来なかったなあー。あ、だから丸いのかっ、て思ったな。
この切れ端はまだ柔らかいうちに子どもたちのおやつになります。これだけは摘み食っても怒られない。角もちの特権だ。
中学生の頃英語を教えにきてたALTの教師がもちのことを「ゴム」「おばあちゃんキラー(喉に詰まらせるから)」と言ったのに対してマジギレの上爆発して学期中一度も口を利かなかったくらいにはもちが好きだ。ていうより、よその国の文化、特に食文化に対して敬意を払わない姿勢は私は大嫌いだ。それは置いといて。
焼いたもち、と言ってみなさんが思い浮かべるのはこういうやつだよね。
私はこれではダメなのだ。こうやって中身が膨らむ頃には周りには焦げ目がついてるでしょう?固くなってるでしょ??
もちろん、それが良い!という人もいる…というか私の方がマイノリティと思ってるので、個人の見解として読んでいただければと思う。
私はもちを、できる限り柔らかく焼き上げたいのである。自分以外の家族及び友人にもちを焼かせたことがない。もちを焼くのは私の役目で、誰にも譲らなかった。
呆れ顔の妹すら、「だって姉ちゃんが焼いたの美味いだろ!!?」と言うと納得していた。それくらい、私の焼くもちは美味しいと自負している。
うちのじいちゃんとばあちゃんは、年末とひな祭りの時期の年2回、必ず家族総出でもちをついた。私も小さい頃は手伝いに行った。最近はもらうばかりだったけど。
じいちゃんのもちは柔らかくてふわふわだった。言葉の綾じゃない。ふわふわだった。じいちゃんとばあちゃんがつくからこその、あの味あの食感だ。本当に美味しい。あぁ、みなさんにもご馳走したいなあ。私が焼いて。
そんな柔らかなもちを、柔らかいまま楽しみたかったのだ。じいちゃんのもちを焼くときは、市販のもちを相手にするときの数倍の緊張を持ってオーブンの前に陣取っていた。
オーブンを使わずトースターとかグリルを使う場合は火力が強い上に細かな温度調節ができないのでさらに注意が必要だ。片時も目が離せない。難しいのは灯油ストーブの上。冗談じゃないほど火力が強い。
さて焼き方だが。
焼くときは低温(210度くらい)でじっくりと。5分くらい焼いたら、天板の前後を入れ替える。見た感じが少し柔らかくなってきたら、もちの裏表を返す。
こうすることでまんべんなく熱が入る。火傷にはとても注意する。オーブンの火傷はほんとシャレにならないので。
そして、ぷくーと膨れる前に、そいつだけをうまく取り出す!
その瞬間の見極めが一番修行のいるところだが、大丈夫、5年も焼いていればわかってくる。膨らむ直前、やわらかくなった瞬間にもちが鳴くから。「ぷふひぃよ」って。本当だ。
このとき、膨らみ方もよく見てほしい。全体が霜柱のように持ち上がってくる(もちだけに)のが正解だ。どこか一部だけが膨らんでくるときは、最初からどこかが割れていた場合もあるが、だいたいは火の通りが均等でない。
つまりこの焼き方は、全体に火が通るギリギリを狙い撃つ焼き方だ。私も未熟な時分は、嬉々としてかじりついたら中がまだ固かったりしたものだ。そういうときの絶望感は筆舌に尽くしがたい。食べかけのもちをオーブンに戻す時の敗北感。醤油の焦げる匂いは屈辱の香りである。
だから、砂糖醤油に浸しながら、全体がふわふわに柔らかくなっているかを必ず確認する。
柔らかく仕上がっていたらクルリと海苔を羽織らせて完成だ。ああ、思い出すだけで食べたくなる。ていうか今日、食べた。市販のだけど。じいちゃんのが食べたい。あぁ、じいちゃんのが食べたい。
ただ一つ難点なのが、私はもちを焼くときはもちを焼くことにのみ集中するので、他のことができないこと。目でも離してうっかりぜんぶぷくーとさせてしまおうものなら、その日一日立ち直れない自信がある。
そのくらい、焼きもちにかける思いが強いのだった。
その情熱、ちょっとは冒頭の鍋にも分けてやれよって?
はは、私もそう思う。
そして我が家では父だけが唯一しっかり焼いたカリカリ派だったりする。私のこのこだわりは父には理解できないらしく、オーブン前に座り込む私をいつも不思議そうな目で眺めている。だから私も、父さんのだけはカリカリぷくーと焼いてあげるのだ。