見出し画像

『令和源氏物語 宇治の恋華』解説/第15章<翳ろふ>前編

みなさん、こんにちは。
次回『令和源氏物語 宇治の恋華』第二百二十一話は9月4日(水)に掲載させていただきます。
本日は第15章解説/<翳ろふ>前編を掲載させていただきます。


 母心

浮舟が姿を消したことで宇治の邸は大騒ぎです。
川へ続く廊の途中に無造作に脱ぎ捨ててあった衣がその行く末を物語っているようでした。
事情を知る右近の君と侍従の君は姫が自死したのだと悟りましたが、匂宮と通じていたことを他の者に知られるわけにはいかないもので、龍神にかどわかされたとまわりを誤魔化します。
しかしながら、浮舟の母親が宇治の邸を訪れて、何故姫が死ぬことになったのかと騒ぎたてます。
しかも薫の正妻である女二の宮が人を使って姫を弑したと推量する始末・・・。
困った右近の君と侍従の君は、仕方なく姫が薫大将を裏切り、匂宮と通じていたことを告げたのです。
娘が不義を働いていたとは。
母はあまりのことに衝撃を受けましたが、自分の妻の妹と愛人関係に陥った匂宮を軽蔑し、娘のしでかしたことを恥じて、心の中で薫に詫びるのでした。

 薫の思い

浮舟の死が薫の元に知らされた時には、すでに葬儀を終えた後のことでした。浮舟が匂宮と通じていたことを知っても薫はその事実を彼女にはっきりと問いただすことはしませんでした。
しかし、邸の警備を厳重にしたその態度から浮舟は露見したことを知ります。薫からはあの不義を示唆した手紙が送られて以降、何の消息もないことが浮舟には無言の非難と思われて、針の蓆に座らされたように苦しむのです。それでいて薫は自分を京に迎える意志を変えませんでした。
愛されてもいないのに、これほどの残酷なことはあるものか、と浮舟はまた苦悩を重ねるのです。
薫は自分の行いが浮舟を追い詰めたと後悔します。
そして愛する者同士を引き裂いた罪を蒙ることになるであろうと心に深い傷を負うのでした。
薫が思い悩むのと同じように、匂宮も浮舟の死に衝撃を受けて床に伏せってしまいました。上達部たちが次々に宮を見舞うのを聞きつけた薫は自分が参上しなければ不審に思われると宮の元を訪れたのでした。
薫は卒なくその場をやり過ごそうと考えておりましたが、やはりやり場のない気持ちが薫を苛み、とうとう心にあった宮への怨みを口にしてしまうのです。思わぬ激しい感情が自分の中にあったことを知った薫は戸惑うのでした。
悲しみに沈み、薫の後悔は尽きません。
しかしはたと浮舟の母君も同じように悲しんでいるであろう、と思い当るのです。今となって同じように浮舟の死を悼んでいるであろう哀れな母を気遣うのです。
薫は常陸の守とその子たちを引き立ててやり、北の方は慰められるのでした。この浮舟によってもたらされた縁で常陸の守も自分のすげない行いを悔いて子を亡くした妻をいたわるようになりました。

明日は、解説/15章<翳ろふ>後編を掲載させていただきます。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集