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令和源氏物語 宇治の恋華 解説/第19章 夢浮橋
みなさん、こんにちは。
長く掲載させていただきました「令和源氏物語」。
『紫がたり』約450話『宇治の恋華』250話にて完結致しました。
全話読み進めてくださった方、心より感謝致します。
本日は第19章/夢浮橋の解説を掲載させていただきます。
薫の乳兄弟・惟成
惟成は源氏に惟光という側近がいたように、薫にも近しい側近として創作した人物です。
宇治のお話は実は紫式部が書いたものではないという説があります。
NHKのドラマ『光る君へ』にもあるように、当時は印刷技術もなく、写本で物語が伝わった時代でした。宇治のお話はそれまでの物語ほど豊富に歌が詠みこまれている風でもなく、源氏の時代の後の話として賢しい女房が書き加えたのではあるまいか、ともいわれております。
このことから宇治のお話を帖名にこだわらず、創作を盛り込んで現代の方々に読みやすくと書いたのが私のお話です。
宇治の物語には源氏の物語のオマージュともとれる部分が散りばめられております。そこで源氏にとっての惟光のような側近として惟成という人物を創作しました。
これも薫の乳兄弟という設定です。
薫の側で彼の苦悩をいたわるように存在し、主人を敬愛して、君の為なら命がけの忠臣です。
浮舟と匂宮の関係に感づいたのも彼ですし、夢浮橋の帖では、想いあう主君と側近の姿を描きました。そして浮舟への使いとして宇治へと赴いたのです。物語には多くの登場人物がありますが、それぞれの人格を設定し、言動を描くことで深みが増すと私は考えております。
そういう意味では惟成はとても重要な脇役でありました。
浮舟の決断
浮舟は小君が薫の使いとなって草庵を訪れたことに心乱されて逡巡します。
原典では、思い悩みながらも返事も返さずうち臥してしまうのを尼君がなんとか言いつくろって小君を返すという程度の表現です。
薫の手紙をかつて結んだように結んで返す、というのは私の創作に他なりません。
やんわりと風をいなすような処し方であろうか、それでいて自分が浮舟であるということを知ってもらいたいという女心がそこにはあるのではないか、と考えたからです。
受け取った薫は浮舟の強い意志をそこに感じることになるでしょう。
そしてこの演出を入れることにしました。
夢浮橋
「夢浮橋」とは、儚いもののたとえで、困難な通い路などを表します。
この帖名は頑なに心を閉ざす浮舟へ続く道は立たれてしまった、という意味を持つのだと思います。そして、宇治への道は薫の過去の恋路そのものに違いありません。
源氏物語にはその帖名を表す歌が詠みこまれることが多くあります。
しかしながら、夢浮橋を詠みこんだ歌がありませんでしたので、最後に私が歌を加えました。
懐かしい月影たどる通ひ路や
まほろばに見る夢浮橋
(月影の元、通い馴染んだ恋路はもうこの世にはありはしまい。あれはまほろばの夢であったのだ)
こうして薫も心を閉ざしてゆく。
それでもさまざまな経験を経て、きっと昔ほどの疎外感や孤独はそそがれたでしょう。
薫は女二の宮を守って穏やかに暮らしてゆこうと心に決めるのでした。