『令和源氏物語 宇治の恋華』解説 第十二章/親心<前編>
みなさん、こんにちは。
次回『令和源氏物語 宇治の恋華 第二百七話 小野(一)』は、8月7日(水)に掲載させていただきます。
本日は第十二章/親心<前編> について解説させていただきます。
常陸の守との再婚
浮舟の母である女房の中将の君は八の宮の元を去り、娘を連れて実家へ戻りました。
しかしかつては大臣家であった家も没落し、中将の君は再び女房として勤めにでることに決めました。
女房として出仕する場合、給料のいい宮中や大臣家などやんごとないところに勤めるにはコネや伝手がなければ難しいものでした。
子供を養いながら勤めるには財力のある邸に勤めたいものです。
そこで財力を重視して受領・陸奥の守の邸に勤めにでることに決めました。
中将の君は教養もあり、洗練された様子でしたので、受領のような身分の家では優遇されたのです。しかし北の方に先立たれていた陸奥の守はこの人をなんとか妻にと熱愛したのでした。
子供を捨てることなどできませんし、中将の君は陸奥の守の求愛を受け入れることはできませんでしたが、姫を自分の子として受け入れるという約束を信じて再婚を承諾したのです。
再婚した夫は頼もしく、陸奥よりも実入りのよい常陸の受領へと出世しました。
結婚当初はそのように約束され、常陸の守も姫を可愛がってくれましたが、二人の子供が次々と生まれては事情が変わってきます。
継子の姫は常陸の守の子たちとは隔てて育てられ、別の対に住まわされて「対の姫」と呼ばれるようになりました。
左近の少将
常陸の守との間にたくさん子をもうけて立派な北の方となった中将の君でしたが、どの子もかわいい子には違いがありません。
しかし継子をかわいがる親の話など奇特なもので、常陸の守も同じように継子には関心を無くしておりました。
しかしながらさすが宮家の血を引く姫君は他の子供達とは器量が違います。
常陸の守が自分の子ばかりをかわいがるのが北の方は悔しくて、なんとか自力で姫の結婚相手を探そうと奮起します。
そうとはいっても賤しからず出世も見込めるような気の利いた若者はなかなかみつからないものです。そうした貴公子はどの家でも婿に欲しがるものですから、後ろ盾もない姫君など相手にされないでしょう。
そんな宮の姫が大切にかしずかれている様が仕えている者たちからもたらされ、左近の少将という若者が関心をもちました。
常陸の守の娘であると勘違いした左近の少将はその財力をあてにして後ろ盾を得たいと姫との交際を始めました。交際といってもこの時代ですから文のやりとりによってですが、北の方も良縁を得たと結婚を許したのです。
仲だちを務めた者もうまくやってのけたと安心していたところ、宮の姫が常陸の守の実子でないと気付くや、大慌て。
常陸の守に直接北の方の動向を伝えて、激昂させ、まんまと常陸の守の末の姫との縁談を取りまとめてしまうのです。
北の方は縁談を横取りされた形になりますが、成人して何年も経つ姫を放っておかれたことゆえに仕方なしと反論しますが、一度こじれると話はよけいにややこしくなるものです。
常陸の守は依怙地になり、宮の姫の為に北の方が誂えた上質な調度品も横取りしてしまうのでした。
明日は『令和源氏物語 宇治の恋華』解説/親心<後編>を掲載させていただきます。