ホスピタリティ(おもてなしの心)と力関係は全くの別物である。客と店員の関係性が対等になることを願う。
いままでも存在はしていたけど見えづらかった問題が、コロナ禍で表面化する。そういうケースがいくつか起こっている。「悪質なクレーマー」もその一例だ。
小売店や保健所、行政などなどに入る中傷や脅迫への対応に現場の人たちはどれだけ疲弊してるだろうと想像するだけでいたたまれない。
今の日本での客と従業員の力関係は、客の方が上だ。それは、本当に正しいことなのだろうか。
「おもてなし」確かに、その精神をもって対応してもらえることに心が温まることは多い。その場面はお店に限ったものでなく、知人の家に招かれた時も同じだ。
考えてみてほしい。あなたが馴染みのある知人の家に招待されたときに違和感や不満を抱いたとする。そのときどういう行動をとるか。黙っておく?こっそり修正しておく?言葉で伝える?それはどんな言葉や口調で?
そして、思い出してみてほしい。店や店員に対して違和感や不満を抱いた時、どういう行動をとるか。
もし違和感や不満を抱いたら、それは伝えていい。「おかしな対応をされました」「これは良くないと思います」そう言った意見は、店の運営や他のお客様のためにも必要な意見だ。実際に、そういった意見を冷静に伝えてもらえることは、ありがたいことだ。
だが、多くの人が知る通り世の中には「悪質なクレーマー」が存在する。そしてなんとも厄介なことに、このコロナ禍で存在感を増している。
「悪質なクレーマー」への不満はきっともうすぐ大爆発する。だからその前に、考えておこう。これからの流れを変えていくために。
悪質なクレーマーが悪質たる所以は、「店員より客の方が立場が強い」という力関係を盾に、抵抗できない店員を長時間拘束し、ひたすら文句を言い続け、店員に精神的苦痛を与えようとする振る舞いにある。
本人がどれだけ「正当な主張をしている」と思っていようと、相手が謝罪の言葉を口にするまで溜飲を下げない姿勢を強行することは、力関係を利用して相手を自分に屈服させようとする傲慢な振る舞い以外の何物でもない。その主張に実際に意義があろうと無かろうと、その行為の目的が「力関係を利用して相手を攻撃すること」になった時点で、その人の言動に正当性などない。
ここでもう一度想像してみてほしい。これが、馴染みのある知人の家に招待された場面ならどうするか、と。相手に人格や、感情や、大切なものがあることを認識しているときなら、どう振舞うか、と。何か不満があったからといって、相手を罵倒し、人格を否定し、相手が謝罪の言葉を述べてもなお攻撃し続けるなんてことができるだろうか。こう考えてみるとよくわかるはずだ。相手がもてなす立場にあるということは、相手を屈服させていいということじゃない。ホスピタリティと力関係は、まったくの別物なのだ。
立場的に相手がその人自身の意見を正当性を主張しないとき、人は相手にも自分と同じく感情があるということを忘れがちだ。
「店員」「職員」「先生」「お母さん」「芸能人」
「この人はこういう役割の人だから」という記号に惑わされて、相手は何を言っても何をしても壊れない存在だと錯覚してはいないか。自分のストレスや不満や苛立ちを発散するはけ口にしていいと思い込んではいないか。「店員」は無機質な存在じゃない。あなたと同じ感情を持ち、あなたと同じ日常を生きる1人の人間だ。
これからの接客業において、「客との議論」が一従業員としての正当な権利として認められることを強く願う。いまだに多くの接客の場面で、「客の言うことにはとりあえず謝るべきだ」という暗黙の了解が蔓延しているから。「自分の対応は間違ってない」と客に伝える、従業員が人格を持った一人の人として権利を行使できることを店の方針として尊重してほしい。従業員を守ることを、悪質なクレーマーをなだめることより優先してほしい。
いままで事なかれ主義で「とりあえず謝罪」してきた対応が、悪質な客の振る舞いを助長させてきた。意味のないクレームに延々と付き合うことも。
ホスピタリティ(おもてなしの心)を、客の言うことにすべて従うという主従関係だと履き違えた店側の対応が、「店員にはそういう態度を取っていい」という客の価値観を作りあげてしまった。
客は「何でもやってもらえて当たり前」なんかじゃない。店員は客の奴隷じゃない。お互い自立した一人の人間として、対等に自分の意見を主張しあうのが当然という価値観に作りかえていかなければ。
きっとこれは簡単なことじゃない。人は自分を守りたがる生き物だから。議論じゃなくお互いにクレームのつけ合いになってしまうことだってあるだろう。「自分は悪くない!」という立場を守りたくて、「お前が全部悪い!」「お前の間違いを認めろ」と。
全員が納得できるなんてことは起こらない。ルールやモラルをひとつに統一することなんて不可能だ。だからこそ少しずつ譲り合って、極端に不快な思いをする人が出ないようにしよう。そのためにどう振舞うべきかは、客と店員の両方がしっかりと考える必要がある。
お互いの気持ちを想像しよう。「自分だけが一番気持ちよく過ごせるように」という考え方を捨てよう。「クレームの内容に関わらず謝る」という思考停止の対応はやめよう。従業員を守るべき時か客を守るべき時か、考えるマネージャーを育てよう。
「ホスピタリティ」と「力関係」は全くの別物である。悪質なクレームには毅然とした態度で臨もう。
おいしいごはんたべる…ぅ……。