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中村文則さん【カード師】を読んで
カード師が刊行された。
この作品は朝日新聞で連載されていたのだが、中村さんは讀賣新聞、毎日新聞、中日・東京新聞でも担当されていたことがあり、もはや巨匠と呼ぶにふさわしい。
新聞小説は挿絵があるのがすごく良くてこの作品を本紙で読んでいなかったのが悔やまれる。
かつて「R帝国」が連載された時の分は全て切り抜いて宝物にしている。(もちろん単行本も買った)
毎日ラストに余韻と期待を持たせつつ締めくくるのは多大なストレスと緊迫感があると思われるが、私たちの日々の生きる糧となるのでまたいずれオファーを受けて頂きたいものだ。
♣️あらすじ
カード師の主人公は違法カジノのディーラーであり占い師。
ある組織から資産家の顧問占い師になるよう依頼を受ける。
大昔の王や大名は占い師や陰陽師などの助言を仰いでいたというが、この男も占いが当たらなければ始末するという恐ろしい雇い主。
全てを見透かしたような彼からどう逃れるか、逃れられるのかが最初のスリリングな場面。
♥️好きな箇所
占いをする為だけに借りた部屋で顧客の女性と向き合うシーンが好きだ。
主人公は相手の細やかな仕草や特徴を見逃さず元気づけようとする。
(占い師とはそういう職業なのかもしれないが)
彼と中村さんが重なって自分に言葉を授けてくれたような気になるからかもしれない。
これまでの小説に登場した人物がいるとオンラインのサイン会で言われていた。「迷宮」?
♠あらすじ
主人公が意図せず巻き込まれてしまうクラブ「R」でのポーカーシーンが圧巻で、臨場感がありそれぞれの息遣いが聞こえてきそうだった。
登場人物が10人と多いが、読み手の頭がこんがらがらないよう工夫されている。生と死を賭けた大勝負。駆け引きに挑発、高揚感と破滅。
こちらの心臓も跳ね上がる。
ここから怒涛の展開があり、ギリシャ神話、錬金術師、魔女狩り、超自然・・
雰囲気しか分からなかった部分もあるが、知識欲を掻き立てられる。
佐藤の手記からの最後は中村さんらしい仕掛けがあり二度驚いた。
♦️最後に
主人公は占いを信じていないが、その観察力と言葉で拠り所とする人たちを救って来たのは事実だ。
カードに何もかも持っていかれそうになるのを救ったのは自分の勘と本能。
表と裏、見方を変えれば裏と表。
人に希望を持たせるタロット、破滅に追い込むトランプ。どちらもカードで逆もありえる。
未来を知るのは神の領域、神は全能で救いなのか沈黙を貫く無力なのか・・
それでも人は生きていく。
人生は何が起こるかわからない。でも絶望だけじゃない。
「明日には希望が含まれる」
「きっと大丈夫」
この言葉を抱いてこれからも共に生きて行く。
素晴らしい小説をありがとうございました。
#カード師感想文 #中村文則 #読書感想文