映画が始まった瞬間に、うちがパリになる。フランスの大女優×日本人監督の繊細さが織りなす映画「真実」の魅力
とにかく、どこを切り取っても絵になる映画だ。
大女優カトリーヌ・ドヌーヴと、実力派ジュリエット・ビノシュ。フランスの演技派女優と、「誰も知らない」「万引き家族」でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督がタッグを組んだ、日仏合作の作品「真実」。
劇場で観て、今回2回目の鑑賞。自宅のリビングで観たのだが、舞台となる家、そしてすべてのシーンがあまりに美しくてうっとりし、雑然とした我が家が、パリにワープしたような気分でうっとり鑑賞した。あれこれいざこざはあれど、観た後は心がじんわり暖かかくなる。そしてこの映画を観ればおうちがパリになるのだから、何度でも観たい映画だ。
どんなシーンも絵になってしまうすごさ
フランスの大女優カトリーヌ・ドヌーブと、
ジュリエット・ビノシュ。
そしてパリの美しい景色。緑に囲まれた家。
日常の中の空気感とか、行間を描くのが最強に得意な是枝裕和監督のもとで、フランスの大女優たちが母と娘の確執を演じているその姿が、どこを切り取っても絵になって、見とれてしまう。
日本人監督がこれだけの大女優を使って映画を撮るということが過去にほとんどなかったと思うのだが、外国映画のようで、やはり日本映画の繊細なエッセンスが入っており、大女優2人の存在感と、繊細な感情表現があいまって、映画の雰囲気にのめりこんでしまう。
そしてジュリエット・ビノシュ演じるニューヨークの劇作家、リュミールの夫で売れない俳優役のイーサン・ホーク、そしてその娘シャルロットもナイスキャスティングで中和剤としてのいい味を出しまくっている。観ていて安心というか、全部がいい感じに収まるのだ。
もちろんその「どこを切り取っても絵になる」のは、当然、監督の力量とセンスによるところが大きい。光と影を巧みに使い、舞台や衣装、色遣いの調和など是枝監督のセンスはすごい。
©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA
いつも楽しそうに映画を創る是枝監督が好きだ
この映画を劇場で観た後、ドキュメンタリーのメイキング映像がNHKで特集されていたのだが、その番組で是枝監督がフランスとお国柄の違いに奮闘しながらも、かなり緻密に、そして周りと協力し合ってよいものを作ろうとする渾身の是枝スタイルで映画を作り込んでいる姿を見ることが出来た。
フランスは日本と違って家の広さが日本と違って広すぎるので、部屋の中を移動しながらセリフを言うのに要する移動距離を測ったり、大女優カトリーヌ・ドヌーヴが時間通りに来ないのが当たり前。とか、フランスの働き方が日本とは違くて、労働時間がきっちりと決められているので制限時間内で良いものを作る工夫をしなくてはいけなかったりとか、もちろん言葉の壁とか、その中で是枝監督がそんな環境を楽しみながら四苦八苦して、自分の憧れのカトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークを撮ることがたまらなく楽しいといった感じの熱量まで伝わってきた。
是枝監督のインタビューやドキュメンタリーを見ると、本当に映画が好きで、映画を創ることが大好き、という熱量のが伝わってくるので元気が出る。「真実」のドキュメンタリーも録画して、元気がない時にときどき見返している。
しかし大物ってやつは存在感がすごい
しかし、とにかくカトリーヌ・ドヌーヴの存在感がすごい。どこにいても、ただ座っているだけでも絵になる。初めてカトリーヌ・ドヌーブを知ったのは、大学の第二外国語でフランス語を選択し、劇中歌の歌詞を覚えさせられた「シェルブールの雨傘」だったが、そのころはさほど映画にも興味がなく、古いフランス映画だったので、カトリーヌ・ドヌーヴうんぬんよりも「モナムール~」と歌を覚えるのに必死で、その映画のすばらしさはいまいち伝わってこなかった。
けれどその映画は映画史に残るほどとても有名なものだというのは、だいぶ後になってから知った。勉強から入ると、名画も名画に見えないのかもしれない。
劇中でも大女優の役なので、どこまでが本物でどこまでが演技なのかさっぱりわからない馴染みっぷり。役名もドヌーブのミドルネーム「ファビエンヌ」。真実と嘘が入り混じっているという意味では、タイトル通りだ。
もう一人の大女優、ジュリエット・ビノシュも当然存在感があるのだが、この人は何をやらせてもとんでもなくうまく、ほんの一瞬の表情で、すべてを物語るような繊細な演技をする。若いころから名作にたくさん出演しているが、歳を重ねても魅力は変わらない。いまだ可愛らしさもあり、目の表情がとんでもなく豊かな女優さんだ。
また、イーサン・ホークはかなり若い頃からチャラめのダメ男を演じさせるとピカイチなのだが、なんとなく誰かに似ているなと思ったら、日本で是枝監督がよく起用するリリー・フランキーに雰囲気がそっくりだと気付いた。
あの、ダメ男なんだけど、どこか人間臭くて温かみがあるリリー・フランキーを、めちゃくちゃかっこよく、渋くしたら、イーサン・ホークになる。
さらにオーディションで選ばれた子役の女の子が、腹が立つほどかわいい。やんちゃな女の子の演技も自然で、芦田愛菜ちゃんを超えている。器用すぎて腹が立つが、めちゃくちゃキュートで上手い。あの子は大物になるのではないか。
映画評では、カトリーヌ・ドヌーブの雰囲気も樹木希林さんに似ているとあったが、わたし的にはそこはちょっと違うかなという感じだ。やっぱり主役を張ってきたプライドの高さと大物感がハンパない。どっちかというと、カトリーヌ・ドヌーブは加賀まりこに見える。
そしてカトリーヌ・ドヌーヴは、わがままで、母業を捨てて女優に邁進してきたプライドの高い女を演じているけれども、堂々とした風格の中に子供っぽさがあって、もうかなりの高齢の婦人と言えばそれまでなのだが、美しさの中に堂々さと可愛さと子どもっぽさが存在していて、食い入るように見てしまう。
そしてパリの街はやはりこれまたどこを切り取っても美しい。
ドヌーヴが全身豹柄のコートを着てタバコを出ながら歩くシーンは、是枝監督もその絵が取りたい!と言っていたが、これがこんなに絵になる人いるんだろうかと言う感じだ。
日本とは全く違う空気感で、どちらかと言うと是枝監督の日本映画は、貧困だとか、社会問題とか、家族内でのもめごとを描いていることが多い。今回も、母と娘の確執という意味ではもめごと、といえばもめごとだが、今までの思いテーマに比べれば全然軽い。楽勝で観られる。なので、今回はどんよりすることなく安心して見られるし、観た後にいろいろ考えてしまうこともなく、全体的に牧歌的な雰囲気が流れているので、何度でも気楽に安心して見られるところも好きだ。
是枝監督作で言えば、「海街diary」も景色が美しく、話もやっぱり家族内のもめごとがあったりするけど、結構安心して見られる作品の1つで、たまに観たくなる作品の一つだ。
それをもっともっと格を上げて、大女優の豪華版にしたのが、この「真実」だ。
是枝作品が好きな人の中でも、好みが分かれそうな作品だが、わたしは、とても上品で、ゴージャスで、それでいて日本人監督の繊細さが上手に出ている作品ですごく好きだ。
重いテーマの映画は自分が元気な時じゃないと見られないが、この映画はほんのり、じんわりしたいときに何度でも見たい映画だ。
ちなみに今回は劇場公開の時と違う「特別編集版」というのを観たのだが、時間にしては劇場公開版と10分程度の差で、男性陣のカットが少し追加されたイメージ。他の方のレビューではこっちが良かった、あっちが良かったとあるが、あまりそこまで違いがわからなかった。
男性陣の登場が少し増えて、男たちの会話がこんなふうに裏話としてあるんだなと言うことがわかったので、劇場公開版の女優メインで男がおまけというのよりは少しまとまりが出ているのかな。と思った。
特別編集版はAmazon Prime会員でも有料なのだが、今のところ劇場公開版はアマゾンプライム会員であれば無料で観られるので、(2021.7月現在)もし興味があれば見てみて欲しい。
是枝監督の次回作は、確か韓国と共同制作をしているようだ。また次回作が楽しみで仕方がない。
今日もお読みくださりありがとうございました!