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シノノメナギの恋煩い

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2024年5月の記事一覧

第二十四話 シノノメナギの恋煩い

第二十四話 シノノメナギの恋煩い

常田がとうとうわたしの家に引っ越してきた。数回泊まってうちから図書館、近くのスーパーとかお店とか駅とか歩いてここの方がいいと決めてくれた。

そしてわたしとずっとそばにいられるから。

男の人、恋人と同棲って初めてだから毎日が浮かれている。
「梛、おはよう。少しは落ち着いたか?」
「おはよう、ありがとう……すこしは、うん」
「梛が泣くなんて見たことなかったし……びっくりしたよ」
だってすごく傷つい

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第二十二話 シノノメナギの恋煩い

第二十二話 シノノメナギの恋煩い

今日はカウンターでなくて事務所内で作業。図書館内での作業も重労働だが歩いて回れるのでそこそこ楽しい。

あ、常田が入ってきた。今日は彼が早番でわたしが遅番だったから行き帰りすれ違い。

わたしたちは数日前に喧嘩した。寧々が出て行った件もあってわたしのイライラでちょっとした口喧嘩しちゃって。
社内恋愛ってあまり良くないってこういうことかしら。

「梛、今いい?」
常田は周りに人がいないことをキョロキ

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第二十一話 シノノメナギの恋煩い

第二十一話 シノノメナギの恋煩い

数日経ち、いつものように彼を見送った後に家に帰る。

寧々が居間に居た。各自の部屋以外は共同スペース。
わたしが常田と付き合ってから更にただのルームシェアになった。

会った頃は友達のように楽しくキャッキャしてたのよ。
互いに彼氏ができるとこうなるのね、そういうものしら。

でも周りからしたら本当の女と中身は男の外見女の偽物女の同棲なんていい印象なんてない。でも全くやましい関係はないから成り立つ訳

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第二十話 シノノメナギの恋煩い

第二十話 シノノメナギの恋煩い

それから常田は一時間後に戻ってきた。わたしはずっと流しっぱなしにしていた落語をBGMに色々考えていた。

これから二人で同棲しようかって……正直同居人の寧々が今の彼氏と結婚しないかなとか思ってるけど。図書館近いから一緒に通える。

別に常田の家でもいいけどさ……。1dkだし。それにあんな綺麗な部屋、散らかす自信がある。
あの綺麗さも彼が将来目が見えなくなったときに困らないようにしてあるやつだし、物

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第十九話 シノノメナギの恋煩い

第十九話 シノノメナギの恋煩い

今日は二人して休み。でも普通の休みではない。わたしは常田を乗せて市民病院に向かった。

彼の目の定期検診だ。付き合って初めて。わたしは送り迎えのみ。今までこの病院まで電車で行ってたなんて。

わたしは車の中で待つことにしたけど常田はすぐに戻ってきた。
「あと一時間かかりそうだから梛と一緒にいたくて」
手にはホットコーヒー。なんて優しい子っ……。

「どっかお店に行く?」
「ううん、ここで待つ。そう

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第十八話 シノノメナギの恋煩い

第十八話 シノノメナギの恋煩い

結局、ホテルまで行かずに常田の家。
そして、最後まではしなかった。何度もたくさんキスしてハグして……。

二人布団の中でくっついて寝る。
彼はボクサーパンツ履いて、わたしはこんな日に限ってグレーのキャミワンピとショーツ。でも可愛いねって言ってくれた。
わたしは断固して脱がない。脱いだらわたしの魔法が解けてしまう。彼が興醒めしてしまってはダメである。

「梛の肌はすべすべしてて柔らかい」
梛、呼び捨

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第十七話 シノノメナギの恋煩い

第十七話 シノノメナギの恋煩い

朝はいつもどおり本を回収に返却箱に行くと門男さんが待ってる。
「おはようございます」
「おはようさん」
絵本を紹介したことで、笑顔で挨拶されるようになった。隣には奥さんがいる。彼女もニコッとしてくれて、なんて微笑ましい……。

門男さんが新聞を読んでいる間に奥さんは孫のための絵本を選んだり、雑誌を読んだり。
そのあとは喫茶店でまったり過ごすようだが週に一回ついてくるようになったのだ。

「こないだ

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第十六話 シノノメナギの恋煩い

第十六話 シノノメナギの恋煩い

次の日、わたしたちは同じ早番だった。
「おはよ」
「おはよう……」

素っ気なく挨拶しているわたしたち。
でもなんかなんというかお互い気にしてしまうのか、意識してしまうのかもぞもぞしあってしまう。
言葉も交わさないけどたまたますれ違ったときに変に敬語だったり、業務中に手が触れ合うとドキドキしてしまって。

しかもこのあと四連勤。偶然にも同じ時間帯の勤務。

2日目、夏姐さんに勘づかれて速攻その昼は

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第十五話 シノノメナギの恋煩い

第十五話 シノノメナギの恋煩い

気づけばずっと手を繋いでいる。少し汗ばんでる常田の掌。なんでわたしはずっと握っているのだろう。

「ねぇ、あの高台行こうよ」
「うん……」
もう薄暗くて空が青黒い。そのうち外灯もつくだろう。常田のいう高台は高台と言うほど高くないけど一番上まで登れば市街地の夜景が一望できる。わたしの好きな場所だったりする。

てかなぜ手を繋いだまま登る? まだ登る? きついよ。心臓がバクバクする。
彼もゼーハー言っ

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第十四話 シノノメナギの恋煩い

第十四話 シノノメナギの恋煩い

「よりによってここですか」
「いいでしょ。デートし❤️たくないの?」
「したいっす、寺イイっすね!」
イイっすね! の顔をしてない常田。
わたしは仙台さんと話していたあのお寺に向かって急な坂道を下っている。険しい道だけどいろんな植物も生息していて。夕方近くもあり、人なんていない。

仙台さんとの下見デートの下見よ。常田とのデートじゃなくてあくまでも。てか仙台さんと下見したかったわよ!

これはちょ

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第十三話 シノノメナギの恋煩い

第十三話 シノノメナギの恋煩い

繊細さんを案内する。今までいろんな人から本を探してほしいと言われてそつなくこなしていたけどその中でドキドキするのは何でだろう。

そんなこんなでたどり着いた。このコーナーは新聞雑誌コーナーの近くにある地元の文献が置いてあるスペースである。
そして植物、そう……わたしもあまり見ないけど小学生や中学生が学校の課題とか宿題なんかで探しに来る人いるけど……あと山が好きな人とか。わたしはあまり興味ないからな

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第十二話 シノノメナギの恋煩い

第十二話 シノノメナギの恋煩い

あれから常田とは特に何も進展してないかというと、ないわけではない。
翌日は遅番で、裏口から入るときに彼が待ってたりしてーと思ってたらそれが現実になって。
なんで待ってるのよ。
「おはようさん、梛さん」
「あ、お、おはよ」
と変にたじろいてしまった。
そんな反応してしまったら好きだって、あのキスを受け入れたことになってしまう。だから普通に取り繕わないと、と思うたびに動きがぎこちなくなる。

「おもろ

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第十一話 シノノメナギの恋煩い

第十一話 シノノメナギの恋煩い

わたしはなんとか立ち上がり、家に向かう。常田にキスをされた頬、正確に言えば私のコンプレックスである少しでっぱった頬骨にキスをされたところに手を充てる。

もちろん今触ってもその時の感触は思い出せないけど……。酔っ払ってキスをしたのか、そうしよう。事故だったのよ、事故。

わたし心の中をかき回して……明日どんな顔で会えばいいの?

よく考えたら頬にキスなんてされたことがない。唇すらも。

にしても彼

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第十話 シノノメナギの恋煩い

第十話 シノノメナギの恋煩い

わたしたいはいつも図書館から歩いてすぐのさびれた商店街の中にある焼き鳥屋さんで飲むことが多い。
夏姐さんの家の近くでもあるし、焼き鳥も炭火焼きで美味しくて土手煮も美味いと夏姐さんが言うからだ。

確かに美味しいかもしれないし、最初の頃は古びた感じと庶民的な感じがいいなぁと思ってたけど毎回行くと必ず夏姐さんの愚痴大会が始まるのでわたし的にはイメージはあまり良くないのである。

案の定今日も酔っ払い、

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