第十五話 シノノメナギの恋煩い
気づけばずっと手を繋いでいる。少し汗ばんでる常田の掌。なんでわたしはずっと握っているのだろう。
「ねぇ、あの高台行こうよ」
「うん……」
もう薄暗くて空が青黒い。そのうち外灯もつくだろう。常田のいう高台は高台と言うほど高くないけど一番上まで登れば市街地の夜景が一望できる。わたしの好きな場所だったりする。
てかなぜ手を繋いだまま登る? まだ登る? きついよ。心臓がバクバクする。
彼もゼーハー言ってるけど登り道からの階段ってきつい。
「ついたーーー!」
「疲れたぁーーー!」
ようやく高台に登ったところで少しずつ街は灯りを灯しだす。とても美しい。
この景色が好き。夜景でなくても好き。でも夜景ならなおさらいい。
仕事やプライベートで辛いことあったらここに来て眺めているだけの時間が好き。
こうして誰かと来るなんて滅多にない。
「梛さん、きれいやなー夜景」
「そうね……」
わたしは手を見る。常田も少し気にしていたがシレーっと繋いだまま。
「からかうのよしなさいよ」
「からかってません、本気ですよ」
とか言うけど本気に感じない。少し風が冷たい。常田の手がどんどん温かくなる。
その手がわたしの肩に。……顔近い! ほぼノーメイクなのに。いや薄暗いからいいか。いや、よくない。
しばらくお互い無言になる。ふと横を見たら常田もわたしの方を見た。
「……梛さん」
「はい?」
ちゅっ
唇キタァァァァア!
でも軽くキス。え?
「好きです」
そんな軽いキスで本気だって言うの?
「常田……」
「はい……」
わたしは常田をがしっと抱きしめてキスをした。彼はびっくりして固まってるけど少しずつわたしを抱きしめてくれた。
舌を入れて絡めて、何度も何度もキスをした。角度を変えて……。体を密着させて。
なにしてんだ自分。もうわけのわからない舞い上がりでついスイッチが入ってしまった自分はもう制御不能。
わたしは仙台さんが好きなのに……なんで常田にしたことがないキスを?
すると常田。
「梛さん、2人きりになれるところに行きたい」
2人きりになれる場所なんてどこでもある。車の中でもそうだし、カラオケもそうだし。
なのにわたしの車はラブホテルに入ってしまった。
常田は助手席で黙って座ってる。着くと車から降りてキョロキョロ。わたしに寄り添ってきて手を繋いできた。
可愛い。こんな可愛い常田見たことない。いつもチャラい彼がこんなに潮らしくなるなんて。
もし仙台さんだったらわたしの腰に手を回してエスコートしてくれるだろう。
いや彼はラブホテルなんて似合わない。数回目のデートにどこか高級レストランでご飯してから、夜景が見える高級ホテルで……という感じだろう。はぁ、ロマンティック。
そんなことされたことないっ。妄想の中では何度もだけど。ましてやラブホテルなんて初めてだ。
って常田をラブホに誘導してるのにまた妄想してるのわたし。彼は照れて真っ赤になってる。
「明日わたしたち早番だから泊まらずに……」
と、部屋を探してるその手を常田が握った。
「いや、泊まりましょう」
!!!
常田のお泊まり発言からわたしは記憶がない。
シャワーもそれぞれ浴びて……
気付いたら布団の中。
彼は全裸だけどわたしは黒のキャミワンピを纏って。
バックミュージックはオルゴールのBGM。
2人寄り添って。しかも常田くんに腕枕されてる。
ああ、男の人に腕まくらされるのってこんな感じなんだ。ドキドキ。
オスの匂いをこんな近くで感じるとさらにドキドキ。
「梛さん」
「はい……」
「司書になってあの図書館に勤めることになって梛さんが僕の上司だって言われた時から好きやったんすよ」
だいぶ前からじゃん!
「その時に周りから梛さんが男って聞いて」
「ふうん……」
普通そこで諦めた男の人が多かった。諦めたというかひかれたというか。
何度も男の人に声をかけられてどのタイミングで自分の本当の性を告白するのか悩むところだけど今日みたいに盛り上がりすぎて抱き付いた時に体つきで男ってバレたり、トイレでバレたり……。
だから盛り上がる前に男であることを言うと、顔色変わるのよね、大抵。
常田はだいぶ前から知ってたのに……なんで。
「でも僕はずっと梛さんと働いて、近くにいて可愛いって思ってたんです」
「そうなんだ……」
そんな人珍しい。口ではわたしが男でも受け入れるよ、なんて言う人もいたけどやっぱり連絡がなくなった。
「よしっ、と思ってからかなりたっちゃったっすけどね」
今、横には常田がいる。わたしを好きでいてくれる……男の人がいる。
こんな歳にして初めて……。
て、こっからどうするんだろう。
するとグッと肩を引きよされてさらに体が密着する。
ひやぁああああ。
キスされて、こっからどうすればいいのぉおおおおお。
そんなことで悩んでたら仙台さんの時はどうすればいいのよ。それ全く考えてなかった!
常田くんわたしに覆いかぶさるっ。
黒キャミワンピは脱いだら幻滅されるし、同じもの持ってるし……どうすればいいの?
「梛さん、僕……チャラいキャラやってますけど」
はぁ。
「初めてなんすよ」
バックミュージックのオルゴールの音が大きく感じた。
続く
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