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第二十話 シノノメナギの恋煩い

それから常田は一時間後に戻ってきた。わたしはずっと流しっぱなしにしていた落語をBGMに色々考えていた。

これから二人で同棲しようかって……正直同居人の寧々が今の彼氏と結婚しないかなとか思ってるけど。図書館近いから一緒に通える。

別に常田の家でもいいけどさ……。1dkだし。それにあんな綺麗な部屋、散らかす自信がある。
あの綺麗さも彼が将来目が見えなくなったときに困らないようにしてあるやつだし、物を定位置に置いたりするのも……。

彼と付き合ううちに現実がみえてきた。わたしはそれに合わせて生きて行かなくてはいけない。彼の手をひいて、人生を共に過ごさなくてはいけない。

彼はわたしをのぞいている。相変わらずのニコニコ笑顔で。

「待たせたなぁ……薬でも並んでしもた。お腹すいたやろ、どこか食べに行こ……」
わたしは常田を抱きしめた。彼は何も言わず抱き返してくれた。頭ポンポン。なんだろ、このポンポンの効果。

そして、チュッってキスしてくれた。だからわたしもチュッとしてそっからキスキス。

「お腹すいた、はよ食べよや」
「うん……」


 ◆◆◆

ハンバーガーショップで昼ごはんを食べに行ったけど会話はなくて。食べ終わってそのまま帰ろうとしたけど、帰り道に常田がようやく話始めて。
「梛を抱きたい」
っていうから……少し抱きしめたらまたキスが止まらなくて。

「なぁ、ホテルいかへんか? ホテルやと道具とかいろいろあるし……いつもよりも声出せるで」
「ば、はかっ」

色々試行錯誤して……男女のカップルのようにセックスができないわたしたちは互いが気持ちよく、満足できるように……。

そうね、ホテルの方が……。ずっと今日は今後どうしようって考えてたからもう今が楽しければ……良ければって……現実逃避。

いつもコソコソしてる時よりもオープンに。
声もいつもよりも大きく出てしまうし、互いの欲望が爆発していつも以上に興奮した。


ホテルで天井の鏡を見ながら、彼の腕枕で。寄り添って……。
ピロートーク。
互いに疲れて、でもまどろんで。

「僕目が細いから目を開けてくださいーて言われてもこれ以上開きません! て言うても無理やり開けられてな。そこにピカーって光当てられるんや」
と検査の時の様子を面白おかしく話してくれた。どういうやりとりしてたか想像はつく。だがそう言いながらも辛い検査したのだろう。

今日はわたし、ピンクレースのキャミワンピにした。なんとなく明るい色の下着は気持ちも上がる。彼もこの色見て可愛いねって言ってくれた。

「薬もこれとこれ飲みましょねとかさ。増やされたわ」
「飲んだら良くなるの?」
「うーん、神のみぞ知る……やなー。そんなに心配せぇへんでもええ。今度は僕一人で行くから」
わたしは首を横に振る。わたしにも心配させてよ、一人で抱えることじゃないの。

「心配せぇへんでも何とかなる、何とかなるて」
何ともならないよっ……心配だよ。ってわたしは口で言えばいいのに。

「またホテル来ような。梛、めっちゃ可愛い」
話逸らさないでよ、ってまたキスされたからわたしたちは再び今だけの欲に溺れた。

続く

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