第十七話 シノノメナギの恋煩い
朝はいつもどおり本を回収に返却箱に行くと門男さんが待ってる。
「おはようございます」
「おはようさん」
絵本を紹介したことで、笑顔で挨拶されるようになった。隣には奥さんがいる。彼女もニコッとしてくれて、なんて微笑ましい……。
門男さんが新聞を読んでいる間に奥さんは孫のための絵本を選んだり、雑誌を読んだり。
そのあとは喫茶店でまったり過ごすようだが週に一回ついてくるようになったのだ。
「こないだ借りた絵本、莉乃ちゃんが大喜びでっ。気に入ったからまた延長しよかなーって」
奥さんは門男さんとは違ってハキハキしている。
門男さんよりも話が弾む。やはりわたしは昔から女性とはすぐ打ち解けるのよね……。
エレベーターで返却された本を運んでいると、常田がやってきた。
「この本予約あったはずだからカウンターに持っていって」
「はい、了解しました!」
と敬礼ポーズする常田。
かわいい。彼はスタスタとカウンターに戻る。わたしたちは恋人になる前と同じように業務ができるようになった。それは半月経ってから。
頭の中が全部彼じゃ無くなったし。
とか言いつつも同じ時間帯の出勤の時は行き帰りは一緒。
夏姐さん公認。だからまわりもなんとなーく気づいてる人もいるようだけどアンオフィシャル。
休みの日は隣町の図書館にデート。
それでおしまい。
帰りの車は常田がチュッチュと甘えてくるから……なかなか帰らない。でもわたしは帰らせたけどね。
「梛さんっ、小学校の仙台さんからお電話入ってます」
とパートの子が私を呼んだ。
せ、仙台さんっ。朝から! って私は常田と付き合っているのに浮かれてどうする。
だってこないだ……名前を教えてからその後すぐ電話が来て図書館見学の件で打ち合わせをしたいって。その後来てくれたのよね。
図書館を案内しながらどういう順番で、どういうことを案内するかを2人で考えたのよね。
するとその時仙台さんが
「なんかこうして図書館の中を隅々歩いていると梛さんとデートしてるって錯覚してしまうよ、なんちゃって」
なんちゃって?
頬が赤くなってたらどうしようって。いや、仙台さん来るから少しメイクを濃くしちゃったのよね。
そしたら案の定常田からやけに今日はメイク濃いって言われた。
ふと電話に出る前に常田と目があった。
なんかジーって見てる。あ、浮気じゃないのよ。お仕事なんだからっ。
「は、はぁい……東雲です」
しまった、仙台さんとわかっててつい声が高くなっちゃった。
『やぁ、梛さん。ごめんね開館すぐに電話しちゃって』
あああっ、仙台さんの声……。ドキドキしてきた。
浮気じゃないから、ほんとに。
◆◆◆
帰りのとき、常田が先に待ってた。
「お疲れ」
「お疲れ様」
いつも通り助手席に座らせてレッツゴー! そんなに距離はないけどこれが貴重な2人の時間。
でもなんか今日の雰囲気……なんかおかしい。常田、なんかむすっとしてる。外の景色見てる。
そして駅近くのコンビニで下ろすのが決まり。影になってるからキスもしやすい。
けど着いたのに降りるどころかキスもしてこない。どうしたの? 常田。なんか機嫌悪い。
と、そのときだった。
「梛、ホテルいこや」
「はい?」
……ホテル……?!
「梛の全てを愛したい……」
少し顔を真っ赤にしている常田。
「もう十分愛してもらってる……それにあなた明日早番でしょ? 私休みだけど」
彼は首を横に振る。
「一緒に日を跨ぎたいんや」
握ってきた手は凄くて汗が酷かった。
続く
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