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Game Play Airlines ゲームの美学
Game Play Airlines は、アーティストのジェレミー・コーティアルと筆者によるコラボレーションプロジェクト。
「ゲームの美学」=ゲーム研究の理論をアートの側からとらえて絵解きしたマンガを紙飛行機にのせて、世界中に飛ばします。
ここでは、プロジェクトの生成プロセスを書き留めておきたいと思います。このプロジェクトは、アート作品をつくることのみを目的とするのではなく、人と人との出会いや新しい発見のきっかけをつくっていくことを目指したているためです。アートは、美術館や展覧会場の中だけにあるのでなく、こうして読んだり、考えたり、友達とおしゃべりしたり…どこにでもあるということを、一緒に発見していければと思っています。
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「ゲームの美学」 プロジェクト
わたしは「ゲームの美学」と題してゲーム/遊ぶことの理論をアートの実践から考えるというプロジェクトをしている。フランス在住のアーティスト、ジェレミー・コーティアルは、そのアートの実践者としてのリサーチパートナーだ。2023年以来、ゲーム研究者で美学者の吉田寛とジェレミーとともに「ゲームの美学」と題したトークをハンブルク、大阪、東京で開催してきた。
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研究者、アーティスト、キュレーターの3人が意見を交換し合い、聴衆も交えてゲームや遊び、アートについて議論するなかで、そこから引き出される理論の持つ汎用性、つまり日常生活とのつながりをつよく感じるようになった。そこで、こうしてわたしたちが学んだ「ゲームの美学」の抽象的な理論を楽しい絵で描き、解説することでより多くの人と共有することを目標とすることにした。
ジェレミーならその役目に適任だ。たとえるなら、研究者が書きながら考えるなら、ジェレミーは、描きながら考えることのできる、絵描きだ。
Game Play Airlines プロジェクトは、こんな発想から展開した。吉田さんにはもちろん監修者/登場人物として参加してもらっている。
はじまり:紙飛行機というメディア
2024年4月のこと、ベルリンの街を歩きながら、わたしたちは頭を抱え込んでいた。アーティストのジェレミーは、この夏、京都で毎年開催される art bit というゲームとアートの展覧会に招待されている。ただしヨーロッパから展覧会に参加するための旅費は見込めそうもない。
「お金がないなら飛行機に乗って日本まで行けないね…。しょうがないから紙飛行機でも飛ばそうか…」なかば冗談でどこからともなく出たこの言葉に、閃いた。紙飛行機をメディアにする。
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本来、私の「ゲームの美学」プロジェクトはテキスト+イラストを紙に印刷して、artbit の展覧会場の片隅にそっと置かせてもらう予定だったのだが、むしろこれを作品化することにしたのだ。紙飛行機に「ゲームの美学」の理論の解説を書く/描く。折り線は、マンガのコマ割りにしよう。紙を折ることで飛行機になり、それを飛ばす、という単純な行為はそのままメディアの持つ伝播性につながる。飛ばす先はどこだと自由だ。ゲームの持つ「遊ぶこと」を語る媒体として、これ以上のメディアはないだろう。しかも平面の紙を折ることで立体的な紙飛行機になるという仕組みは、京都で行われる展覧会 art bit #4 のテーマ 「2D or not 2D」 というゲームとアートにおける二次元性ともうまくリンクする。
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Game Play Airlines 誕生
その後何回ものオンラインミーティングを重ね、6月にパリで会った時には、すこしずつ形ができ始めた。理論を易しく紹介するというストーリー性のあるイラストは、自由気ままなドローイングを得意とするアーティストのジェレミーには、かなり負担を強いていることも理解できた。しかもマンガにはコマ割りがある。しかしアーティストは、逆にこうした制約をバネに、クリエイティビティを発揮する。
そして、Game Play Airlines というプロジェクトコンセプトが浮かんだ。
遊びの空を飛ぶ航空会社。
展覧会に参加することの目的はアーティストによって様々だが、ジェレミーのように他のアーティストとのコミュニケーションを大事にするアーティストの場合、作品を出品することだけでなく、その場にいる人たちと出会い、意見交換し、思いを共有したいというのが根本的な意義だ。そうした経験が新しい発想、クリエーション、そして他のフィールドのクリエーターとのネットワークにつながるからだ。
たとえば、ジェレミーはハンブルクで吉田さんと出会い、東京で評論家/キュレーターの中川大地さんと出会い、それがこうして京都の artbit 展への参加につながっている。旅先での未知の人との交流が、新しい創造の源となる-そしてそれは、新しいゲームで遊ぶ時の喜びや発見とも似ている。
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ゲームと遊びの世界へようこそ
こうして、Game Play Airlines #001 が誕生した。
最初に選んだテーマは、「ゲームとは?」そして「ゲームで遊ぶこと」への問いかけ。マンガの骨子はこうだ。
登場人物
ゴズッブ(パックマンのモンスターになりそこねたオバケ、臆病者):ゲームのなかのキャラクター
ひろし先生(ゲーム研究者の吉田寛さん):ゲームボーイで遊ぶ乗客
シエンポ(ジェレミーのアヴァター、自由奔放で気ままな犬):パイロット
ユカちゃん(筆者):フライトアテンダント
「ねえ、ゲームってなに?」-ゲームの世界に生きる臆病者のゴズッブは、ひろし先生に問いかける。それに答えながらひろし先生は、ゴズッブに新しい遊び方を教える…
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ここですこし Game Play Airlines のパイロット、ジェレミーのアヴァターでもある犬のシエンポについて紹介しよう。
シエンポは、2005年札幌生まれ。ジェレミーが札幌のアーティストインレジデンス S-AIR に参加していた時に誕生した。なにかパフォーマンスをすることになったジェレミーは、人前で見せ物をするのはちょっとはずかしい…と思い、着ぐるみを作ってその場にのぞんだ。
親しみやすい「ゆるキャラ」のような見かけは観客に受けるし、こうしてスキンをかぶることで、何か別の自分が動くような、大胆になれるような安心感を感じたという。それ以来、シエンポはジェレミーとともに世界中を旅するようになった。
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右:未来へのガイド、シエンポ、La motte Cervolex(2020)
2015年にはシエンポは長い鼻を持つ、SF的未来志向の犬に生まれ変わった。その得意の鼻を効かせ、ジェレミーをガイドさえする。なにか面白いそうなものがあれば脇目も振らず近づく。好奇心のおもむくままに動くので、しばしば制御不能。とくに絵を描き始めると、とまらない…!
自分の手から生まれたアヴァターは、ときには理性を超えて無意識に湧きつづける想像力に導く。ゲームの中で動かす「キャラクターが自分の先をいく=フローステート」と似た感覚だろうか。
そしていま、Game Play Airplanes の操縦桿はシエンポの手にある。
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相棒のゴズッブは臆病者のためパックマンのモンスター試験にパスできなかったという。
最後に、artbit 展に出品した際のテキストを記そう。
あなたも、シエンポくんの飛行機に乗って遊びの旅に出ませんか?
旅は出会いをもたらす。20世紀に発達した飛行機は、遠くの人との出会いを叶え、私たちは新しい文化、新しい自分を発見した。70年代から始まったゲームプレイは、新しく素晴らしい世界への旅の出発ゲートだった。しかしテクノロジーの進展は資本主義を推し進め、旅を消費に追いやり、そしてゲームを産業にしてしまった。
ゲームプレイエアラインズは、「ゲームと遊び」の新しいワイルドな世界への入口だ。紙飛行機に乗って国境を越え、異なるルールのある未知の地へ行こう。ライフハック理論が旅の友だ。
遊び心と想像力が燃料だ〜どこまで飛んで行けるだろう?どんな出会いがあるだろう?
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記:2024年8月18日
Game Play Airlines #001は、こちらからダウンロードできます。
*絵の中のハックを見つけた人にはステッカープレゼント!
ジェレミー・コーティアル
https://jercortial.com/
https://cosmodule.com/
X (Twitter) & Instagram: @jercortial
吉田寛
『デジタルゲーム研究』(東京大学出版会、2023年)
YouTube「未来に残したい授業 吉田寛さん:ゲーム研究とは」
X(Twitter): @H_YOSHIDA_1973
art bit #4
キュレーター:豊川泰行、中川大地
現代アートのゲーム性とインディーゲームの芸術性の新たな可能性を追求する展覧会。毎年夏に京都のホテルアンテルームで開催される。
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「ゲームの美学」トーク
・ハンブルクのトークのレポート
・IGN Japan 東京大学「ゲームの美学」講演レポート:
ビデオゲームの外側「メタゲーミング」を知る
“手描き”でゲームに参加させるアーティスト ジェレミー・コルティアル
このプロジェクトは、公益財団法人小笠原敏明記念財団から研究を支援していただいています。このような実験的なプロジェクトを手がける貴重な機会をいただいたことに、ここに記して深く感謝申し上げます。
©️Yuka Tokuyama & Jérémie Cortial
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