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カラヴァッジョ 『バッカス』


カラヴァッジョ 『バッカス』 1596−97年 ウフィツィ美術館

ギリシャ神話の酒神バッカス。ワインや頭を飾るブドウの葉でバッカスと分かるものの、お酒が入った時独特のトロンとした表情や緩みきった雰囲気と身体つき、汚れた布や垢のたまった爪からは、とても神とは言い難い出で立ちです。


グラスを摘む指先をよく見ると、爪の中に垢が溜まっている


カラヴァッジョは古代やルネッサンスの時代とは違い、日常で見られそうな人物をキャンバスに落とし込みました。その為、バッカス神でありながら理想化されず世俗的で、街の居酒屋にいそうな若者といった感じです。


バッカスが寄りかかる背もたれのシーツの間から覗く汚れた枕も、下町の日常感があります。


シーツの合間から覗く汚れた枕、赤ワインが落とす透き通った影も素晴らしい。


その分、細部へのこだわりは相当なものです。前述した爪、酔いの回った目、紅潮した頬、気持ちよくなって「お前もどうだ」と言うようにワインの盃を出す仕草など、こちらも宴に引き込まれそうです。




描写だけでなく、象徴的な意味も込められた作品です。例えばテーブルの上に置かれた果物は成熟前のものから、腐りかけのものまで様々。これはヴァニタスといい、人間が生まれ成長し、死に至るまで表すと言われます。



一部の批評家は、ゴブレットに注がれたワインをキリストの血、ザクロをキリストの受難のシンボルとして、バッカスにキリスト的な要素を見出しています。



彼が酔った勢いで解いている黒い帯は死を意味しているとも。上記の内容を考慮すると、しっくりきます。




カラヴァッジョはこの作品を描くにあたり、当時同棲していたマリオ・ミンニーティという若者をモデルにしています。彼らが住んでいたアパートで描いたなら、生活感のある要素が強いのも納得です。



ウフィツィ美術館にいらした時の参考になさってみてください。


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