【良書】「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義
昨年秋ごろ、社内のエンジニアや営業職、管理部門…といった非デザイン関連職の人たちの前である技術発表をしました。その時にたまたま本屋で見つけて、参考文献として手に取ったのがこの『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(2015/5/6・誠文堂新光社)です。
当時、「Webサイト作った時コンセプト検討に一番時間をかけたし、一番大事なフェーズだから、ちゃんと説明したいなぁ…」と思いながらスライドをまとめていたものの、表現がなんだかしっくり来ず…。
難しく思われることは避けたかったし、誰にとっても身近なものとして伝えたかったのですが、この本がその手助けをしてくれました。
大学生向けの講義が元になった本だけあって、ともかくとっつきやすいです。
本の構成
第1講 なぜ、いい物を作っても売れないのか?
第2講 デザインは誰にでも使いこなせる
第3講 ブランディングでここまで変わる
第4講「売れる魅力」の見つけ方
あとがき
それぞれの講義の小見出しもまた、「お?」と思わせてくれるものが多くて読む前のテンションを上げてくれていい感じです。「”美大”にひるむのはなぜか」とか。
「ブランドとは、見え方のコントロールである」
良い商品だからといって売れないと言われるようになって久しいけれど、当事者からしてみれば、良いもの(と、少なくとも自身が思っている)ならば、「売れるはず」「売れて欲しい」という気持ちは自然と湧いてきますよね。
また、オシャレを楽しむ人はそれなりにいるのに、ブランディングやデザインという単語になってくると、途端に「何か特別なもの」になってしまいがち。本では、ブランディングとは何かという部分もたっぷり分かりやすく解説していたので、とても参考になりました。発表したときのスライドはこんな感じに。(社内の人は多くがエンジニアなので、たとえ話はエンジニア向きにして)
センスとは何か
「センスとは、集積した知識を元に最適化する能力である」
(略)
じゃあ、そのセンスをどうやって磨けばいいのか。これには3つの方法があると、ぼくは考えています。
ひとつめは「王道、定番を知る」こと。
2つめは「流行を見つける」こと。
3つめは「共通点を見つける」こと。
この本を読んでいた時、「センスって何」と聞かれたら、そういえば説明できないな…と気づかされました。
でも、"集積した知識を元に最適化する能力"がセンスだと定義づけできると、、たとえばプログラミングやシステム開発でエンジニアが日頃行っていることに紐づけることが出来るのでした。
・ロジックの王道を勉強する(デザインパターンとか、そこまでではなくても、ちょっとしたスクリプトとか)
・フレームワークとかその時々の流行を追う
・流行り廃りも含めた色々なものから共通点を探して、自分の知識やスキルが陳腐化しないよう苦心する
etc
デザインと経営
本を読み進めていると(というかかなり最初の方から)、デザインと経営のかかわりが深いことが分かってきます。この本は、ビジネス上の課題や経営上の課題を、いかにブランディングデザインの観点から解決してきたか、という記録でもあります。
2018年に経済産業省や特許庁から『「デザイン経営」宣言』がなされたばかりだし、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みに向けて必要なアプローチの一つに「デザイン思考」が挙げられたりもするけれど、浸透度はまだまだ。
デザインと経営がどう繋がっているのか腹落ちするためにも、「デザイン経営ってなにそれ」と思った経営層の方々が、この本と出会えれば良いのではないかと思います。内容が易しいからこそ、尚更。
まとめ
第1講の一番最初の小見出しが実は「どんな仕事にもデザインの視点が必要になる」です。これは別に絵を描けとかそういう事ではありません。デザインの視点やものの考え方がビジネスに役に立ってくるという話で、読み手がこのことを理解できるように、この本の各章で、あらゆる角度から説明をしている…といっても良いぐらい。
本では「デザイン思考」という表現も「デジタルトランスフォーメーション」の話も出てこないけれど、2020年の5G実用化や"2025年の崖"が目前になってきている今、タイムリーなテーマなのではないかなと思います。2025年には、もう少し「デザイン」という言葉が、「見た目」ではない本来的な意味が浸透していたりするのでしょうか…。そうであったら良いな。