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働く人の「切り替え」におけるセルフモニタリングの限界。仕事の切り替え困難に「気づく」だけでは改善に繋がらない!

土日も仕事のことを考えてしまったり、寝る前も仕事をしていることはありませんか?私もどちらかというと仕事が大好きな人間なので、気づいたら土日も仕事をしている、なんてこともあります。

業務時間が終わっても仕事から頭を切り替えられない….この問題は、仕事の過重負荷に繋がり、抑うつ症状や睡眠障害を引き起こすことが示唆されていることもわかっています。

このような自分の状況を正しく認識し、ストレスの原因や心の状態に意識を向ける「セルフモニタリング」とその限界について論じた論文があったので、そちらをまとめたいと思います。

論文名:働く人の「切り替え」におけるセルフモニタリングの限界―シフト制勤務の女性社員を対象にした調査から―/内村慶士さん


仕事切り替え困難とは?

内村は、働く人に対するインタビュー調査から、働く人一人一人が仕事から切り替えたい時間を持っており、その時間に仕事について考えてしまうことで「切り替えられない」というコントロール不能感が生じ、苦痛感が引き起こされていることを明らかにしました。

これは、反芻や心配などの否定的な反復性思考の構成概念とも重なる結果と
言われています。

反芻とは、過去の出来事や失敗に対するネガティブな感情や考えを繰り返し考え続けることを指します。
心配とは、未来に関する不確実性に対して、否定的な結果を予測し続ける思考パターンです。
反復性思考とは、同じ否定的な思考が意図せず繰り返される思考のパターンです。この概念には反芻や心配が含まれます。

否定的な反復思考では、思考の制御困難性が共通する要素の一つとして抽出されています。

内村は、この制御困難性が、働く人にとって主観的にどのように体験されているかを明らかにし、「切り替え」の中核的問題を示したものと解釈できます。

内村は、これを「仕事切り替え困難」と名づけて心理尺度化を行い、概念の妥当性や精神的健康との関連についての検討から、仮説を支持する結果を得ています。

参考文献:内村慶士,2020「働く人の『切り替えられなさ』の生起過程 に関する質的研究─反復性思考に着目して─」『産業・組織 心理学研究』 第34巻, pp.3–17

セルフケアの重要性

「仕事切り替え困難」は現代人、誰にでも起こりうるものです。

だからこそ、「仕事切り替え困難」により、うつ病や身体症状を発症したと想定される人などの、特定の個人に対象を限定するのではなく、働く人一般を対象にした予防的な支援を行うことで、全体の健康度を高めることができると考えられます。

こうした予防的な支援においては、組織風土の改善や環境調整などの「組織」の改善に焦点を当てた方法と、 「個人」が持つストレスへの対処能力、すなわちセルフケアに焦点を当てた方法の2つが考えられる、とこの論文では述べています。

仮説

セルフモニタリングが、「仕事切り替え困難」の低さとは相関せず、 対処行動とも無相関になると仮説を立てました。

一方で、普段から対処行動が積極的に取れる人は、セルフモニタリングを生かして、「仕事切り替え困難」を低減させることができると考えられることから、調整効果があると想定しました。

つまり、従属変数「仕事切り替え困難」 に対して、「切り替え困難への気づき」と対処行動の間に調整効果が見られると仮説を立てました。


予備調査

方法

仮説検証に用いる「切り替え困難への気づき」を測定することができる尺度が存在しないため、測定項目の 選定を行う予備調査を実施した。

2019年9月に、質問紙を用いた横断的調査を行なった。調査は企業勤務の正規雇用者を対象とした。調査協力者は、クラウドソーシングサービスを通じて行った。

尺度の構成:
a 「切り替え困難への気づき」
b 構成概念妥当性の評価に使用した尺度
ストレスへのモニタリング志向尺度、および Metacognitions Questionnaireの「認知的自己意識」 を使用した。

結果

回答データの整形には、Microsoft社が提供する Excelを使用し、分析にはフリー統計ソフトHADを 用いた。これは本調査においても同様である。

因子分析
最尤法による探索的因子分析を行った。
※詳細の結果は、論文をぜひご覧ください。

p540より抜粋

本調査


2019年9月に、質問紙を用いた横断的調査を行なった。研究者所属の研究機関で共同研究契約を結んでいた航空会社所属の正規雇用者を対象とした。

尺度の構成

a「切り替え困難への気づき」 予備調査から得られた5項目を使用した。 b「仕事切り替え困難」 「仕事切り替え困難尺度」より、3つの下位因子 において因子負荷の高かった4項目をそれぞれ採用し、調査に用いた。
c対処行動の傾向 「勤労者のためのコーピング特性簡易尺度」(以下, BSCPとする)を使用した。

結果

相関分析
使用した尺度の相関係数を算出したところ、Table 2が得られた。「仕事切り替え困難」と「切り替え困難への気づき」の間に高い相関が見られた。
※詳細の結果は、論文をぜひご覧ください。

p541より抜粋

考察

本研究から、「切り替え困難への気づき」が、「仕事切り替え困難」の改善に有効に機能しない可能性が示唆されました。対処行動のうち「仕事切り替え困難」と有意な相関が見られた「気分転換」を調整変数とした場合も、有意な関連を持たなかったことから、普段、対処行動が取れる人においても、「切り替え困難への気づき」を有効に活用することができていないと推察さ れます。

Wells & Cartwright-Hattonによれば、思考に気づきを向ける人ほど、制御困難性が生じた際に思考への注目が強まってしまい、ますます苦痛感が高まるとされているそうです。

「仕事切り替え困難」についても、「切り替え困難への気づき」が有効な対処に結びつかず、表層的な問題認識に留まってしまうため、気づける人ほど、仕事から離れられない苦痛感をより強く感じてしまっているのではないかと考えられます。

つまり、切り替えが難しい!という気づきがあっても、改善にはつながらない、ということですね。

これはとても面白いなと思いました。気づきがあればあるほど、仕事から余計に離れられなくなる。つまり、セルフモニタリングするだけでは、仕事切り替えはできないとも言えます。振り返ってみると確かにそうかも…..

仕事と生活の切り替えを自分で調整していくためには、セルフモニタリングに加え、自分へ労わりを向ける意識をどのように育んでいくかが重要になるんですね。

自分への労りって人によっていろいろですよね。
私は銭湯と、マッサージと、映画が、労りかもしれません。
気づき+自分への労りとセットで考えることが、仕事への切り替えには重要そうです。



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