人事評価と目標管理とは何なのか?①
部下の動機づけは職場により様々かと思いますが、1つに評価者面談があると思います。
では、そもそも評価者面談とは何でしょうか?今回は、2回に分けて、上司がどのような面談を行うことで部下の動機づけができるか考察した論文をまとめていきます。
1回目は、評価者面談の鍵となる、人事評価と、目標管理について先行研究をまとめていきます。
論文名:評価者面談が被評価者の動機づけにもたらす効果の研究 ―コーチングと自律性支援に着目して―/久保田康司さん
研究目的
日本の企業における評価者面談と被評価者の動機づけとの関係について、 評価者である上司がどのような面談を行うことで部下の動機づけができるかを理論的に考察すること。
人事評価とは何か
遠藤(1999)は、人事考課、人事評価、勤務評定、業績評価、人事査定など名称は様々であるが、これらは基本的に同一の制度を意味すると述べている。本論文においても、人事評価・人事考課・人事査定は同等の意味として扱うものとする。
人事評価の定義は論者によって様々である。 McGregor(1960=1966: 91)は従業員を経営目標に向かって努力させるために、従業員に対して指示をし、それが遂行されたかを判定して賞罰を与える人事管理の技法であると述べている。遠藤(1999)は産業心理学の研究成果を踏 まえて整備された、従業員の「働きぶり」を評 価しようとする制度であると定義している。本論文では、人事評価を企業の業績向上のために、社員の働きぶりや貢献度を客観的に評価し、人事管理上の諸決定に活 用するために整備された制度であると定義する。
人事評価では何を評価するのか
人事評価では社員の何を評価するのか。多くの企業では、社員の「成績」と「情意」 と「能力」の 3 つを中心に人事評価がなされてきた。
高橋(2010)はこれら 3 つを以下のようにまとめている。「成績」とは社員が担当する 業務をどれだけ遂行したかを評価するものであり、一定期間に従業員が示した実績や成果を判断する。「能力」は職務を遂行するうえで必要 とされる能力を、本人がどの程度保有しているか(保有能力)を評価するものである。「情意」 は与えられた職務に対する態度や意欲、行動などを測ろうとする。
社員の何を評価するのかについて、Beer et al.(1984=1990: 138)は達成成果と行動の企業文化への合致度という視点で社員の効果性を定義し、それを評価することを主張している。この達成成果と行動の企業文化への合致度を図示したものが図 1 である。
目標管理とは何か
人事評価制度において成果主義が注目されるようになると、「成績」「情意」「能力」の中でも「成績」に重点が置かれるようになり、その業績評価を行う具体的な方法として目標による管理が注目されるようになった。目標による管理(Management by Objectives : MBO) は Drucker(1954)が「自己管理による目標管理」 を提示したことによって始まったとされている。
Odiorne(1979=1983: 51)は目標管理について、 組織における上位と下位の管理者が協力して共通の目標を明らかにし、その目標に基づいてそれぞれの責任分野を定め、その基準により業務を遂行し、個々のメンバーの業績を評価するプロセスであると定義している。
Odiorne(1987=1993: 94)は目標管理について、すべての上司と部下が年度初めや四半期ごとに、または最低年に 1 回でも目標について協議することが大切で、このような協議は正式に計画されたものであり、目標、期待される 業績、優先されるものおよび計画について話し合いを行うことであると述べている。
以上のことからも、目標は上司からの押し付けではなく、部下と協議しお互いが合意できることが重要であるといえる。
目標管理の諸問題
Levinson(1970=2005: 74-6) は、MBO がうまく機能していない根本的な理由は「相手は人間である」という視点が全く欠けているからであるとしたうえで、次のような問題を指摘している。
①いかに詳細に職務を規定しても、概してスタティックなものばかりであり、結局のところ項目の羅列でしかない。
②あらかじめ設定しておいた目標や職務内容では、そこには記され ていない、個人の裁量に委ねられる領域をほとんど勘案できない。
③ほとんどの職務記述書は、社員がやるべき業務を限定する。
④業務を検証する際の関心事が部下へのカウンセリングにあるとすれば、業績評価では上司と部下が一緒になって、業務プロセス全体を考慮し、これを考察すべきである。
⑤目標を設定したり進歩させたりできない。なぜなら、そのための時間が短 すぎるばかりか、組織の様々なレベルにまたがるような交流が図られていないからである。
まとめ
ここまで、人事評価と目標面談を見てきましたが、定義は様々であることがわかりますね。
人事評価は、社員の働きぶりや貢献度を多面的に捉え、企業の業績向上や組織運営の最適化に貢献する重要な制度であることがわかります。特に「成績」「能力」「情意」のバランスが取れた評価が求められます。
目標管理は、成果主義に基づく評価を支える手法として有効ですが、実施に際しては上司と部下の協議や合意形成が重要であることがわかります。
人事評価と目標管理は、企業の成果向上に寄与する一方で、実践的な運用方法の工夫(目標管理は、上司と部下のコミュニケーションを強化し、業務プロセス全体を共有・考察する機会を増やす等)が求められます。
次回は、目標管理に関係する、評価結果のフィードバックとパフォー マンス・マネジメント、コーチング、内発的動機づけと外発的動機づけについてまとめていきます。