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今を生きる 株式会社キュア・エッセンス 代表取締役 宿原寿美子さん

「時代の変化と共に今は新しい枠組みで考える時、職種間の垣根を越えていろんな方たちと手を携えていけば太い道になる。だから今は人を育てるところに焦点を当てている」と仰る死化粧師であり、葬祭プロデューサーであり企業人材育成講師でもあり世界で活躍中の宿原寿美子さんにお話しを伺ってきました。

宿原寿美子さんプロフィール
出身地:横浜
活動地域:日本と世界で活躍中
経歴:
*株式会社キュア・エッセンス 代表取締役
*Restorative Artist/復元師
* 厚生労働省認定1級葬祭ディレクター
*日本ヒューマンセレモニー専門学校 フューネラル学科 ディレクターコース・エンバーミングコース 死化粧講師
*死化粧師・死化粧講師及び企業人材育成講師
*葬祭プロデュース
*一般社団法人ラポートケア協会 代表理事
座右の銘:今を生きる
MEDプレゼン 「~Hand in Hand~ 死化粧師の立場から想う事。」  
https://www.youtube.com/watch?v=uefJcy2si4s


Q:現在、死化粧師のお仕事をされています。今のお仕事を初められたのはどんなことがきっかけだったのでしょうか?

振り返ってみると父の死がきっかけかもしれません。

私は、商店街の中にある100年続く葬儀屋の長女として生まれました。  初代の祖父は前職が宮大工で、地域と共に育ってきた葬儀屋です。
私自身は家業を継ぐことを初めは強く意識してはいませんでした。

気丈な母からはずっと継がなくていいと言われていたこともあり、最初は大手アパレルの流通業界に就職しました。
商品構成や管理、店舗指導に従事しながら、販売、スタッフ教育、顧客心理も学んでいきました。

22歳の時に父を亡くしたことがきっかけで、家業の事を考え始めて母に相談した事がありましたが、その時はけんもほろろに断られたんです。
その後、30歳半ばを過ぎてやっぱり葬儀屋をやりたいと母に告げたのですが、「本当にやりたいのなら実家以外の所に行きなさい」と言われました。

当時、葬儀の専門学校が湘南方面に出来た事を知り、そこから社会人入学が可能な葬儀の専門学校へ一年通いました。


Q:その経験が、死化粧師(しげしょうし)とつながっていくのですか?

専門学校卒業後、入社した葬儀屋では、エンバーミング(遺体を消毒や保存処理、また必要に応じて修復することで長期保存を可能にする技法)を導入していたのですが、エンバーマーは海外の人でした。
ある時、亡くなった女性に真っ赤な口紅が塗られていました。
これは、ちょっと違うんじゃないか・・・とエンバーマーに言ったところ中々理解して貰えませんでした。

またある時、ご依頼頂いたご家族の方が、申し訳なさそうに「口紅の色を変えることはできませんか?」と言われました。
それがすごく気になったんです。ご家族はお金を払って依頼されているのに、なぜこんなことを言わせてしまうんだろうと。
当時いた会社では社員が死化粧をする事はありませんでした。
死化粧に興味を持ち始めたのはこのような事がきっかけになっています。

ある日専門の化粧品を調べていると、「こういうことを教えてくれるところがあるみたいよ」と母から死化粧のワークショップの葉書を受け取ります。

その先生は、アメリカでグラフィックデザイナーをしていて、モデルにメイク等をされている日本人でした。
9.11のアメリカ同時多発テロの時に、「特殊メイクは、生きた人を死んでいるように見せることが出来る。じゃあ、死んでいる人を生きたように見せることもできるのではないか」と法医学の先生であるお父様の言葉をきっかけに死化粧の技術を確立された方です。

ワークショップの受講後は時々先生のアシスタントもさせて頂きました。
最終的に自身で教える事も考えていたので、その経験は後に活かされる事となりました。
その頃、葬儀社を退職し卒業した学校で既に司会の講師をしていたので死化粧の講師もやってみないか?の声を掛けて頂きそこから死化粧に特化していく事になります。


Q:今は、どんなことに関心をお持ちなのですか?

今、考えているのは一般の方々に死生観について考えるきっかけを、どのように作っていけるのか?です。
日本では子供の頃から死生観を考える機会が少ないと感じているからです。自分の生き方を考える事と自分の最後をどう迎えたいか?を考える事はとても大切な事だと思います。

現在、超高齢社会に対応すべく行政(厚生労働省)の方でも、アドバンスケアプランニング(※注1)という動きがすすめられています。

実は昨年、大親友の幼馴染を病気で亡くしました。

春に腫瘍が見つかり、当初は本人も腫瘍を切除すれば大丈夫だと思っていたようですが、切除後の検査で他への転移がわかりました。
当初は、民間療法で対応したいと言っていたのですが、思いのほか転移の速度が早く……
夏に照射治療を始めたのですが、二度目の照射治療でそのまま入院となり入院先の友人から連絡があり翌日病院に向かいました。医師から秋を越せないかも知れないと告げられたと。。。本人の口からその事を聴きながら2人で泣いてしまいました。ただ、それでも彼女は1日でも永く精一杯生きようと決意をしていたようでした。

その後、緩和治療ができる病院に転院をして、穏やかな時間を過ごしていましたが、息を引き取るまでの3週間の間に彼女の不安や葛藤を目の当たりにしました。ただ、彼女から自分が死んだら、綺麗にして欲しいという事と葬儀も頼むからと言われていたのですが、私自身も気持ちの折り合いをどうつけたらいいのか分からなくなって………辛いと思うこともありました。

彼女は、娘さんとのボタンのかけ違いを最後に修復したいという願いを私に打ち明けてくれてもいました。

この仕事をやっていると、時に家族の複雑な関係を知ることがあります。
本来であれば最後を迎える前にお互いの関係が改善されていればと感じる事もありますが、其々の家族にストーリーやドラマがあって、時に家族が目を背けたくなる事もあるのかもしれません。
私の仕事は、最後に家族の想いを繋げる仕事なんだと思います。

以前から、病気になった人が亡くなる前にどのような思いでいるのか、またご家族がどんな思いでいるのかがとても気になっていました。
そういった声を聞き取って最後のケアが出来る人を育てたいし増やしていきたいと思っています。


Q:大変なお仕事ですよね。どんな人間力、人間関係力必要なのでしょうか?

葬儀のかたち1つ取ってみても、決して同じという事はありません。同じように考えてはいけないと思っています。

数年前、義理の母が自宅のお風呂場で亡くなりました。その時、家族はパニック状態になりました。
最初に倒れていた母を見つけた義妹は救急車を呼び義母は病院に運ばれたのですが既に亡くなっていたという事で警察が入りました。この様な場合警察としては家族に色々なことを聞きます。警察はまず事件性を確認するのですがそれが仕事ですから。
「家族関係は?」とか、「揉め事などは?」など。消去法で確認してきますが、皆さんは中々知らない事だと思います。そのような事を聞かれればショックを受けているご家族は更に傷つく事になります。
ですから、警察の方が入る場合は、あくまでも仕事として確認しなければならないので、傷つかないようにとお話ししています。

私が遺族の方と話をする際に心がけている事は、まず、亡くなった方がどんな方だったのか?そこに至るまでの経緯をゆっくりお聞きします。

そして、
常に心がけているのは、遠い親戚の葬儀屋さんのような立ち位置です。

中には葬儀ということで構えてしまう方もいます。ですから先ず信頼関係を築く為にしっかりとお話を聞きます。
家族間で話が纏まらない時もありますが、その時は、敢えて一旦席を外したりすることもあります。
皆さんの話が纏まったら声をかけてくださいと。

あくまでも私達はサポート役だと思っているので、家族でしっかり話合う事は大事だと思います。
この仕事をしていく上で、一番必要な事は傾聴力と気遣いと状況を読む力だと思います。

最近では医療関係者と介護関係者にエンゼルケア(※注2)セミナーや講習も行っていますが、職種間の垣根をなくしていきたいという想いを持って行っています。

医療関係者の方や介護関係者の方々はご自身の仕事に責任とプライドを以て向き合っていらっしゃっるなぁと感じています。

私達は亡くなってから関わらせて頂きますが、医療・介護の方々はその前の生から関わっていらっしゃるので、その大変さを私たちが理解しなければ相手もこちらの話を受け入れにくいと私は思っています。

亡くなった後の事は看護・介護の方々にとっては見えない部分でもあります。だからこそ、その内容を共有する事がお互いの垣根を無くす事に繋がるのではないでしょうか?

ですから看護・介護の方々が行うエンゼルケアは「最後の看護」「最後の介護」と表現していますが、そうお話しすると皆さん受け入れてくださるんです。

生きている時は「利用者」や「患者さん」・「家族」と呼ばれていたのが、亡くなると「故人」・「遺族」という呼び方になってしまいます。
同じ人なのに呼び名が変わるだけで対応が変わるのはおかしいなとずっと思っていました。
亡くなったからといって、関係がいきなり変わるのではなく、「私達がここまではしっかりやります。その後にバトンタッチしますね」といった繋がりを作って行きたいと思います。


Q:そこまで相手を思って行動できる心の在り方はどこから来るのですか?

インターネットが普及していない時代。
その時は、葬儀屋がチラシを撒くことも一切できませんでした。縁起が悪いといわれる時代でもありました。
でも結局、その家族に一生懸命したことが次に繋がっていきます。

「あそこにお願いすれば、全部やってくれるからと安心」と言ってもらえるような仕事をしなさい、ずっと母に言われてきたので、無意識でやっているところがあるんですね。

関わる以上はしっかり考えて動いて、一番は家族が安心できる状態にしたいと思っています。


Q:これからどんな美しい時代を創って行きたいですか?

今、子供が生きづらい時代だなとすごく思っています。子供の貧困問題がよく言われているじゃないですか。イジメとか自殺やDVなども。
どうしたら無くしていけるのか、自ら命を絶つということを出来るだけ減らしていきたいと思います。

今は昔と地域のつながりは変わってきていると思うんです。
血縁だけではなくて、新しい家族みたいな形が出来てくるのかなぁと。自分が付き合ってきた方で仲間を送ってあげるとか、そんな時代になっていったらいいのかなと思いますね。

専門学校の学生達に、映画の「おくりびと」(※注3)でニューハーフの方が亡くなったシーンをテーマに話をしたりしています。
今これだけ自分の「性」の主張が始まっている時代です。最後はどういう形でおくってあげるのが一番いいんだろうかと、そういうことが気になっています。
映画では、家族のもとに帰ったご遺体が外見は女性としてですが、「おくりびと」のもっくんが途中で気づくシーンがあります。男性だという事に。
でもその人は、女性として生きてきたんですよね。

ですから、最後は家族の気持ちが大切なのか?亡くなった本人の気持ちが大切なのか?今後はこういった事も都度考えていかなければならないのではないかと。。。

日本って、家族、特に血縁にこだわりが強い国ですね。海外では養子縁組の話も多く聞かれますが。
血縁だけでなく、新たな家族の形もこれからは出てくる様な気がしてなりません。
そういう人たちの想いも受け入れていけたらいいなと思います。


Q:最後に、人間の根本に関わってくる「生きる」という価値観。宿原さんの「生きる」とは何ですか?

なかなか難しいですが。
人は誰でも生を受けてから死に向かっています、人によってはその長さは様々ですが、自身の命を全うすることなのかなと思います。

今を生きる事が大切かと。

日本人って周りの評価を気にするじゃないですか。
一方で自分はこれがしたかったのに出来なかったと言ってしまいます。
後悔しない生き方をするというのが、それぞれの人生を全うすることかなと思うんです。ある意味良いも悪いも受け入れていく。

今、私が居る業界も変わっていかなければいけない時期に来ていると思います。
そういうところで、道がないところにどうやって道を創っていくのか、を模索しています。
それはひとりでは難しくて、いろんな方たちに手を携えて頂ければ、段々と太い道を創っていけるのかなと思っています。


※注1 アドバンスケアプランニング:将来の意思決定能力の低下に備えて、患者やそのご家族とケア全体の目標や具体的な治療・療養について話し合う過程(もしものための話し合い・人生会議)
※注2 エンゼルケア:医療関係者が死後に行う処置。
※注3 映画「おくりびと」: 2008年の日本映画瀧田洋二郎監督作。

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宿原寿美子さんの活動、連絡については、こちらから↓

・株式会社キュア・エッセンス

・Face book

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【編集後記】
今回、阿久津と山田が取材させていただきました。
葬儀という仕事も、時代の移り変わりと共に仕事の枠組みや仕事の内容が変わってくる。そんな中で、宿原さんは、今のままに甘んじることなく、いつも自分の中の疑問を大切にしながら新しい道を模索し開拓してこられました。そして今なお、新しい道を切り開こうとしている姿勢に二人で感動しました。
死に直面する不安定な時間の中に絶対的な安心感を提供しようとする背景には、自分自身の覚悟、人の心に寄り添う柔軟さ、今を生きる大切さ。それを感じ刺激を頂きました。
宿原さんのこれからの活躍が楽しみです。

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この記事はリライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。

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