脳梗塞の治療1。血栓回収療法とは?(大切な事を知ってもらいたい)
今回は、私の専門分野である脳梗塞(脳の血管が詰まる病気)の治療を
ご紹介したいと思います。
脳梗塞の治療のひとつである血栓回収療法をご紹介したいと思います。
血栓回収療法とは、2016年より本格的に始まっている治療ですが、
いまだに多くの県では有効に行われていないのが現状と思います。
血栓回収療法は、簡単に言うと心臓や頸部の血管から血栓(塞栓ともいう)が脳血管に飛んできて閉塞して起こる脳梗塞の治療法で、
詰まった血栓をカテーテルで取り除き血流を再開通させて脳梗塞を起させないか、または、脳梗塞の範囲を小さくする治療法です。
この治療の肝は、脳血管が閉塞してから、再開通するまでの時間が、
できるだけ短い方が、結果が良くなることが分かっています。
(3時間以内であれば、良好な結果が得られる可能性が高くなります)
1)MRA(MRI)で正面からみた正常脳血管は、
2)当院で脳血管が閉塞してから、再開通するまで最短時間で治療できた症例。
私たちの病院では、血栓回収療法の一番の肝が、「できるだか短い時間で
脳血管を再開通させること」であるという事だけに的を絞り、この治療の
啓蒙活動に力を入れてきました。
また、脳神経外科ホットラインを作り救急隊や地域の病院から、
直接TELが脳神経外科医に繋がるシステムを24時間、365日稼働させています。
現在、人口約8万人程度の地域にある中核病院の脳神経外科ですが、
1年間に80症例程度の血栓回収術を行っています。その中で72分という
発症から最短時間で再開通できた症例を提示したいと思います。
この症例は、近くの整形外科で突然、意識障害、失語症(言葉が出ない)
右上下肢完全麻痺と言う症状で発症し、誰が見ても脳血管障害と言う事で
整形外科の医者は、紹介状も書かずにホットラインで連絡してくれた上
すぐに救急車で患者さんを送ってくれました。
紹介状を書かない事が正解です。多くのお医者さんは、ご丁寧に
紹介状を書いてくれます。それだけで、30分はかかるでしょう。
また、症状が軽いと救急車ではなく、自宅の車で来院される方もいます。
症状が軽いくても、病気が軽症であるとは限りません。
脳血管障害は、時間が勝負ですのでその認識がとても大事なのです。
患者さんの経過です。
1)患者さんの経過
来院時検査は、主にMRIと治療の際、造影剤を使用するため腎機能をみるための血液検査を行いますが、1年以内の血液検査で腎機能障害が無いか
軽度の場合、MRIで診断がついたらそのまま、治療に向かいます。
できるだけ、時間を短くするための工夫を最大限にしています。
血栓回収術は、簡単であれば30分程度で終了します。
困難な場合でもできるだけ、1時間以内を目指しています。
いい治療も脳が回復する時間を超えると、全く効果のない治療に
なるからです。
2)患者さんの現病歴
不整脈はなく、心源性脳塞栓症(心臓の出来た血栓が脳血管に詰まる
病気)では、ありませんでした。また、頸部内頚動脈(血栓ができやすい)にも異常はありませんでした。発作性の不整脈が無いかどうかは、24時間心電図を治療後行いますし、径食道エコーで左心房内血栓(心臓内の血栓)の有無も治療後調べます。
3)来院時MRI
発症から30分程度経過したMRI検査です。(50秒程度で診断できます)
左大脳内側、基底核部が白くなり脳梗塞を起こしかかっています。
4)来院時MRA
脳血管を再開通させる方法は、血栓溶解療法と言って
血栓を溶かす薬を点滴する方法があります。2011年より
行われていますが、この患者さんのように脳主幹動脈(比較的大きな血管)が閉塞している場合、3割程度の患者さんにしか効果が無いのです。
そこで私たちの病院では、大きな血管閉塞の場合、血栓回収術を
治療法の第一選択にしているのです。
5)血栓回収術の手技の説明
手技と理屈は極めて簡単なものです。主に大腿動脈から
カテーテルと言う管を脳血管に挿入し、詰まっている血管の
血栓を貫きとおします。そして、そのカテーテルの中に、血栓を絡めとる
回収器を入れて、カテーテルを引いて来ると勝手に、回収器が血栓に
絡みつくので引っ張って血栓を取り除きます。
極めて容易な手技です。
6)患者さんの実際の治療
発症から時間がたつと血栓は、末梢に向かって(心臓から遠くに)
伸びていきます。だから、治療は発症からの時間が短いほど簡単に
なるのです。できるだけ早く病院に搬入されることがとても大切な
事です。この患者さんは、発症からの時間が短かったため
たった1回の手技で再開通が得られました。再開通と同時に
症状は消失して、じゃべる事ができるようになり、右上下肢を動かし
始めました。血管が再開通しない場合は、寝たきりないし死亡していた
可能性が高いと思われます。
7)血栓回収術翌日のMRI
たった30分程度の治療により、患者さんは、寝たきりから救われ
ました。とにかく、早く閉塞脳血管を再開通させることが
最も重要な事なのです。
8)血栓回収術翌日のMRI(MRA)
血栓回収術翌日のMRI(MRA)です。来院時閉塞していた血管が
完全に再開通しています。
9)血栓回収術翌日の患者さんです。
患者さんは、全く後遺症を残さずに済みました。これは、私の部下が
「一人でも多くの患者さんに喜ばれる治療を」と言うコンセプトに従って
24時間、365日脳神経外科ホットラインを持ち、自分の生活を犠牲にし
頑張ってくれているからこそできるのです。部下に感謝です。
10)ホットライン
これが当院 脳神経外科のホットラインです。地域の病院 救急隊に
お渡ししています。直接脳神経外科医にTELが繋がり、救急車の到着前より
血栓回収療法の準備ができるのが利点です。
3)血栓回収療法の問題。
以上のように素晴らしい治療ですが、問題点の改善が困難に
なっています。
それは、始まって6年が経つのにも関わらず、脳神経外科があると言う事
だけで、血栓回収療法をしていない病院に患者さんが運ばれるからです。
明らかに脳血管障害の症状なのに、血栓回収療法の出来ないところに
最初に運ばれると、その病院で検査だけで2時間程度時間を浪費して
しまいます。つまり、3時間以内に血管を再開通したいのに
多くの時間が治療できない病院で浪費されることになっているのです。
本当に患者さんを良くしたいという気持ちがあるなら、こんな簡単で
安全な治療をするべきだと思うのですが、しようともしないし
「早く治療を」と言う時間の観念が全く無いのです。これだけは、
私たちの力ではどうしようもできません。
皆さん方の家族が、脳の血管障害になったと思ったら、迅速に
血管回収術ができる病院を事前に知っておいて、救急隊にそこに運んで
くれるように希望してくださいね。とにかく、時間です。
脳は、臓器の中でも極めて短い時間で回復不能になる臓器なのですから。
長い文章を最後まで読んでいただきありがとうございます。
日本の医療は、理屈はこねますが、肝心なところに落とし穴があり
当たり前のことが当たり前にできていないことが多く見受けられます。
私の部下は、ひとりでも多くの患者さんを良くしたいと思い、
頑張ってくれていますが、発症から当院到着までに、2時間以上
かかるような状態では、後遺症を少なくすることが出来なくなるのです。
脳梗塞で寝たきりや死亡していた患者さんを6割から7割すぐに
社会復帰させることのできるすごい治療。血栓回収術を少しでも
知ってもらいたいと思い発信しました。ありがとう。