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サッカーの未来。Jリーグはどのようにリーグやクラブをデザインできるか?

今朝は、日本から出張で欧州に来ているという、Jリーグメディアプロモーションの茂木さんと、ミラノで朝食をする機会があった。茂木さんに色々と解説をしてもらい、新たに自分の世界が広がったように思う。

私はサッカーの情報には疎い。大学時代に友人に連れられて、試合を何回か観に行ったことがある程度で、決してサッカーファンとは言えない。そこで、スポーツおよびサッカー業界では、今どんなことが起こっているのか、サッカー業界のデザインについて自分なりにリサーチをし、考えてみた。

世界中で旋風を巻き起こしている、eスポーツ

eスポーツ業界は2020年までに14億ドルの価値があると予測されており、この事実はプロスポーツ選手を含む投資家の注目を集めている。企業は新しいプレーヤー、、およびゲーミフィケーション、人工知能、ゲーム関連のビジネス開発を含む仮想現実および拡張現実などの新技術の開発を推進している。

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            ーNewzoo「Global Esports Market Report 2019

ゲーム関連の企業や組織にとっては、スポーツ業界への関心が高まる可能性が高く、大きな成長の機会であることは間違いない。しかし、同時に身体の健康障害などの報告もされている。ビデオゲームを長く行うことでの、目の健康、筋肉のこわばり、肥満などが懸念されている。そして、さらに重要なのは、ゲーム障害、攻撃性の増加、うつ病などの多くの心理的問題に関連していることだ。

伝統的なスポーツは、若い世代の間では時間とともに人気がなくなるのだろうか。サッカーの価値とは何か。

「他のエンターテイメントにはないスポーツのワクワク感
「世界のスター選手を見る喜び」
「出身地が異なる人たちに、スポーツを通した一体感

もちろん、サッカーにネガティブな感情を抱く人もいるのかもしれないが、多くは上記のような、ワクワク感、楽しさ、情熱、一体感というポジティブなイメージを抱くだろう。

eスポーツでは、これらの要素をバーチャルで表現し、若者の関心を集めている。eスポーツは新しい市場を創り、今後急成長をしていくことが見込まれる。しかし、一方でリアルで本物の体験というのは同時に求められるだろう。

その際には、本物であること、ということがより一層重要視され、そうでないクラブやリーグは人気を維持するのはますます難しくなっていくことが予想できる。

ここからは、Jリーグについて考えてみたい。

Jリーグとは

Jリーグは、公益財団法人 日本サッカー協会の傘下団体として、プロサッカーを通じて日本サッカーの水準向上及びサッカーの普及を図ることにより、豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達に寄与するとともに、国際社会における交流及び親善に貢献することを目的とする。

1. 日本サッカーの水準向上及びサッカーの普及促進
2. 豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与
3. 国際社会における交流及び親善への貢献    (JリーグHPより)

サッカー業界のデザイン

Jリーグの知名度は、欧州では高くない。アジアでの認知は一定以上あるようだが、欧州に比べて低いのは間違いないだろう。サッカーおよびスポーツというと、国際試合で実績による違いだろうと考えがちだが、私は戦略的にどうブランドをデザインしているか、ということが大いに影響しているのではないかと思う。

今、サッカー業界で成功している国はどこだと思うか、という質問をしてみた。茂木さんは、イギリス、スペイン、そしてイタリアも一時期衰退していたが、今また回復してきている、という。

そこで、イタリア・トリノの歴史あるビッグクラブであるユヴェントスのデザイン戦略について調べてみた。

ユヴェントスのデザイン戦略

まず驚いたのが、この動画である。力強く、迫力のある映像。まるで、ラグジュアリーブランドのムービーのような権威、自信、優雅さを感じる。

2017年にロゴを変更した。伝統の「エンブレム」からのシンプルなロゴ変更。地元イタリアのトリノでは猛烈な批判もあり、Twitterでは一時期炎上したようだ。しかし、ユヴェントスがリブランディングを発表してから2年近くが経ち、このリブランディングについてはポジティブな意見に変わってきている。

ユヴェントスのもつ伝統や歴史を承継しつつも極限まで削ぎ落とし、表現したロゴ。

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                     (左が旧ロゴで右が新ロゴ)

伝統的な盾を表現したシェイプ、これまでのチームの象徴である黒と白のストライプ、そしてユヴェントスのイニシャルJを用いている。

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               — Logo formula. Image source: Brandemia

ロゴがシンプルになったことにより、ファッションとの相性が良くなり、デザイン性が高まっているといった点や、以下からも分かるように他のクラブのロゴとの差別化がされ、ユヴェントスブランドがより際立ったものとなっている

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          — Club logo's of the Seria A. Image source: Brand New

ユヴェントスのオフィシャルHP

価値の構築と、際立って異なることを敢えて行う勇気が、新たな市場を切り開く

価値の見えないブランドは、土台のない家のようなものだ。ブランドの歴史を紐解き、価値を明確にする。そして、同時に、従来の慣習や伝統の呪縛から抜け出し、市場の競合たちが何をしていて、どうすれば差別化になるかを考えることの重要性が、このユヴェントスの例から学べる。

*さらなる詳細は、このユヴェントスのリブランディングを担った、ブランドコンサルティングファームであるインターブランドのHPに記載されている。

Jリーグは何をどうデザインするべきか

ユヴェントスの例は、一つのクラブがどうブランドをデザインするかの話だ。では、そのクラブの集合体であるJリーグは何をするべきなのか?全く個人的な考えなので、的外れかもしれないが、私だったら、『移籍ビジネス』にテコいれをする。

現在、選手の海外移籍には、代理人と呼ばれる人が、選手と海外クラブの間に立ち、交渉を行なっている。大学時に私は法学部で法律を学んでいたが、将来、法律と交渉のスキルを磨いて、代理人になりたいというクラスメイトもいた。

しかし、選手の海外移籍にJリーグは絡んでいないと言う。

欧州に選手が抜かれている中で、そこで設ける仕組みを作ったり、他国から選手を獲得してきて認知度をあげたり、日本の優秀な選手を他国に売り出すなどの戦略を担っていない、というのは驚きだ。

現実には、代理人が直接、選手とやり取りをし、多額の交渉金をもらい、移籍をさせている。そこには、選手自身のブランディングは検討されているとしても、日本のサッカーの未来を真剣に考えている人はどれだけいるのだろうか。

Jリーグのミッションに照らし合わせると、世界のサッカー界で、どう日本がポジショニングをとるべきかをデザインしていくのは、Jリーグの役割のように感じる。

スポーツに対する日本人の距離感

サッカー含め、スポーツ全般に対して、今ではポジティブなイメージが想起すると思うが、実は歴史的に見ると『スポーツ (sports)』に対する意識が日本と他国では大きく異なる。

日本では、「スポーツ (sports)=体育」なんです。

と、茂木さんは言う。欧州では、「スポーツ(sports)=レジャー」であると言う。この言葉が印象的だったため、歴史を調べてみた。明治初期の文明開化で、他の多くの輸入文化と一緒に、「スポーツ」は日本に伝播した。輸入文化は、すべて日本語に翻訳されて日本人に消化吸収され、日本の文化として定着した。しかし、その時、適当な訳語としての日本語が存在しなかった。各種のスポーツ(特に陸上競技、体操、水泳等)が、兵隊の訓練や、兵士予備軍としての男子学生生徒の心身を鍛練する手段として活用されるようになる。やがて「運動」とか「体育」という訳語が用いられるようになり、世の中に軍国主義の色合いが濃くなるに連れて、「スポーツ=体育」という訳語が定着するようになったようだ。

一方、本来のsportsは、元々の語源が、ラテン語のデポラターレ(deporatare)。日常生活の労働から離れた、遊びの時空間。余暇、余技、レジャーといった意味。

ヨーロッパに来て思うのが、スポーツという文化が国民に浸透していること。日本では「スポーツ=体育」の意識が、まだ潜在的に存在していて、どことなく距離感を感じる。また、武道が代表するように、日本人の中でスポーツというのは精神性を重んじ、商業的なものではない、というイメージが強いように感じる。

スポーツ産業を発展させるためには、まず日本人独特のスポーツ観を変え、スポーツという文化の持つ豊かさとビジネス性に焦点を当てることで、スポーツ産業としての成長が変わっていくように思う。2020年にはオリンピック・パラリンピックが日本で開催される。これを機に、大きな変化が起きることを期待したい。


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