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静かな世界遺産の街で、洞窟たちに守られて眠った夜【イタリアひとり旅日記】

今年の梅雨ごろ、私は旅のルートで悩みに悩んでいた。選択肢は以下の3つ。

(1)イタリア縦断
(小さな村をまったり巡りたい)
(2)ポルトガル&トルコ
(いつか行きたいポルトガル+ひさびさに行きたいトルコ)
(3)モルドバ→ルーマニア→ブルガリア→北マケドニア→コソボ→アルバニア→イスタンブール
(ヨーロッパでまだ行けてないエリア+ひさびさに行きたいトルコ)

たぶんこれを読んでくれている方が想像する10倍ほど悩んだ末、(3)にしようと決めかけたころ、地図を眺めながらひらめいてしまった。

「アルバニアってイタリアとめっちゃ近くない?この旅、(トルコじゃなくて)イタリアで〆るってどう……?」

アルバニアと南イタリアの近さ

この瞬間から、もうそのルート以外考えられなくなった。

その地を歩いている自分をありありと想像してしまったが最後、もう我慢できなくなる国、それがイタリアなのだ(大学でイタリア語を専攻していたことも大いに関係していると思う)。

マテーラの洞窟住居の様子

この記事では、7月にイタリアで過ごした3泊のうち、1泊目の日記をまとめた。

前記事に書いたモルドバ→ルーマニア→ブルガリア→北マケドニア→コソボ→アルバニアに続くDAY8、南イタリアの世界遺産「マテーラの洞窟住居」を歩いた7/18(木)のことだ。

https://note.com/yuitabi1990/n/ncfdd501a232f

未練たっぷりのままアルバニアを後にする

大好きになったアルバニアの首都・ティラナから、飛行機でイタリア南部のバーリに行き、バスで世界遺産の街・マテーラへ向かう日。

前日の深夜にいろいろ調べていたら、ティラナ→バーリ便で利用するLCCの恐ろしい口コミたちを見つけてしまった。

機内持ち込み荷物は搭乗前に必ず測定され、少しのオーバーも許されないらしい。しかも規定のサイズがかなり小さく、私のバックパックはお眼鏡に叶わないようだ。航空券をプリントアウトしておかないと罰金、ともある。

これはまずい。荷物料金をプラスで払おう。……あれ、何度試してもクレジットカードがはじかれてしまう。

気が小さい私は不安のあまり眠れなくなったので、やむなく東京にいる夫に頼み、荷物料金を支払ってもらった。ホテルのチェックアウト時には、レセプションで航空券のプリントアウトを頼んだ。手を差し伸べてくれる誰かのおかげで今日も旅を続けられている。

前の記事の最後にも書いたけれど、アルバニアのティラナでは、最後に訪れておきたいカフェがあった。7時オープンとのことなので、オープンと同時に入店し、サクッとコーヒーを飲んで空港行きのバスに乗ろう。

80カ国を一緒に旅してきたバックパックとともに、早朝の異国の街で、ぼーっとカフェの開店を待つ。こんなに幸せな時間、人生にあと何回あるのだろうか。

……なんてポエミーな気分に浸っていたのも束の間、7時を過ぎてもカフェは閉まったままである。

こういうとき、もう少しだけ、もう少しだけと待ち続けるのは危険だ。飛行機に乗り遅れることだけは避けなければならない。

またアルバニアを訪れる理由ができたと思おう、と自分を納得させ、空港バス乗り場に向かった。

海外のバスでは、不安すぎて、下車するまでずっと乗車賃分のコインを手に握りしめている。降りるころにはコインがすっかり湿ってしまっていて、係員の人に申し訳ないと思う。でもやめられない。

ギャルみの強い経済学者と、イタリアらしさ溢れる入国審査について

前の記事にも書いたけど、今回の旅はトラブル続きだ。

空港には無事に着いた。でも、予定時刻を過ぎても搭乗が始まる気配はない。

「めどが立つまで座ったままでお待ちください」とアナウンスが入り、やっと搭乗してからもずいぶん待つ。結局2時間半遅れで離陸した。

機内では、隣の席のギャルっぽい経済学者から「ひとりで旅してるの?そういう女ってまじ最高〜!」と褒められてうれしくなる。私の読んでいた本を見て「え~と待ってね、日本語ってまさか縦に読むの?うそでしょ?初めて知った!」とコメントしてくれるなど、考えうる限り最高の隣人であった。

ティラナからバーリは思った以上に近く、30分足らずでイタリアに着いた。

「シートベルトサインが消えるまで座ったままでお待ちください」というアナウンスが流れると同時に、前後左右からシートベルトを外す音がして、全員が立ち上がる。その様子を見て「イタリアに来た!」という実感がじわじわと湧いてくる。

入国審査にて「イタリア以外のパスポートの方はこちらへ!」と“イタリア語で”一生懸命案内しているところや、激混みなのに窓口を2つしか開けていないところも、イタリアだね。

まわりのおしゃべりの中から“モッツァレッラ”や“ピッツァ”などの単語を聞き取り、「イタリアに来たぞ」感がますます盛り上がっていく。

結局、入国審査を抜けるまで1時間もかかり、空港→マテーラ行きのバスの出発時刻まで残り10分。これを逃すと次の便まで数時間待ち。バス停を探す時間も考慮すると全力ダッシュするしかない……と気合を入れていたところ、税関で急ブレーキ。

パスポートをじっくり見られ、「現金はいくらある?」と聞かれて、あわあわと答える。

税関で止められるのってめっちゃレアじゃない?イタリア、こういうときだけきっちり仕事するのはなぜ?


ともあれ、なんとかバスに乗り込む。運転手さんに行き先を確認し、料金を支払って、ほっとして周りを見渡すと、“While My Guitar Gently Weeps”が流れてきた。しっとりした曲だと思ってるけど、イタリアの空の下だとずいぶんご機嫌に聞こえるものだね。

思えばイタリアをひとりで旅するのははじめてのこと。“Via Dante(ダンテ通り)”なんて看板がバスの中から見えるだけでうれしくて、にやにやしてしまう。

まるで映画の世界のような「マテーラ」へ、いざ

今回のイタリア滞在は3泊。最大の目的は、世界遺産の「マテーラの洞窟住居」で洞窟ホテルに泊まること。

マテーラには数千もの洞窟住居があり、8〜13世紀ころから人が住み始めたんだとか。映画『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』のロケ地としても知られている。

「イタリアに行く」と決めてから、大好きなローマにしようか、行ったことないけど好きに決まってるシチリアにしようか……と考えていたところ、マテーラの写真を見てひとめぼれしたのだ。

根拠なく「マテーラの街が近づくにつれて、バスの中から洞窟群が見えるのだろう」と思っていたのだけれど、いっこうに見えてこない。あれ、見逃したのかな?と訝る私を乗せ、バスはきっかり1時間後にマテーラ中心部へ到着した。

バス停から20分ほどかけて、教会に寄りながら、ホテルまでの道を歩いていく。

イタリアをイタリアたらしめているのは音と色とにおいと光だ、と思う。

わりとダウナーな気分で旅するタイプだけど、イタリアでは人間が違ったようになる。

何もかもがビビッドで、でも過剰な印象はなく、歩いているだけで気持ちが上を向く。口笛や鼻歌が自然と出る。イタリア語のリズムが耳に心地よい。

旅の経験が積み重なれば積み重なるほど、新しい街に行っても「ここはあの街と似てる」と考えてしまい、新鮮さに欠けることが悩みだった。私が旅を通して満たしたい欲求は「驚きたい」だから、それでは正直もの足りない。

でもいまのところ、日本とイタリアとサウジアラビアだけは、ほかの国や街に似てるなんて思わない。私にとって本当に特別なのだと思う。

それにしても素敵な街並みだ……と、ふと振り返って、自分の誤解に気づく。

ここは「近づくにつれ、遠くに対象物(今回なら洞窟群)が見えてくるタイプの街」ではない。

「気づけば対象物の中に入り込んでいるタイプの街」だ。つまり、知らず知らずのうちに自分が世界遺産の一部になっている街。

通ってきた道を振り向くと、そこには思いがけない景色が広がっていた。

念願の洞窟ホテル&レストランへ

ホテルに到着し、つたないイタリア語を駆使してチェックイン。

ホテルの方が「イタリア語上手ですね!えーと、今後の説明はイタリア語で?それとも英語で?」と聞いてくださったところ、「英語で!お願いします!」と(イタリア語で)元気いっぱい即答してしまう。

4年も専門的に勉強したのに情けないけど、相手が笑ってくれたからOKだ、と思うのはいかにも関西人的すぎるだろうか。

気になっていたレストランがあるので、予約をお願いし、いよいよお部屋へ。

本当に洞窟だ。薄暗い感じもいい。誰も見ていないのに、少し遠慮しながらごつごつとした壁に触れる。ひんやり、すべすべしている。

洞窟ホテルといえば、トルコのカッパドキアが有名だと思う。私の場合、カッパドキアを訪れたのは学生のときで、貧乏旅行だったから、洞窟ホテルなんて選択肢に上らなかった。おとなになるって、本当に楽しいことだ。

たくさん写真を撮った後、「ここだけは行かねば」と思っていた大聖堂へ。芸術的な内装とどこかウエットな空気感が印象的で、360度どの角度に目を向けても見とれてしまう。

このまま長い歴史の中に飲み込まれていきそうなところを、写真を撮りすぎて熱くなったスマホに引き戻される。時間が許せば1時間でも2時間でも滞在したかった。

天井を見上げすぎて、首が痛くなった

マテーラのシンボル的な教会も、独特のたたずまいに目を奪われる。時間の経過とともに表情が変わっていくため、何枚も何枚も写真を撮った。

そして、このあたりで気づいた。観光客がたくさんいるのに、なぜかこの街はしんとしている。洞窟に音が吸収されていく、みたいなことなのかもしれない。

もうひとつ気づいたこと。マテーラには猫がたくさんいる。道ばたで出会うこともあるけれど、視線を感じて見上げたら屋根の上から見つめられていることも多々。

猫、います

部屋に戻ると、レストランの予約が完了したと知らされた。SNSで見つけた、ちょっといいお店だ。

海外では、余計なトラブルを引き寄せぬよう、質素な服装を選ぶタイプだ。だから今回も特別な服やメイク道具は持ってきていないのだけど、それでもできる限り身なりを整えて向かう。

選んだメニューは以下の通りで、合計100ユーロほど。私の感覚だと、ぼろぼろの服を着てひとりでとる食事としては相当高い。

本場のオリーブオイルは味が濃い
(フィンガーフード)ウォーターメロンとチーズ
名物、チコリーとお豆のペースト
カルテッラータ(ソーセージが入った太いパスタ )
ラムチョップ

ひとり旅のときに、ホテルの方にレストランの予約をお願いするのも、ちょっといいレストランで食事をとるのも、はじめてのこと。「たまには新しい経験を」と挑戦してみてよかった。

ただ、前日の睡眠時間が短かったので、コースの途中、椅子からずり落ちそうなくらい眠くなってしまったけど。

人出が多く、安全面に懸念がなかったので、23時ころから夜の散歩をスタートした。夜のマテーラは、昼間とはまた違った雰囲気になるらしい。

マテーラで夜を過ごせるのは今日だけ。眠い目をこすってでも、その風景を絶対に見ておきたかった。

この目で見たマテーラの夜景は本当に幻想的で、やっぱりしんとしていた。ひとしきり眺めた後ホテルに戻り、ごつごつした洞窟に守られているような気分でぐっすりと眠った。

▼翌日以降の日記

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